少々長いエピローグ
馬渡孝子は大濠公園に隣接した福岡市美術館で、展示された金印に魅入っていた。
福岡市博物館に展示してある事の多い漢委奴国王印だが、今日は美術館で凱旋展示されているのだ。
博物館が出来る前は、母里太兵衛の日本号の槍と共に、美術館の常設展示の目玉だったのが、久々の里帰りである。
孝子は祖父から聞いた曾祖父の想い出話を思い出して、頬が緩むのを堪え切れなかった。
「おや馬渡さん。金印に何か可笑しなところでも有りますか?」
不意に後ろから声をかけられて、孝子は飛び上がりそうになった。
振り向くと、彼女が通っている高校の校長先生が笑っている。
学校では目立たない存在である孝子には、校長先生が自分の事を知っていたことは更なる驚きだった。
――校長先生って、全校生徒を残らず認識しているのだろうか?
「失礼しました、館長先生。祖父から聞いた曾祖父の話を思い出していたのです。」
孝子には消え入りそうな声での返事しか出来なかった。
彼女が校長を館長と呼んだのは、彼女が通う私立 甘棠館高校には、そういう伝統が有るからに他ならない。西学問所と言われた藩校時代からの伝統なのだそうだ。
「その想い出話、是非とも伺いたいのですが、そろそろ時間だ。七色庵への道すがら、お話願えませんか?」
七色庵とは美術館脇に建つ大きな甘味処で、名物は虹団子伝説を基に創作されたという七色餅である。
孝子は今日、掲示板経由でメッセージを送ってくれた「えべっさん」と、その七色庵で待ち合わせをしているのだ。
――まさか館長先生が『えべっさん』?
「私は『えべっさん』ではありませんよ。」
孝子の表情を読んだ館長が、愉快そうに言う。「私は『ぬらりひょん』の方です。」
抜ける様な青空の下、美術館を出た孝子は、まだボウッとした頭のままで曾祖父のエピソードを話した。
「曾祖父は子供のころ、今津湾脇の今山という丘で遊んでいて、変わった形の石を拾ったのだそうです。ある日、人づてにそれを聞いた大学の先生が訪ねて来て、その石を一目見るなり『旧石器時代の石斧だ!』と驚かれたみたいなのですね。先生が譲って欲しいと言うものだから、曾祖父は石を拾った場所へと先生を案内し、先生が調査を終えて曾祖父の家へと戻ってくるまでの間に、砥石で石斧をピカピカに砥ぎ上げたのだそうです。戻ってきた先生は、キッチリ砥ぎ上げられた石斧を見て『これでは何の価値も無い!』とカンカンで、曾祖父は物凄く怒られたのだそうです。……それで祖父は曾祖父から『石は拾って来るものじゃないぞ。拾った石は祟ると言うが、あれは本当の事だ。』と何度も教えられたのだそうです。」
「旧石器時代の石斧か! それでは怒られるのも無理は無い。」
館長は頷くと「でも、子供にその価値が分かる訳も無いよね。」と微笑んだ。「石が祟るというのは本当の事だ、という感想も味わい深いけれどね。……さて『えべっさん』は、もう着いているかな?」
七色庵で二人が通されたのは、テーブル席の喫茶室から奥に入った、お茶席用の個室だった。
作法を知らない孝子はドキドキしたが、亭主の席に着いている和装の老人は
「お楽に、お楽に。主人と客とが対等なのが茶席です。うるさい形式は、後付けの権威付けに過ぎません。好きに楽しめば良いのですからね。膝も崩してもらって結構ですよ。」
と如才がない。「私も胡坐にさせてもらおう。齢をとると正座はキツくてね。」
「祭酒様、正座が辛いのならば椅子席にすれば良かったのに。」
と、同じく胡坐をかいた館長が吹き出す。「それに若い人を接待するのであれば、コーヒーか紅茶の方が無難でしょう?」
そして孝子に向かって「こちらの方が『えべっさん』です。祭酒というのは学問所の学長の事。そして藩校『甘棠館』が一時閉鎖になった時から、親魏倭王印の口伝を残す責任者の名誉号として、代々受け継がれているのです。実は私も副祭酒なのです。」と告げた。「『えべっさん』は、この七色庵の会長さんなんですよ。」
