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名も無き将軍の物語り  作者: 縞栗鼠
19/22

迫る大きな戦いの前触れ、消えた長老騎士団。

『なんだ、なんだ』


『この行列は?』


村人たちは見慣れない異国の大軍に身を竦めた。


真っ赤な林檎のエンブレムが染め抜かれた三色の旗が長い隊列となり伸びる。


街道で遊ぶ子供たちや老人を先行騎馬が蹴散らした。


『エエーーーイ!』


『どけどけ!!』


『邪魔だ!、邪魔だ!』


道の傍らにヨロヨロと倒れ込む老人、そして手荒な兵士に突き飛ばされる子供たち。


『あいっら、酷いことしゃがる!!』


『めったな事を言うな……』


『命がないぞ。』


草むらに隠れて様子を見ている二人の農夫は大軍の装備に驚いた。


『あれは、た、大砲じゃねーーーか!!』


『もしや、あれは今、破竹の勢いで大陸を制覇している赤い林檎ていう軍団じゃねーか?!』


『これは、ひょとしたら、ひょとするぞ!』


『ど、どーゆうことだ?』


『帝都が赤い林檎に侵略されるてことだよ。』


『ま、まさか?!』


『500年、続く帝都は三重の堅固な城壁で護られている難攻不落の都だぞ。』


『いや、そうでもないぞ……』


『あの、とてつもない大きな大砲を見てみろよ!』


通常の大砲がオモチャのようにしか見えないスケールの巨砲が多くの馬に牽かれて街道の道を狭しと進む。



………………………………………………☆



その頃、帝都では斥候からの報せを教皇に代わり国政を束ねる大枢機卿が受け取った。


大枢機卿は帝都に迫る赤い林檎軍団の接近を教皇へ報告した。


病の床に伏せる教皇は報告を受けても意識も定かでなくでボンヤリと天井画を見ているだけで反応が無かった。


大枢機卿は書記官にペンと堅表紙の書面を持ってこさせて教皇の手を取り帝都軍の指揮権を譲渡する旨の証明書へサインさせた。


大枢機卿は書記官に目配せをして威圧した。


それは他言するなば、命の保証はないとの無言の伝達であった。


彼は書記官に命じて帝都の将軍たちに教皇の宣布として軍の招集を促した。


この宣布により騒然とする帝都は、にわかに戦時の様相を深めていった。


『兵を招集せよーーー!!』


『赤い林檎を帝都に近づけてはならない!!』



…………………………☆



鍛冶村。


迫る長老騎士団に備え馬防壁を鍛冶村の正面街道に築いた大男、及び隻眼マッチョと仲間たち。


疎らに隊列を組む鉄砲の配置を見て曾ての騎馬将軍である開眼老人が口を開いた。


『この配列では騎馬の突進に耐えられなぞい!』


『鉄砲隊を前、中、後の三列隊列に分け間髪入れずに発射するならば効果は絶大じゃ!』


『ワシは昔、野蛮王との戦いで、奴の策で痛い目にあっておるので、ようわかつておるのじゃ。』


『なるほど!』


『じいさん!、中々の知恵者だなぁ!』


隻眼マッチョは曾ての騎馬将軍の意見を取り入れ鉄砲隊を三列に並べ変えた。


高い櫓の上に立つ吟遊詩人の乙女と約束の預言者少女、そして聖月老子。


吟遊詩人の耳に微かな蹄の音が風に乗せられて届いた。


『街道の方から蹄の音がするわ……』


聖月老子の肩に乗っていた白鷹が飛び立つ。


バタバタバタ……………………


暫くして、聖月老子は眼を瞑ったままで話し出した。


『長老騎士団の隊列ではないようじゃ。』


吟遊詩人は眼を瞑った聖月老子が、なぜ遠くの一行を識別できるのか不思議に思った。


約束の預言者少女がぽっりと呟いた。


『老子の千里眼……』


やがて遠くの方に馬の一団の姿影が見えて来た。


大男が傍らにいた仲間の一人から鉄砲をもぎ取って馬防壁によじ登り早やって発砲した。


パバーーーーーーン》》》


『景気づけだぁーーー!!』


聖月老子が静かに口を開いた。


『黄金のサレツトと杖を持つ魔術師、そして白銀鎧の戦士が来る』


『黄金騎士様よーーー!!』


『発砲やめなさいーーー!!』


吟遊詩人の乙女が早ゃつた大男に叫んだ。


『なんだって?!』


眼を凝らして少しづつ近付く隊列に視線を送る大男。


『やべーーー!!』


『おれ、何てことしちまったんだぁ!』


大男は鉄砲を投げ出して馬に乗り黄金騎士の一行のもとへ走り出した。


『もう!』


『なんで、あんなに、考えが浅いの!』


『後先考えない猛牛といっしょだわ!』


憤慨する吟遊詩人を聖月老子がなだめた。


『おじょうさん、まぁ、そう怒りなさるな……』


『あの物は、あれでも成すべき使命があってこの世に生を受けておるのじゃから


約束の預言者少女が再びポッリと口を開いた。


『赤い林檎がたくさん、たくさん』


吟遊詩人の乙女は、しやがんで預言者少女の言葉に耳を傾けた。


『赤い林檎がたくさん?』


『ここには、林檎の木はないみたいね。』


『きっと、あなた、喉が乾いたのね。』


吟遊詩人の乙女は腰の水筒を少女に与えて飲ませた。


ニコリと笑って少女は吟遊詩人の乙女に礼をした。


馬を駆けながら大男は考えた。


『長老騎士団は、何処へ行ったんだ?』


『街道は、この道しかないはずだ。』





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