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五話

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「死ぬ! 死んでしまう!」

 俺は必死になってスノーウルフの攻撃を掻い潜っていた。

 何で食後にこんな激しい運動をしなければならないんだ!

 いや、運動ってわけでもないけどさ。

「避けてばかりじゃレベル上げにはならないわよ! 攻撃なさい!」

 アラクネーのフェイから叱責が飛んでくる。

 知ったこっちゃねぇ! こちとら脊椎動物を殺した経験なんて一回もないんだよ!

「そんな事言われたって――ッほっと――いきなりすぎるだろうがよ!」

 飛び掛ってくるスノーウルフを避けながら反論する。

 当たり前だのクラッカー。

 事前説明もなしに殺し合いをしてもらいますって言われても困るだけだ。

 特にも俺は元々が喧嘩もしたこともない一般人。

 いきなり体長2メートルの狼と死合いをしろと言われてもどうしたらいいのか全然分からん。

「いい加減腰のモンを抜きなよ」

 レビンに言われてやっと気がついた。

 俺の格好って町にいたときのままじゃん。

「よ、よーし、やってやるぞ畜生め! 掛かって来い!」

 俺は腰の剣を抜いてスノーウルフと正対した。

 不思議なことに恐怖心や生き物を殺すことに嫌悪感がわいてこない。

 これも魔族になった恩恵って奴なのかも知れん。

「ウウウ!」

 俺の剣を見てスノーウルフは飛び掛かってくるのをやめた。

 剣とは切り裂くものであるから、安易に飛び掛るのは危険だと察知したのかもしれない。

 頭のいい犬畜生だ。

 だがこうなるとこちらも手が出せない。何せ剣の振り方一つ知らないのだ。

 精々が学校でやった剣道の授業を思い出し正眼に構えることぐらいだ。

 うーむ、どうしようか。

「さっさと斬りかかりなさいよ、愚図」

 グルタナめ……後で覚えてろよ。

 ご自慢の長い髪の毛引っ張ってやるからな!

「ほれ、どうしたのじゃタツヤ。待っているばかりでは活路は見出せんぞ」

 カルーアも軽く言ってくれる。

 第一、これは待ってるんじゃない! 待てば海路の日よりありだ!

「ゥゥゥ――グルアァ!」

 来た!

 俺と対峙しているのに痺れを切らしたのか、スノーウルフは飛び掛ってきた。

「これでも食らえ、犬畜生が!」

 俺はスノーウルフを攻撃を避けざまに剣で斬りかかった。

「ギャン!」

 その攻撃は見事に当たり、スノーウルフは前足を失っていた。

 お、おおー! やれるじゃん俺!

「グルルル!」

 依然として唸り声を挙げるスノーウルフだが、右前足を失っているため立つことも覚束ない。

 ハッハッハ! 形勢は逆転したようだな明智君!

 俺は唸るだけで動くことの出来ないスノーウルフに近寄り止めを刺した。

「よし! やったぞ! ここから出してくれ」

 俺は喜色満面の笑みで振り返るが、五人とも渋い顔をしたままだ。

 あれー? ここはよくやったぞの場面じゃないんですか?

「うむ、流石よのう。レベル1でレベル5のスノーウルフを、幼体と言えど何なく斬り殺すとは」

「はい、まさか祝福持ちがこの様に強いとは」

 何その会話。もしかして俺じゃなかったらやばかったの?

「今度は二匹にしましょう」

 グルタナてめぇ! やめて下さいお願いします!

