01 プロローグ
見た目もかわいく美味しいお菓子。
街にはお菓子屋さんがあふれ、パティシエ、パティシエールは子供たちの憧れ職業ナンバーワン。
この国の何代前かの王妃様はパティシエールで、その腕前に惚れた王様がプロポーズしたとかしないとか。
貴族階級のレディにも許された特別な職業。
……のはずだったんだけどな、私の知ってるゲームだと。
※※※
いやーヒルトンのブッフェは見た目も味も最高だったな。
可愛い可愛いモチーフのケーキ。チョコレートファウンテン。
ケーキだけでなく、食事も美味しいし。
色気より食い気。
残業あたりまえーな職場において、たまの贅沢はやっぱり必要だよね!
背肉が気になる三十路だけど…。
今度はフルーツパーラー系もいいなぁ。
満足しながら重たいお腹を抱えて駅の改札をくぐる。
失敗したなと最初は思った。だって階段しかなかったから。
ものぐさに加え、この人ごみ。
普段ならばエスカレータのところにいっちゃうけど、今日はいっぱい食べたし運動と思って我慢するかなんて考えていて。
「……!!」
「っきゃあー!」
え、と思った時には遅すぎた。
上から幼稚園くらいの子どもがふってきて。
咄嗟に手を出した時には、階段から私の身体は離れていて。
そこで意識は途切れてしまったのだった――。
※※※
いやまさかね、どんくさいと普段から言われてたけどさ。
歩きスマホをしてたでなし、あっけなかったな私の三十年間の人生。
私の一人暮らしの部屋、腐海もよいとこだったからなー。
お母さんたちに申し訳ない。
なんてしんみりしながら、私は前世の記憶を、滑り台にしていた階段の手すりから落ちた拍子に思い出してしまった…。
ソフィー・ボアルネ10歳。
ボアルネ公爵家、四人兄妹ただ一人の女子として可愛がられていた私は、たいそうおてんばに成長していたのだった。