「代表権は息子に譲ってあるさかい、単なる隠居のジジイですわ。個室は茶室しか無いもんで、堪忍してな。」
『えべっさん』らしく関西弁を使ってみせる祭酒だが、そのイントネーションは見事に博多弁だ。文字のみの遣り取りでなければ、関西人でないことは簡単にバレてしまっていたであろう。
『たぁこ』こと馬渡孝子が自己紹介を終えたところで、お薄と七色餅が運ばれてきた。それにショートケーキとコーヒーも。
「館長さん? 亭主はお客の事を考えて、茶席を設えるもんですよ。」と『ぬらりひょん』にウインクした『えべっさん』は、『たぁこ』に対して「どうぞご遠慮なく。」と菓子を勧めた。「食べていただきながらで結構です。そろそろ本題に入りましょうか。」
「え? まだ『冒険者』くんが来てないですけど?」
『たぁこ』の疑問に、『えべっさん』が
「彼は今日、仕事が忙しくで来れないそうです。『ミステリマニア』さんと一緒に、発掘現場から離れられないらしくてね。」
と答える。「『たぁこ』さんに、宜しくと伝えて下さいとのことです。そして『たぁこ』さんが、口伝者仲間に入ってくれることを歓迎する、と。」
――??? 『冒険者』くんって、中学生じゃないの?
「彼は学者さんですよ。そして『ミステリマニア』さんは、『冒険者』さんの奥様です。」
『たぁこ』の混乱を見て取った『ぬらりひょん』が種明かしをする。「ネットに個人情報を晒すのは、危険が伴いますから。――『たぁこ』さんは、もうちょっと気を付けた方が良いでしょう。特定されたら、ストーカーが粘着したりしないとも限らない。あの質問掲示板ですら、時々荒らしが訪問して来ますしね。」
『えべっさん』も「『たぁこ』さんは理知的で魅力的な女子高生として、固定ファンがいるのは間違い無いなぁ。今後はHN換えるかなんか、対策した方が無難だわなぁ。」と『ぬらりひょん』に同意を示す。
自分は地味系女子で全く目立たない存在デアルと認識していた『たぁこ』には――ある意味新鮮な――驚きだった。
けれども、彼女の口から出た言葉は「『冒険者』さんは、なぜ掲示板にあのような質問を?」というものだった。急に自分の事を魅力的などと言われて、テンパっていたせいである。
「私たち親魏倭王印の在処を口伝する者――仲間内では『見守人』と言っていますが――密かにではありますが、随時新人募集中です。けれども、秘密が守れる人物であるとか、知的好奇心が旺盛であるとか、こちらから接触したい人物にはかなり厳しい条件があります。」
『ぬらりひょん』の口調は穏やかだったが、確たる信念が根底に流れているのは明白だった。
「それで、その条件に合う者を探すために、時おりネットの大海の中に鈎を垂らすのです。『冒険者』さんの質問は、鈎に差した餌だと言えます。」
「鈎に掛かった魚の中で、最も厄介なのは自己顕示欲が強い魚でね。」
苦笑しながら『えべっさん』が後を受ける。「今風に言うと『承認欲求』が強いとでも言うのかな? そんな魚は危険極まりない。――秘密を守れるはずが無いからね。そんな相手はスルーするんですよ。」
「でも……でも、邪馬台国の親魏倭王印は、歴史的に重大な発掘品になるはずです。まさか潮盈瓊や潮涸瓊の呪力があるとも思えないし。そんな貴重な遺物を眠らせたままにしておいて良いのでしょうか?」
『たぁこ』が真剣そのもので問うたから、『ぬらりひょん』の返答も直球だった。
