黒魔術師は黄金騎士の懐に抱かれる。
『そうは、させない!!』
女黒魔術師が持つ杖の先端部から目も眩む様な強い稲妻が発せられた。
バリバリバリバリバリ》》》》》
大男が放り投げた竪琴は吟遊詩人が手を伸ばせば届くところまできたが……
しかし、女黒魔術師が発した稲妻により城壁の彼方へ吹き飛ばされた。
再び女黒魔術師は杖の先に光の球を凝縮させてゆく。
『ははは……万策尽きたようね!』
吟遊詩人と従者たちは膝を落として黄金騎士を助けることができない自分を責めた。
『黄金騎士様!』
『あなた様を、お救いできない、我等をを、お許しくださいませ!』
黄金騎士は、吟遊詩人と彼に従う者たちの声に振り向き優しく語った。
『立ちなさい。』
『剣や術によるに頼ってはならない。』
『愛こそ全てを凌駕する最大のパワーであることを信じ私に従いなさい。』
『これから起きることを己の目で見て何が真実かを知るのです。』
女黒魔術師は階段を昇って間近まで迫る黄金騎士を最上段から見下して言った。
『お前は神なのか……そんなはずはない。』
『その金メッキの下は、ただの農夫でおろう。』
『皆の前で、黄金のサレットを外し顔を晒し、わたくしの前に膝まづけ!』
我に従うならば命は取らずにおく!』
黄金騎士は彼女の最後通告とも言える、この言葉に静かに答えた。
『あなたの心に巣くう悪を払うために私は来ました。』
『恐れることはありません。』
『私の姉妹よ。』
『その杖を、手離して私の元へ来なさい。』
黄金騎士の、この言葉に憤慨した女黒魔術師は杖を高々と掲げて叫んだ。
『えーーーーーいっ!!』
『もはや、猶予はない!!』
『金メッキのまやかし物よ!!』
その時、磔に縛られていたはずの国王と妃が銀箔鎧兵士に救い出された。
銀箔鎧兵士たちは女黒魔術師の背後から彼女の不意を付き喉元に槍を突き付けた。
隙を付かれ女黒魔術師は杖を高々と掲げたまま、動けなくなった。
『これは……どうしたことだ??』
女黒魔術師が傍らを見ると、彼女の操り人形であった藁人形は、ことごとく粉砕されていた。
藁の操り人形に、密かに取って変わった銀箔鎧兵士は兜を取って黄金騎士の方を見た。
亡国の姫である吟遊詩人の乙女が彼の顔を見るなり喜びの表情を浮かべた。
『わたしを、野蛮王から救って下さった無名の将軍様!』
彼は曾ての敵国の将軍であり黄金騎士に命を救われた者だった
『黄金騎士様、私は、貴方に命を救われた者です。』
『貴方の人徳は広く、あまねく、曾ての敵に至るまで、地の四隅に広がつております!』
黄金騎士は女黒魔術師の前に手を差し伸べて彼女が自らの意思で杖を差し出すのを待った。
女黒魔術師は、もはや、これまでと杖を黄金騎士に手渡した。
『さぁ、我を煮るなり焼くなり、存分にするがよい!』
『この我を負かして、さぞ満足であろう!』
黄金騎士は槍の矛先を収めるよう銀箔鎧兵士たちに促した。
その後、黄金騎士は女黒魔術師を優しく、その胸に抱き寄せて語った。
『さぁ、私の姉妹よ。』
『心をより悪を消し去り私の元へ戻って来るのです。』
黄金騎士の大きな愛に包まれた女黒魔術師の瞳から一筋の涙が溢れた。
『どうして、あなたは…………敵である我に、そこまで愛を示せるのか?』
『愛の神なのか……』
黄金騎士は優しく彼女の瞳を見て優しく語った。
『貴女の心が、そう言っています。』
その時、女黒魔術師の心から悪が遠ざかり消えていった。
彼女も打ち続く戦禍の中で心を、うちひしがれ人を信じることができなくなった被害者の一人であった。
黄金騎士の大きな愛に包まれた彼女の内に再び人を信じる心が芽生えた。
女黒魔術師は黄金騎士の前に膝まついた。
『黄金騎士様、貴方の人徳に我は、深く心服いたしました。』
『我の忠誠を貴方に捧げます。』
野蛮王が廃された王国は元の国王と妃に返還された。
黄金騎士は白と黒の魔術師を従え、黒馬暗殺団が転じた近衛騎士団、そして改心した賊の大男と共に平和の歌声を響かせ新たな目的地へ……
帝国の都、騎士団が教皇と共に治める大都市を目指した。