05 今後のことを考えましょう
「冷たいものをお持ちしますか、お嬢様?」
「おでこを冷やしましょうね。吐き気はどう? お母様はここにいますからね」
いつものおてんば具合はどこへやら。
大人しい私を、お母様もミリアも心配してくる。
お医者様に「前世の記憶が戻って混乱してます」「お菓子が食べられないことに絶望していました」なんてことを言えるわけもなく。
「子ども特有の知恵熱でしょう」と診断された私は、ベッドでぼんやりしながら二人にかいがいしく世話を焼かれていた。
泣き疲れからかだいぶ落ち着いてきた。
お菓子、私子どもの頃はよく作ってたんだよな。
それこそ小学生の頃はお菓子の本見て食べたこともないのにマカロンとか。
パウンドケーキは、どちらかというと何となくで作ってたけど、混ぜる作業を頑張れば様になってたっけ。
本当は料理と違って、お菓子作りはレシピに忠実に、が基本だけど。
スイーツ偏差値、超最低でお菓子は高級品だけど。
この世界、材料は揃っているんだよね……。
作る? 自分で作っちゃう?
普通ならば公爵令嬢が料理なんて、と思われるところだけれど。
今の私なら、ゲームと違うおてんばな『ソフィ―』ならば、また何かやってるなくらいに見られて済むかもしれない。
「おかあさま…」
「ソフィ―…!」
私の呼びかけにはじかれたように、反応された。
「お母さま、私ちょっとあそびつかれちゃって……。つかれたのを言葉にできなくて泣いちゃったの、ごめんなさい」
苦しい言い訳かなと思いつつ、お母さまに告げる。
「ああ、そうだったのね! いいのよ、あなたに何事もなければ」
ホッとしたのか、みるみるうちにお母さまの表情が柔らかくなっていく。
「あのね、喉がかわいちゃったの」
私の言葉にミリアが
「お嬢様が大好きなフルーツジュースを用意して参りますね」
と告げ、足早に部屋を出て行った。
※※※
ミリアが持ってきてくれたフルーツのミックスジュースは、甘酸っぱくて美味しかった。
果物は普通に甘いんだなこの世界。
落ち着いた私を見て、心配そうにしながらも「もう一人でだいじょうぶだから」という私の言葉に、しぶしぶながらお母さまとミリアは出て行ってくれた。
「何かあったらすぐ呼んでくださいね」とミリアに釘をさされながらだが。
さて、お菓子作りだけどーー。
ゲームだと、お菓子のレシピ本は当たり前のように世の中にあふれていた。
だけど今のこの国にはあるだろうか。
目分量より、あったほうが絶対確実なんだけど。
昔の文献だって、絵本でもいい。
美味しいお菓子と自分の精神安定のために、明日から考えていこう。
そう決意しながら、私は眠りについたのだった。