「東アジア全域が平和で安定していれば、研究資料として公表するのが良いでしょう。けれども亀井南冥先生が、漢委奴国王印の存在を公表して以降、我が国の歴史においても、周辺諸国の情勢でも、常に激動の時代が続いていました。現在でもまだ、歴史学とは何ぞや、というものを分かっていない未成熟国家が存在していますしね。あれをプロパガンタのために政治利用される事の無い時期、というのが無かったわけで、公表するタイミングが訪れなかったのですよ。確かに一度は見守人の間でも、戦前の中国大陸東北部に『五族協和の王道楽土』という触れ込みで満州国が成立した時には、親魏倭王印を満州国皇帝陛下に返却するのが良いのではないか、という案も検討されたと聞いています。……まあ、満州国は成立してから13年で滅んでしまっていますから、返却などしなくて良かったと言えるでしょう。」
「昔むかしの話ばかり、というわけでもなくてなぁ。」
『えべっさん』が苦い口調で『ぬらりひょん』の後を引き継ぐ。
「海底に古銭をバラ撒いて自国の勢力範囲と主張する国があると思えば、前方後円墳が日本風の遺跡だからという理由で重機で更地にしてしまう国もある。公海の浅瀬を埋めて人工島を造り、領土と主張する遅れて来た帝国主義国家だってあるわけです。……彼らにとっては、歴史学は過去の事実の追求じゃなくて、単にプロパガンタの道具なんですな。ま、よそ様だけでなく我が国でも、金印が見つかったら政治利用しようとするモンが、右にも左にも居そうでしょ? 特に独裁国家と結託した勢力にはね。」
「そう言われますと……私の代でも、公表は無理かも知れないですね。」
『ぬらりひょん』や『えべっさん』の見解を、『たぁこ』も認めざるを得なかった。「私も何時かは、後継者探しをしなければならないのでしょう……ね。」
「だからこそ、あの掲示板サイトを運営したり、討論会を催したり、いろいろな手を打ってみているのです。掲示板は有効でした。『たぁこ』さんを発見出来ましたから。」
『ぬらりひょん』は満足げに頷いた。「童話企画は外れでしたけれどもね。」
「なんですか? その童話企画とは。」
『たぁこ』の質問に『えべっさん』が吹き出す。
「これ読んでみて。まあ、これだけじゃあビミョウ過ぎて、金印の謎かけだと読み解ける者は出ないでしょう。もし居たら、超能力者かなにかですよ。」
『えべっさん』が手渡して来たのは『小説家になろう 冬童話2019』という、投稿小説サイトの応募要項のキャプチャ画面をプリントアウトしたものだった。
その内容は、逆さ虹がかかる森に住む、ヘビ・キツネ・クマ・アライグマ・リス・コマドリを主人公に、ドングリ池・根っこ広場・オンボロ橋を舞台にした童話を創作するという企画だった。
「ああ! 『なろう』のこの企画には覚えがあります。私が小学生の時です。……いや、それに……この企画を意識したらしい変な童話を読んだことも。確か……『なろう』以外のサイトだったような気がします。登場する動物を全部まとめて検索したら、たまたまヒットしたんです。何故かホームページごと、直ぐに消えてしまったんですけど。」
『たぁこ』の記憶の話を聞いた『えべっさん』は、プリントアウトした紙束を『たぁこ』に差し出した。
「もしかして、この『蛇の印』という童話かな?」
「そう! これです。小学生のころに一度、流し読みしただけなのに、舞台が家の近所のせいか、妙に記憶に引っ掛かっていて。」
『たぁこ』が紙束を忙しく捲りながら、目を通す。「童話としての出来が、上手いわけではないのですが、背振山に行った食いしん坊の白蛇が、その後どうなったのかなぁ、なんてことがズゥッと気になっていて。」
「キミの努力、無駄になったわけでは無かったなぁ! あの駄作が道しるべに成ったわけか。いや……こんな風に繋がるとはなぁ。」
『えべっさん』が驚きを隠せずに、『ぬらりひょん』に頷く。「これ書いた無名の作者には、何ぞ礼を考えんとイカンだろうな。」
「実を言うとあの童話は、『たぁこ』さんを金印へ導く道しるべとなったばかりでなく、僕を『たぁこ』さんへと導く道しるべにも成ったのですよ。」
