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とりあえず、周囲を探索することにする。ここが何処なのかを把握して早急に人間界になじまなければならない。
工事現場を出て周囲を眺める。左手側には明かりも人気も無かった。右手側へ顔を向けるとまばらに電灯が存在しており、その先に更に纏まった光が見えた。光あるところに人間は集う。ノックスはそれをよく知っていた。
ひとまず、明かりを目指して歩き出す。しかし、どうも違和感がある。身体が妙に重いのだ。呼吸も一定のリズムでは無くなっていた。
「……これが地上、ということか?」
改めて自らの状況が笑えてくる。とはいえ泣き言ばかりでもいられない。早々に適応しなければ地上にも居場所は無い。
数分ほどで光ある場所に辿り着いた。 ノックスはぐるりと辺りを見回す。眩しい場所だ。様々な看板が所狭しと掲げられ、視覚を容赦なく刺激してくる。ノックスはすぐに繁華街だと気づいた。
ノックスの天界での仕事は「人間同士の小競り合いを最小限に抑えること」であった。基本的に天界は人間の自由を尊重する。しかし、人間が破滅的な被害を生み出すことはよしとしない。そのため、小競り合いそのものへは不干渉だが周囲に伝播することを防ぐための干渉は行うというスタンスである。小競り合いが大きな戦争の引き金となることもあるため侮れない仕事ではあるのだが、いかんせん地味でキリが無いのでノックスのような若い神が主に行わされている。
繁華街は神の仕事でよく見はっていた場所だった。ここではうんざりするほど小競り合いが起こるのだ。人間界の中では見知った場所ともいえる。
「おい、さっきから店の前でチョロチョロしてるんじゃねえよ。なんだテメエ?」
見知った場所とはいえ、小競り合いの当事者になるとはかんがえもしていなかったのだが。