sideA5)たいさくかいぎ
「森のみんなと示し合わせて、森から逃げるのはどうだろう?」
コマドリが一つアイデアを出しました。
「食べ物が無くなれば、ヘビはどこか別の場所に行ってしまうよ。それを見極めて戻ってきたら良い。」
「避難場所のアテは有るの? この森より良い場所があるのなら良いんだけど……。」
不安そうにクマが質問します。
「良い森には、すでにすみ付いている者が居るでしょうね。」
キツネが腕組みして、首をかしげます。「私たちが押しかけたら、戦いになるかもしれません。」
「しばらく置いて下さいって、頼めばいいんだよ。」
コマドリが主張します。「良い場所なんで、少しの間だけ居場所と食べ物をもらうだけだよ、って。」
「そんな事を言ったら、ますます疑われる。」
アナグマが反対します。「少しの間って、3日間なのか一週間なのか、相手に約束出来ないだろう。『一週間したら出て行きます』なら信用してもらえても、『いつ出て行くかは分かりません』じゃ『このままこの土地に居座ります』と同じだぞ? 住処と餌場を奪い合う、殺し合いを仕掛けに行くのと同じだ。」
そして「戦力になりそうなのは何人だ? 俺とキツネとトンビとフクロウくらいか……。いやリスの野郎も戦えそうだな。頭が回るから、偵察向きだ。」と味方の数を数えはじめました。
「相手方にイノシシや山犬が居たら、負けてしまいそうですね。」
キツネがタメ息をつきます。
「クマさんが戦闘向きなら、勝ち目もあるでしょうが。」
「やいクマ! この森は、元はお前の親父の縄張りだろ。」
アナグマがクマをどやします。
「お前の親父が強かったから、ここにはイノシシも山犬も入って来られなかったんじゃないか。お前も戦え!」
「絶対、無理!」クマは今にも失神しそうです。「戦争なんて、考えただけでも気を失いそうだ。たすけて……。」
「くそっ! コイツは使い物にならん!」
アナグマが激怒します。
「じゃあヘビだ! ヘビを先頭に突撃だ! あの大喰らいヘビだったら、イノシシも山犬も一飲みだからな!」
「少し落ち着け。」
リスが胡坐をかいたまま、アナグマをたしなめます。
「ヘビから逃げる算段をしているのに、ヘビを連れて行ったら話にならないだろう?」
「それじゃあ、アナグマくんがやったように、ここにヘビを連れて来てウソを言わせたらどうだろう?」
臆病なクマが違う案を出します。
「ヘビがウソを言ったら、リスくんみたいに楠に捕まってしまうんだから。」
「それは難しいですねェ。」
キツネはクマの提案に懐疑的です。
「あのヘビは食欲旺盛なだけで、ウソつきじゃない。しかもウソをつかなきゃいけない理由を思い付かないんですよ。」
そしてリスの顔を見て
「そうだリスさん。ドングリ池に願い事をすると、聞き入れてくれるという話が有りましたよね?」
と訊ねました。
「確かにある。」リスがうなずきます。「けれども、上手く行かなかった。試してはみたんだよ。」
「なんとお願いしたのです?」キツネが確認をしてみます。
もしリスの願いが不適切なものであれば、そのせいで願いが聞き届けられなかったのかもしれません。
「あの大食いヘビの食欲を無くしてください。――そう願ったんだがな。」
「なるほど。間違ったお願いだとは思えませんね。」
キツネは首をひねりましたが、いいアイデアも思い浮かばず
「もう一回試してみませんか? 私たちに良い知恵を授けて下さい、という内容で。」
と提案しました。
「そうだな。願い事をしている間に、何か閃くかも知れんしな。」
アナグマがキツネの提案を支持します。「ここで、困った困ったと騒いでいるだけではラチが空かない。何か前向きに行動している方が、少しはマシというものだ。」