『ぬらりひょん』は、お薄を一口含んで喉を湿らせると、『たぁこ』に向かって語り掛けた。
「『たぁこ』さんは、私が貴女の事を知っていたのを不思議に思いませんでしたか?」
「ええ。ビックリしました。」『たぁこ』は正直に答える。「館長先生は、全館生の顔を残らず記憶していらっしゃるのか、と思いました。……でも、お話を伺う限り、私の方が何か足跡を残していたみたいですね。」
「足跡があったのは、甘棠館図書委員会が発行している『図書館便り』ですよ。そこに本名で『鬼ヶ鼻岩ハイキング――べんじゃあさんのシャクナゲを探して』という登山記を書きましたよね。――そう、掲示板に『はくじゃさん』の質問をした後の事です。」
――そうか! 『ぬらりひょん』さん=館長先生だから、あの「図書館便り」の散文で、私が『たぁこ』であるのが身バレしたんだ。
「なかなか良い登山記でしたよ。」『ぬらりひょん』が微笑む。
「特に、稜線に登った時の眺望についての記述が良かった。『片手には福岡平野。もう片方には佐賀平野。そして二つの平野を隔てる、うねうねと続く巨大な青龍。私は今、正に龍の背中に乗っている。冬になれば、峰々には雪が降り積もり、龍は巨大な白蛇へと化すのであろう。』――背振山地の連山そのものが背を振る龍であり、また白蛇であることを上手く説明していると感心しましたね。」
そういえば、と『ぬらりひょん』は感慨深げに『たぁこ』を見やると
「貴女が初めて掲示板に書き込みをしたのは、逆さ虹についての質問でしたねぇ。」
と呟いた。「縁が有ったのでしょうね。」
三人が和やかなうちに細やかな茶会を終えると、さて、と『えべっさん』が話を切り出した。
「それでは最後に残った謎、細石神社の金印は何処に消えたのか、について話をしましょうか。『たぁこ』さんは、本当に良い所まで推論を進めていたのですよ。」
『たぁこ』は「上ノ原のところまで、ですか? 安徳天皇の仮御所を建造中だった。」と質問した。「でも、その先が見当も付かないのです。」
「『怡土・高祖城落城記』は、最後までお読みになったのでしょう? 別に他の本やウィキペディアの記述でも良いのですが、高祖城が小早川勢に降伏する件まで。」
『えべっさん』からの質問に、『たぁこ』は深く頷いた。
「だったら書いてあったはずです。高祖城が開城する前に、城から落ちのびた幼い姫の話が。」
『えべっさん』のいう「幼い姫」が、輝姫であることは、『たぁこ』には直ぐに分かった。
高祖城が滅んだ後、糸島半島の北端に近い「野北」という漁村で一生を終えた姫だ。
古豪の原田家の姫として、栄華を誇った生活ではなかったにせよ、戦乱からは解放された一生だった。
父の元高祖城主 原田信種は、加藤清正配下の将として、蔚山の戦いで一族もろとも戦死している。
輝姫は里の者に守られて成長し、漁師と結婚した後は、自ら魚を行商して生活したという。
現在輝姫を祀るお堂は「落石さま」と呼ばれ、行商の神様になっている。
「『落石さま』という名前は、『お小さい姫君』からの転訛と推測されていますが、もしかすると『落ちのびて来られた高磯の姫』の意なのかも知れない、と思ってます。政争の道具などにしてはいけませんね。」
『えべっさん』は「落石さま」の由来を、そう説明した。優しい口調だった。
「それでは、金印は『落石さま』と御一緒に?」
『たぁこ』の質問に『ぬらりひょん』は「それは危険過ぎますね。おちいさまにとっても、親魏倭王印にとっても。」と応じた。
「近くに、正に御誂え向きの場所が有ったのですよ。野北という場所にはね。だから輝姫のお付きの者は、金印をそこに隠したのです。『石ころ一つ拾っても、木の葉一枚拾っても、鎧武者の亡霊が現れて、その夜の内に死ぬ』と伝えられ、恐れられていた誰も近づく事の無い魔の森がね。」
