交差と乖離(2)
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選ばれた。選ばれてしまった。選ばれたくはなかった。無関係でいたかった。
手に入れたものは全てを犠牲と名付け、それを足場としてより高きへと昇ることの出来る権利。
だが望んで手にしたのではなく、選ばれてしまったというのならば。
不意の運命によって祀り上げられたその先に何があるというのか。何を望めというのか。
最上となる頂は求めるものなく、ただ琥珀の過去へなり行くのみ。
渇望する欲求は満たされてはならぬのだ。
それでは何も意味がない。
故にその選別は呪いに等しかった。
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ただの魔物がそこにはいた。
その魔物は目の前で現れた。確かに元は人だった。
目の前に立っていたのは彼女の肉親だった。
「あ、ああ、あああ、あああああああ――!!」
複雑な問題だ。だが時間はない。結果取るべき解は単純な二択となった。
鍵はいつものようにこの手にある。それが再び彼女に権利を与える。
殺すのか。殺されるのか。
その二つを選ぶことのできるという権利。
いつものように歪な答えしか与えないそれを、だが今回ばかりは許容できなかった。
選ばなければならない。
罪を課するか罰を受け入れるか。その選択肢はどちらにせよ何かを失ってしまう。
選ばなければならない。
けれども。両方を、全てを手に入れたくて。それを探す為の時間がなくて。
選ばなければならない。
魔術は奇跡ではない。起こせることと起こらないことは明確なのだ。いかに尊大な名で呼ばれようともその絶対は変わらない。
そうして。
届かない声を響かせる。もはや言語ですらない糸を遥かなる場所へと繋ぐように。
自分以外という、決して知ることの適わぬものへ手を伸ばす。
呼べ。叫べ。願え。思え。偲べ。謡え。祈れ。呪え。
何を捧げれば奇跡は起こる。何でもいい。奇跡を起こせ。起こせる奇跡を創りだせ。
その為に失おう。
何を失ってもいい。どれだけ欠けてもいい。代償ならばすべてを差し出せ。
だがそれなら。
「――救え!」
その言葉の想いこそ魔法ではなかったか。
2020/08/13【修正】誤字修正。原稿用紙設定変更。ノートの矢印↓キーが壊れたので別キーボード使ってます。そしてマウスも壊れた。
2017/06/15【投稿】当時は投稿ログを残していなかったのでログ追加。