side B4)願人坊主の入水
あるとき一人の願人坊主が藤崎橋を通りかかりました。
願人坊主は引き寄せられるように橋の欄干に登ると
「ありがたや。」
と叫んで、川に飛び込んでしまいました。
藤崎橋には『川に虹が映れば吉兆』という言い伝えがありましたから、見ていたひとびとは
「川面に虹が出たのに違いない。」
と橋に押しかけましたが、水面には小波があるだけで、虹は見えませんでした。
近くの村人は、舟を出して願人坊主を救い上げようとしましたが、金屑川から室見川をくまなく探しても願人坊主は見当たりません。
海まで探しても死体も上がらなかったということです。
このことを伝え聞いたひとびとは
「願人坊主は川の中に、補陀落浄土か竜宮を見て、そこに行ってしまったのに違いない。」
と噂したということです。
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『願人坊主の入水』筑前夜話拾遺 第226話 から
「願人坊主」とは、僧の身なりをしているが僧ではなく、依頼者の代理で参詣や修行を行うと称する遊芸人の一種。
「補陀落」とは、西方極楽浄土の一つで観世音菩薩が住まうとされた場所。補陀落渡海と言って、主に和歌山県熊野地方では、小舟で海へ捨身する行も行われていたことがある。
また博多には竜宮伝説は無いが、巨大な人魚が上がったという言い伝えは残されている。
1222年のことで、宮中から冷泉中納言が派遣されて、網にかかった147mもある人魚を検分した。
人魚の出現は瑞兆とされ、塚を築いて懇ろに供養された。
龍宮寺(福岡市 博多区 冷泉町)の「人魚塚」がその場所とされている。
今では人魚の骨は非公開だが、以前は龍宮寺の縁日には、盥に張った水に人魚の骨を浸し、参詣の善男善女にその水を振る舞うことが行われていた。