sideA4)リスの弁明
「あのヘビだけは、どれだけ食べてもなぜか不思議に何時だって腹をすかせている。普通のヘビは、一度獲物を捕まえたら一週間や十日くらいは大人しいものだ。目の前に別の獲物が現れても、知らんぷりだよ。……お前ら皆も、そうだろう? 腹一杯になってしまえば、それ以上は食べ物を見るのも嫌になる。」
コマドリの餌は虫です。
アナグマはミミズや地虫が大好物。魚を捕まえたり、ネズミを食べることもあります。
キツネはネズミやウサギを食べますし、鳥や虫も。木の実や根っこ、イモなど植物だって食べます。
クマはそれこそ何でも食べます。
そしてリスだって、木の実ばかり食べているわけではありません。虫を捕ることもありますし、死んだヘビを食べることだってあるんです。
けれども、お腹が一杯になってしまえば、どんな動物だってそれ以上食べようとは思いません。
リスが本当のことを話し始めたと判断したのでしょう。髭根はリスを解き放つと、地面に引っ込みました。
解放されたリスは、地面の上に胡坐をかくと、話を続けます。
「このままだと、森の全てがあのヘビに食べられてしまうのかもしれない。そうなってしまえば、俺だって生き残るのは難しいが、出来れば喰われるのは先に延ばしたい。……だったら、他の者に先に犠牲になってもらう他は無い。」
そして皆をにらみつけ
「真っ先に、自分が犠牲になって食べられてもいいってヤツは、手を上げてみろ! ここは根っこ広場だ。口先だけのきれいごとを言ったら、ヘビより先に楠に食べられてしまうがなぁ!」
「リスの言いたい事は分かった。俺だってヘビに飲まれるのは嫌だ。」
アナグマはリスの言い分を、しぶしぶ認めました。「虫やミミズは大好物だが、自分が食べられる方に回ると思うとゾッとする。」
「けれど、他の生き物を食べなかったら死んじゃうよ!」
コマドリが慌てて飛び立ちます。「リスさんとは違って、私も生まれて来る雛も、木の実で生きてはいけないんだよ!」
「やい、クマ!」アナグマが臆病者のクマに、指を突き付けます。
「お前は身体も大きいし、何だって食べるじゃないか。あのヘビをやっつけて食べてしまえよ。」
クマは頭を抱えて丸くなります。
「無理だよ。あのヘビは、どんどん食べてどんどん大きくなっている。今じゃ僕より大きいよ。僕の方がやられちゃうよ。」
「お前ら皆も俺と同罪じゃないか。」
他の動物たちの慌てぶりを目にして、リスがせせら笑います。
「自分以外の誰かが、先にヘビの餌になればいいと思っているんだ。だったら俺の事を悪く言うなよ。」
黙って成り行きを見ていたキツネが口を開きます。
「リスさんのやり方では、解決につながらないでしょうね。ここは一つ、皆で知恵を出し合ってはみませんか?」