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四話。エピローグ

 ニルダたちに存分に仕返しをした後、俺はとてつもない虚無感に襲われた。やりたい事を完遂した今、すっかり完全燃焼だった。これから何をしようとか、そういう事に思考が働かない。


 手持ちぶさたに外へ出て、適当に散歩する。


 やはり、コハクバチの強化鎧を纏った俺は化け物に見えるらしい。外はちょうど雨が止んだばかりで、近くの水溜まりに俺の姿が映し出される。まだ心は人間のつもりだが、ニルダたちとの面談のために魔王の勢力と少なからず関わりを持ってしまったのでアウトだろう。ノコノコ故郷に戻れば、絶対に糾弾される。


「はぁ……」


 世捨て人になるとは決意したけど、魔王軍に加担したい訳じゃないんだよなぁ……。遠すぎて霞んでいる未来や、目先の事に振り回されて浅慮になっていた自分を蹴り倒したい。


「アズマぁー!」


 ブウウゥゥゥゥゥン……。


 すると、頭上からハチの羽音とともにカーラの声がやって来た。視線をそちらに向ければ、およそ人間とは思えない姿をした彼女が見える。カーラはニコニコと笑いながら、俺の元に着地する。


 身体のシルエットは人間とほとんど変わらない。違うのは四肢や手足の爪などで、クマバチの表皮そのものだ。首元には黄色いモフモフのマフラーを回して、背中には二対の翅が閉じられている。


 衣服はもはや絵に描いたような非合理極まりないアーマードレスで、太ももや胸元が露出している。健康的な肌色が眩しい。


 そんな中、顔を見れば一発で異形の存在だと伝わる様を象っていた。金髪の中から飛び出す二本の触角に、ほぼ複眼に近いつぶらな瞳。白目に値するところも黒く染まっている。それでも可愛いから構わないが。


「やっと用事済んだ? じゃあ帰ろ? お鍋に私特性スープ作り置きしておいたから! 早くお昼にしようよ!」


 そう言って、いの一番に俺と腕組みするカーラ。ついでに胸を当てられているが、鎧越しなので感触はない。必要以上にドギマギしなくて助かる。


 一体誰が、俺の隣にいる娘が元々クマバチだと想像できようか。しかも俺と何度も会っていたヤツ。寿命どうなってるんだ。


 普通なら失笑ものの話だが、他人には話していない思い出を一から十まで語られればそうもいかない。世間が狭すぎるし、いきなり俺の力が昇華したりするし、カーラと会ってからコハクバチの調子がより人形染めている気もするし。色々ありすぎた。


「んじゃあ、帰るか」


「うん!」


 俺の言葉にカーラは頷く。れっきとした人外――魔物娘でもやっぱり可愛い。


 俺たちはまっすぐ帰路を取り、オズワルドたちがいる城塞を遥か後ろに置いていく。その道中にて、機嫌良さに鼻唄を「フンフン♪」と鳴らしていたカーラがふと尋ねてきた。


「あっ、そうだ。魔王様から雇用の話が来てたけど、返事は決まった?」


 ……言えねぇ。この瞬間まで忘れていたなんて言えねぇ。


 当初は邪悪な存在として認識していた魔王であるが、実際に会ってみれば愛と平和を尊ぶエレガントな人だった。魔王討伐前に王様から聞いた話とはてんで違い、魔王軍が支配している土地はびっくりするぐらいの善政が引かれていた。


 病人には手厚い治療を。貧困者には施しと脱貧困の支援を。街には治安を。失業者には職を。なんというか福祉的だった。


 また、礼節・良識を弁えた紳士的なオークやゴブリンがそこら中に溢れ返り、普通の人間たちと何の抵抗もなく共存を果たしている。典型的な悪いオークとゴブリンなんていなかった。例えいても、訓練された良いオークたちが彼らを逮捕する。


 ここまで綺麗すぎると逆に裏を疑ってしまうものだが、俺のような凡人ではどう足掻いても見つけ出せないし、オズワルドに至っては魔王とタイマンで話して戦う意義を見失った。


『彼は……どうして魔王と呼ばれてるんだ……?』


 その時のオズワルドの呟きは、今でも俺の中に印象深く残っている。それもそうだ。


 この魔王、倒さなくてもいいんじゃね? むしろ倒したら混乱を招くだけじゃね?


 こんな発想になる時点で魔王の人の善さがわかる。目立った侵略行為も聞かなかったし。そう言えば、王様たちがこぞって「失地奪還~」とか連呼していたな。旅の途中で襲撃を掛けてきた手勢も、下卑た感じはなかった。


「……アズマ? もしかして忘れてた?」


 カーラのその一言に、俺は驚きそうになるのを耐える。それから平静を装って、不自然ないよう努める。


「いーや。田舎でのんびりハチミツ作ろうかなって考えてる」


「ん、触角がびくってなってる」


 はい、バレた。ジト目で見つめる彼女に俺はわざとらしく肩をすくんでみせる。


「ダメだよ、忘れちゃ。わざわざ手を差し伸べてくれてるんだから。本当にいいの? 絶好のチャンスなのに」


「別に。ポスト用意されてもあんまりそそられないし。また調子こいて失敗しそうだし。カーラと二人で暮らすだけでも幸せ……って感じだな」


 すると、彼女の頬と耳たぶが急に赤く染まった。俺から顔を逸らしてモジモジするのも束の間、その微笑ましい照れ顔を存分に見せてきながら応える。


「……うん。うん! 私もアズマと一緒になれて幸せ! 邪魔するヤツもいない素敵な時間だよ! 大好き! 愛してる!」


 一瞬だけ妙な悪寒を感じながらも、その言葉に込もっている気持ちに俺も嬉しそうになる。


「俺も好きだよ、カーラ」


 気が付けば、俺は今思った事を勝手に吐露していた。目の前にいるカーラの反応が可愛すぎるせいだ。


 次の瞬間、カーラは爪先立ちになって俺に顔を近づける。その意図を察するのは容易く、合わせてコハクバチに兜を外させた俺は彼女と口づけを交わした――


最初は短編にしようと思ったけど、一万字越えたので分割させていただきました。長いと読まれないので。二~三千文字で満足いく短編が書ける人は尊敬します。

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