sideA3)森のさいばん
アナグマは、捕まえていたいたずらリスを楠の根元に降ろすと
「やい、正直に答えろ。大食いヘビに、卵や雛鳥の居場所を、教えていたのはお前だな?」
と問い詰めました。
「ええええ! それは本当なのかい?!」
コマドリは驚いて、楓の枝から落ちそうになりました。
「昨日、ヒバリさんの雛が食べられてしまったのも、一昨日、ツグミくんの卵が食べられてしまったのも、リスくんのせいだって言うのかい? 信じられないよ!」
「みんな、だまされるな!」
リスが逃げ出しながら叫びます。「乱暴者のアナグマが、ウソを言っているんだ!」
けれども地面を破って這い出した、無数の楠の髭根が、直ぐさまリスを絡め捕ってしまいました。
「ぎゃあああ! 助けてくれぇ。楠に……楠に食べられうううう!」
「裁判長! ちょっと待って下さい。」
右手を上げたキツネが、楠に頼みます。「刑の執行を行う前に、被告に訊いてみたいことが有ります。」
リスを洞に放り込もうとしていた根っこは、ピタリと動きを止めました。
「裁判長の判断から、リス氏がヘビ氏に密告行為を行っていたという点に関しては、間違いのない事実であると私も確信しました。」
キツネの言うのを聞いて、さすがのリスも暴れるのを諦めます。
「なあ、俺の言った通りだろ。俺はしばらくの間、リスの動きを探偵していたんだよ。」
「アナグマさん、君の見付けた事実を疑っているわけじゃない。」
キツネはアナグマに頷くと、言葉を続けました。「私が訊いてみたいのは、リス氏が『なぜそんな事をしたのか』という理由――動機という単語のほうが、裁判には相応しいかな――なんです。そこには同情の余地――えーと、情状酌量の余地――が、有るのかもしれないから。」
枝から落っこちたコマドリを頭に乗っけたクマが
「リスくん、観念して本当の事を言うほうが良いよ。……でないと、裁判長に食べられちゃうよ。」
と、ぶるぶる震えて黒い顔を青くしながら促します。
頭の上のコマドリも、うんうん頷きながら同意を示しています。
髭根に縛られたままのリスは、何を思ったのかクククと不敵に笑いました。
「こうなっては仕方が無い。動機を話してやろう。『死にたくない』ただそれだけの事さ。……アナグマ、コマドリ、お前らだって皆そうだろう? 死にたいヤツなんて居るものか!」