表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ばけもの子供の物語

ばけもの子供の物語 夢

作者: 透坂雨音



 世界の真ん中の だけど真ん中のようでいて 隅っこのようなある所

 とても高く とても大きく とても黒い そんな塔に

 ばけものの少女が一人住んでいました


 ばけものの少女はいつも一人

 二人にも三人にもなれない一人きりで

 塔のてっぺんから 下の世界を 毎日眺めて過ごしていました


 薬屋のカラスはお話し相手 掃除のロボットはお遊び相手

 人間になれる薬を作ってくれていても 追いかけっこの相手になってくれていても

 だけど それでも 一人でした


 日々は同じ

 同じの次は同じ 次も次も同じ

 これからもきっと 同じ同じがずっと続くと そう思っていました


 ばけものの少女がばけものでいる限り



 そんなとてもとても同じだらけの毎日に

 変わり映えの無い退屈だらけの毎日に

 ある日 一つの違いが訪れました


 同じ年頃の 同じ女の子 だけど違う人間の子供

 どこからかやって来て 手をさしだしたのです

「お友達になりにきたよ」

 ばけものの少女はその手を見つめて 見つめて 見つめて……

 なのに決してつかもうとはしませんでした


 それでもそのお外の少女は ばけものの少女と日々を過ごすようになりました

 毎日同じは終わり 変わらない退屈も終わり

 どこにもない 新しい 知らない 違う日々が やってきました


 それはとても

 楽しくて 嬉しくて キラキラとした宝石のような

 まぶしい輝きに満ちた そんな日々でした


 けれど

 景色が白一面に染まる とてもとても寒い日のこと

 顔を歪めた人間達が 武器を手に 大勢やって来ました

「見ろ! あの背中こそ化物の証だ」


 そうです

 ばけものの少女がばけものであるのは

 普通の人間にはない羽を持っていたからです


 ばけものの少女は ばけものでいるのが嫌でした

 どこへもいけない 誰にも会えない

 二人にも三人にもなれない

 一人でしかいられない そんな自分が とてもとても大嫌いでした


 ふつうでないことは恐怖されること

 ふつうでないことは嫌悪されること

 ふつうでないことは否定されること

 あの日 あの時 塔の外で 小さな夢をみた昔

 ばけものの少女は それを思い知ったのです


 そんな 恐怖と嫌悪と否定の心たちが

 ばけものの少女を傷つけようとして だから

「ばけものでも友達だから」

 お外の少女が 代わりに傷ついてしまったのです


 ばけものの少女は

 弱くて 小さくて 消えそうで それでいて大切な命をかかえ

 白くて暗い 夜のお空へと飛び立っていきました



 痛くて 寒くて 冷たくて 苦しい思いをしながら

 たどり着いたのは 小さな薬屋

 お話し相手のカラスは 二つの薬を並べました


 一つは ばけものの少女の願いを叶えるための薬

 もう一つは やっと出来たその薬を混ぜ合わせる事でしか お外の少女を助けることが出来ない薬


 ばけもおの少女には 夢がありました

 ばけものでない自分になる という夢

 あの日 さしだされた手を ちゃんとつかめるようになるための夢が


 その

 ずっと見てきた

 ずっとずっと大切にしてきた

 ずっとずっと願い続けてきた夢を


 ばけものの少女はあきらめることにしました



 そして その後のそして

 いつかどこかの 誰かの孤独な場所へ

 冬の気配と共に とけて消えてしまった夢のかけらと共に

 お外の少女がやって来て


 あの時言わなかったひと言をつけくわえて

 もう一度手をさしだしました


「ばけものの君と 友達になりにきたよ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