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The/O  作者: 数美
1.魔術師エトリ
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14/48

書架

   【5】

   

 『ゼロ年代の未明事件』

 箔押しされたその本は別段珍しい品という訳ではない。過去の事例をもとに、多くの文献がまとめられたありふれた解説書である。資料としての出来が認められ、幾度かの改訂と増刷が繰り返されており、現在でもある程度の大きさの書店でならば棚の隅にでも残っているだろう。

 事実この部屋の主もそうしてこの本を蒐集し、目を通したのち書架にしまい込んでいた。

 すでに幾度も検証され、過去という歴史に刻まれた事象をそれでもなお繰り返し掘り起こすのは研究というより執着に近いのかもしれない。

 

 事件の項。例一‐○二二。

 要約。

 魔術法則の発見より黎明期。とある団体がその行使方法についての仮説を打ち立てる。さらに当団体はその証明を行うためにある実験を行った。

 二〇五号人体実験。

 人の感情により発現する奇跡であるという予測は正しかった。だがそれは刺激に対して無意識の速度で反応を返すという、いわゆる反射に近いものだと予測されていた。現代の常識から鑑みればその仮説は間違いであるのは明白である。魔術は単なる反射現象ではない。

 当事の被験者を例とするならば、負わされた痛みに対する感情は――呪い。

 顛末。人体実験を行っていた研究所。そこに属すると思われる者すべてが被験者とともに死体となって発見された。

 

 そして奇跡の法則解明はさらに進められる。

 同例二‐五五三。

 要約。

 奇跡の使用方法の確立。

 未だ奇跡は魔術とは呼ばれず、魔法であった時代。

 特定の条件に当てはまる者のみがその力を不確かながらも、ある程度の成功確率の元で行使が観測されていた。

 人類史の中で表裏というものを定義付けするならば。文明という豊かさの発展と対を成すのは、いかに効率よく他者を殺すかという手段の追及である。

 手から火球を放ち、雷撃を落とす。そういった奇跡は兵器への転用をまず構想された。しかし不確かな条件でしか効果が発生しないのならば、銃の代用としては信用に値しない。弾倉に込めた銃弾と銃口の仕組みを解明することを急いだ。

 その力はどこから来るのか。個人の体内こそがその源泉であるのでは。

 某国。薬物と催眠で人の個を崩し、殺して死ぬために生かされる人間が試作された。

 実際の爆発物に勝る点として、それが爆ぜる瞬間まで兵器だと気付かれずに、いかなる場所へも運ぶことが可能であるという、まさに葦の兵器。

 手始めに彼らが送り込まれたのは敵国領地。平和な繁華街における無差別自爆。

 だが爆発はしなかった。その繁華街では当然人の目も多くあった。誰もが驚いただろう。その者は穏やかな死を笑いながら喜んでいた。そして精霊の光となって霧散した。

 その同時刻。某国、つまり彼らを造り出した研究機関。その研究所に勤めるすべての人間が死んだ。

 その対象となったのは、既に機関から脱していた者及び、その機関に対しての提携社や出資者といった広義的な関連にまで及んでいた。当然その者たちすべてと被験者達とが顔見知りであったとは考えにくい。顔も見ていない、声も聴いていない、名前も知らないはず。それでも最大位置で星の反対側の距離までを結んだのである。

 実験に使われ、死んでいった者たちの呪い。それが魔術として、いやこの場合は魔術ではなく純粋なる奇跡であると定義づけされているが、それは確かに起こったのだ。

 かつては原因不明の奇病であるとして処理されていた当事件が、魔術災害であると判明したのは当件より七年後。国の解体から失われていた研究機関の摘発後となった。ただしパズルのピースが偶然はまったことによる推測である。関係者はすべて死亡しているのでそれについての確かな証言は存在しない。

 

 そして心は定義された。人の意思が力を持ち、意味を侍ることで魔術として、描かれた奇跡を見せる――

 その言葉で締めくくられる最後のページは紙面がたわんでいた。

 だが彼はこの手の研究者ではない。これを蔵書としているのは別の目的からであった。

 この部屋の主が、この本を読み何を考え、何を思い、そして今どういう想いでここに残しているのか、それは誰も知らない。

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