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地上の者に恋をした。高い高い空から、ノックスは心を奪われた。
ノックスは神である。神は地上の秩序を守るために存在している。
もちろん、神が地上の者に恋することはご法度だ。そして仕事中に地上の特定の人間を見続けることも。。
「ノックス、お前は地上送りだ」
直属の上司がノックスにそう告げた。そう、神は一人で秩序を守っているわけではないのだ。
人間の皆様と同じように、ピラミッド型の組織の中で歯車として仕事を行っているのだ。全知も、全能も、ご都合主義じみたパワーもそこには存在せず、ただただ懸命に仕事に励む神々がいるのである。
そんな中、ノックスは末端中の末端であり、不真面目というわけではないが、いわゆる「有能」とはいいがたい神であった。根は真面目ではあったが、地上の人間に気を取られた結果、注意力は散漫になりミスを連発。周囲からは近々何らかの処分が下されると噂されていた。しかし、それにしても
「待ってください。それ、本当ですか!? いくらなんでもそれはひどい! 地上送りなんて何百年に一回くらいしかない重い処分じゃないですか! 何かの間違いでしょう!?」
過去に地上送りになった者の悪行に比べれば、今回のノックスの行いは何もしていないのも同然だ。「二元に気を取られてうだつがあがらない」がどう間違えれば「連続神殺し」や「最高神への反逆」に比肩する大罪となりえるのか。
「……ディア様のお達しだ。とにかく地上へ行ってくれ」
「ディア様のだって!? 何で僕なんかの処分に最高神が! しかもこんなデタラメな処分を!」
「しっ! 静かにしてくれ……俺もおかしいとは思っている。だが、決まってしまったんだ。俺にはどうしようもできない」
「そんな……」
「地上での健闘を……」
次の瞬間、天界の景色は消失し、衝撃が身体を襲った。こうして、ノックスはあっさりとそして理不尽に地上に堕とされた。