似たような話ならば『遠野物語』などで読んだことのある『たぁこ』だったが、生まれも育ちも福岡なのに糸島にそんな場所があるとは知らなかった。
「知らんかナァ。糸島の『オタッチョウ』と、佐賀の『キシタケバッソン』と言えば、昭和の時代までなら東京の『将門の首塚』と並ぶ超有名祟りスポットで、暴走族の肝試しポイントでしかない『犬鳴峠』なんか足元にも及ばんかったんだがナァ。」
嘆く『えべっさん』に、『ぬらりひょん』が「時代ですよ。」と笑顔を見せる。
「今はPRの時代ですからね。メディアへの露出が低いと、禁忌の場所でもそれがどこだか分からなくなってしまう。赤城山の『知らぬだの池』なんか、本当に誰も知らない場所になってしまっていますし。……それに田舎にあるホンモノは、ひと山いくらの肝試しポイントとは違って、相当鈍い人間でも自ずと近寄らないですから、どんどん寂びれて行く一方です。地方の過疎化も進んでいますから、昔と違って記憶を伝える人も減っているし、埋もれてしまう運命にあるのでしょう。」
そして、忘れられるという事が悪いばかりではありませんけれどね、と締め括った。
「じゃあ今でも卑弥呼の金印は、禁断の森に眠っているというわけですか。」
『たぁこ』はホゥと息を吐いた。
――祟りの森に埋められる事で、長い安寧の眠りについている邪馬台国のスタンプ。
『たぁこ』には鎧武者の怨霊が、おちいさまを守護する凛々しい騎士に思えた。
けれども『えべっさん』が、「いや金印はここに在るんですよ。」と床の間の桐の箱を指差したから『たぁこ』はズッコケそうになった。
――なんじゃそりゃあ?!
「昔、何度か心霊ブームが巻き起こった事が有りましてね、雑誌やワイドショーなんかで特集された各地の心霊スポットとされる所には、やたらと野次馬や自称研究者が押し寄せたのです。」
『ぬらりひょん』も苦笑する。「似た現象は戦前にもあったんですよ。怖いもの見たさという好奇心は、考える葦である人間にとって、普遍の本能の一つなのでしょうね。好奇心は猫をも殺す、と言うじゃないですか。それで野次馬に荒らされる前に、『えべっさん』の先々代祭酒が回収に出向かれましてね。」
「えー! 祟りは、起きなかったのですかぁ?!」
『たぁこ』は、我ながら何を馬鹿みたいな事、と感じながらも、裏返った声で問い質さずにはいられなかった。
「起きなかったみたいですな。」『えべっさん』が真顔で答える。
「何も盗って来るのではない、以前に預けた品をお返し願うだけだから禁忌には抵触しない、と理論武装して。それでも、七日間の、肉断ち酒断ちをして、清酒一升を手土産に向かったのだそうです。決死の思いだったのでしょう。」
「無事にお戻りになられて良かったですね。」と『たぁこ』が言うと、『えべっさん』は一つ頷いてから
「先々代が亡くなったのは、福岡大空襲の時です。畳の上で亡くなられたわけではないけれど、一度に大勢の方が犠牲になった空襲だから、祟りとは無関係なのでしょうね。」
と桐箱に向かって一礼した。「箱は土蔵の床を深く掘って埋めてあったのだそうです。」
「それでは御対面して頂きましょかね。」
『えべっさん』はそう言って、床の間の桐箱と白手袋を『たぁこ』に手渡す。
『たぁこ』が慎重に蓋を開けると、中には絹布に包まれた立方体が、真綿の中に埋まっている。
『たぁこ』が絹布を解くと、黄金の輝きが目を射た。
終
お読みいただき有難うございます。
いや~、やってしまいました。
最後までイジッていたら、冬童話企画の提出期限をオーバーしてしまいました。
ん~……藤原純友の乱のエピソードを組み込むかどうか、最後まで迷っていたのですね。
失敗じゃあ!
これも「某祟りスポット」を作中に組み込んだ罰があたったのかも知れません。
それでは失礼いたします。