新たな仲間を加える黄金騎士の一行。
『黄金騎士の行くところ戦いは止み悪は去り花が咲く~全地に広げん楽園の世を~♪』
赤毛の馬に乗り竪琴を奏でる吟遊詩人の美しい歌声を先頭に黄金騎士の一行が街道を進む。
幼子たちが野で摘んだ色とりどりの花を持ち道沿いを小走りして頻りに笑顔で手を振る。
『黄金騎士さま~♪』
『我らの救世主~♪』
子供たちのカン高い声に畑仕事の手を休める農夫と、その妻たち。
農夫の妻たちは、街道を進む一行の異様な面々にギョツとして急いで我が子の元へ走り手を引いた。
『さぁ、早く、家に戻るのよ!』
畑仕事をしていた農夫たちと、その妻たちは、子供たちを連れ慌てた様子で家に入って行った。
開け放たれていた窓の、つっかい棒も下ろされ、まるで首を甲羅の中へ引っ込めた亀のように農村は静まり返った。
『やいやい!』
『なんでぃ!』
『あの態度は!』
村人の冷たい対応に、しかめっ面で怒鳴る大男。
彼を、なだめる様に近衛騎士団の長が大男に言った。
『まぁ、そう言うな……』
『あの者たちが我らの一行を怖がるのも分からないでもない。』
『曾ての黒馬暗殺団と、賊の大男、そして黒魔術師が黄金騎士様に従っておるのだからな。』
ふと前方に視線を移した大男が吟遊詩人の隣で並んで進んでいた女黒魔術師の姿がないのに気付いた。
『歌姫、、、黒魔術師はどこへ行ったんだ……』
吟遊詩人の乙女は、ニコリと笑顔で大男の方を見た。
『もう、逃げたしたのか?』
『変わり身の早い、ねーちゃんだぜ!』
窓の隙間を、わずかに開けて黄金騎士の一行が街道を、行き過ぎるのを見ている村人たち。
『あれが……今、巷で噂の黄金騎士。』
『悪人から民を守る人徳の御仁と聞いておるが……』
『なぜ、悪党と共におるのじゃ?……』
『しかも隣には悪名高い黒馬暗殺団と大男がおる。』
『関わらない方が身のためだ。』
『そうだ、そうだ。』
村長を囲んで、訝しげに話す村人たち。
すると彼らが籠っている大きな家の戸口を叩く若い女の悲痛な声がした。
『村長さまーーー!!』たち
『野蛮王の一党が、この村に攻めて来ます!』
『私たちだけでは、とても太刀打ちできません!』
『このままでは、村人全員、皆殺しにされてしまいます!』
村人たちの顔から血の気か引いて行く。
『ど、どうする!』
『村長!』
村長は、ポンと手を叩いて村人たちに語った。
『今なら、まだ間に合う!』
『人徳の黄金騎士様の元へ行き助けを乞うのじゃ!!』
村人たち甲羅のように閉じ籠っていた家の戸を開け放ち脱兎のように黄金騎士の元へと走った。
その様子を見ていた大男が近衛騎士団の長に語りかけた。
『おい、あれを見てみろよ!』
『閉じ籠っていたと思ったら、今度はこっちへ走って来るぜ!』
『何だよ?、今度は……』
『農夫ていうのは、忙しいやっらだなぁ~』
黄金騎士を取り囲む近衛騎士団の間近まで来た村長と村人たちが口々に何やら叫んだ。
近衛騎士団の長が手を上げて村人を静めて語った。
『皆で話されても聞き取れない。』
『だれか代表者を立てて話を聞かせてくれ。』
すると村長が前に出てきて膝を地につき懇願した。
『人徳の黄金騎士様の、ご一行、どうか、我等を、お救いくださいませ!』
『今、ここにおります村の娘の報せで知ったのですが野蛮王の一党が、この農村に攻めて参ります!』
『わしらの力では、どうすることもできず、村人全員、皆殺しの目に会います!』
大男が前に出てきて村長に怒鳴った。
『けっ!!』
『勝手なことばかり、ぬかしやがるぜ!』
『自分たちが危ない目に会ったときだけの神頼みか!』
騒ぎに気付いた黄金騎士が近衛騎士団の間を縫って前に姿を現した。
その姿を見た村長と村人たちは震えながら膝をつき、黄金騎士に懇願した。
『人徳の黄金騎士様!』
『どうか、わしらを野蛮王の一党からお救いくださいませ!』
黄金騎士は優しく彼らに語った。
『私の同胞の方々、立ちなさい。』
『私は、あなた方の兄弟です。』
『この黄金のサレットは人々へ平和をもたらす証しなのです。』
黄金騎士は村長の傍らに立つ報せをもたらした村娘に視線を移し語った。
『黒魔術師の姉妹よ。』
『もう、芝居は終いにしましょう。』
村娘は身を翻して黒マントの魔術師に姿を変えた。
黄金騎士は驚く農村の人々に優しく語りかけた。
『野蛮王は、この黒魔術師により既に成敗されました。』
『もう、何も心配することはありません。』
『さぁ、立って、また平和な暮らしに戻りなさい。』
『あなた方の心に平安が、永遠にあることが私の願いです。
村人たちが黄金騎士を拝もうとする仕草に彼は語った。
『私は、あなた方の兄弟です。』
『志を共にする者は、私の後に自ら進んで従いなさい。』
村人の中から幾人かの若者が黄金騎士の隊列へと加わった。
その中には家族を戦禍で失った身寄りのない少女も加わっていた。
黄金騎士は吟遊詩人を少女の元へと来るよう促した。
『この少女の世話を、貴女にお願いしたい。』
吟遊詩人は笑顔で黄金騎士に答えて頷いた。
この村で仲間に加わった農村少女は、やがて黄金騎士の意思を継ぐものとなるが今はまだ誰も知るよしもなかった。
黄金騎士の一行は、さらに人数を増やし街道を進んで行く。
吟遊詩人の歌声が街道に響く。
『黄金騎士の行くところ戦いは止み悪は去り花が咲く~♪』