 その後俺は結局計五匹のスノーウルフの幼体との戦闘をこなさなければならなかった。

「今日は良い日じゃった。まさかタツヤがここまで強いとは」

「――気付いてた? 最後の一匹はレベル10だった」

 俺は体中におった傷をグルタナに回復してもらいながら話を聞いていた。

「通りで今までの奴と違って動きが早いわけだよ。お陰で引っかき傷がついちまった」

 そう、俺は戦闘で負傷したのだ。

 とはいえ、見た目に反してスノーウルフの爪で負った傷はそう深くはなく、痛みもそこまで感じなかった。

「なあカルーア。恐怖心や嫌悪感、それにこの傷もそうだが、鈍感になったのって魔族になったことが原因か?」

 俺は疑問に思っていたことをカルーアにぶつけた。

 結局わたわたしていたのは最初だけで、後の戦闘では自然と剣が振れるようになっていたし、負った傷も騒ぐほどの傷じゃない。

 人間のままだったらこうはいかなかったのではないだろうか。

「――そうじゃ。魔族とは根本的に人間とは違う生き物よ。身体も心も人の何倍と強く出来ておる」

 やっぱりか。人間のままだったらこんな簡単に順応はしないわな。

 改めて自分が人間ではないことに気付かされる。

 それはとても大事なことのような気がしたが、今はいいや。

 何せ、俺を囲む五人が皆とても嬉しそうに笑っているのだから。

「あ、そうだ」

「なんじゃ?」

 カルーアの言葉を無視して俺は回復魔法をかけてくれているグルタナに向き直った。

「何よ? もう少し待ちなさい、私は回復魔法が苦手なんだから」

 いやいや、そうじゃありませんよグルタナさん。

 いきなり檻に閉じ込めたり、スノーウルフを嗾けてきたのは貴方だって分かってるんだから俺は。

「ていや」

「あいたー!」

 俺は黒く長いグルタナの長髪を思いっきり引っ張った。

 不言実行の男なのだ、俺は。

「何するのよ!? 破壊魔法ぶっ放すわよ!」

「うるせえこの魔女っこめぐちゃんが! てめぇがスノーウルフを嗾けたのは分かってるんだ! 大人しくされるがままになれ!」

「うぐ」

 俺の言葉が図星だったのだろう。グルタナは唸ったまま何もせずにいた。

 うん、素直で大変よろしい。

 俺は引っ張った髪を今度は梳いて行く。

 うむ、グレートな触り心地だ。

 良き哉良き哉。

「すっかり仲良くなったようじゃな」

「ああ、全くだぜ。見てるこっちが恥ずかしくなる」

 カルーアとレビンの言葉に顔を真っ赤に染め上げるグルタナ。

 おぼこかこいつは。

「おっと、グルタナだけじゃないぜ。俺は髪を撫でるのが大好きだからな。他のみんなもそのうち俺になでさせろ」

 俺は有言実行の男でもある。そのうち皆撫でさせて貰おう。

「――! はい、回復終わり! いい加減手を離しなさい!」

 茹蛸のグルタナが乱暴に俺の腕をはたく。

 おお、傷跡が全く残ってない。凄いな回復魔法。

「一応私達全員回復魔法が使えるから、今度からはもっと自分から攻めて行ってね」

「――今回は後の先ばかりだった」

 フェイとサツキがそういう。

 そうだな、痛くないと覚えませぬとも言うからな。

「おう、今度からは俺から攻めてみるよ。今回は皆ありがとうな」

 俺はそういって頭を下げた。

「さて、それでは今日は解散と行くか。皆のもの大儀であった。職務に戻るがいい」

 カルーアの一声で今回は解散となった。

「さて、ここはどこだろうな」

 解散後、俺は道に迷っていた。

 当然だ、誰も俺の道案内なんてせずに仕事に戻ってしまったのだから。

 この広い城内を一回歩いたきりで覚えられるほど俺は自分の記憶力に自信がない。

 どうっすかなあ、リリー居ないかなぁ。

 俺は試しに呼んでみることにした。

「リリーやーい」

「御前に」

「うおう!?」

 突然目の前に現れたリリーに思わず声が出てしまった。

 何なのこの子。忍者なの?

「リリー、今度からは普通に出てきてくれ」

「普通とは?」

 首をかしげる三つ目の子。あらやだ可愛い。

 って、そうじゃない。リリーにとってはこれが普通なのかも知れん。

 というか、普通なんだろう。

「普通っていうのは、いきなり目の前に現れるんじゃなくて、返事をしてから姿を現すってことさ」

「御意にございます」

 まぁ、何はともあれリリーと再会できたのは嬉しいことだ。

「恥ずかしい話なんだが、まだ城の中身を覚えてなくてさ。俺の部屋ってあるの?」

「本日タツヤ様が目を覚まされたのが、タツヤ様のお部屋となっております」

 あー、あの天蓋つきのベッド以外何もない部屋ね。了解了解。

「すまないが連れて行ってくれないか」

「畏まりました」

 リリーに先導されて無事俺は自分の部屋につく事ができた。

「あ~、疲れた」

 俺はそのままベッドに飛び込む。

 うむ、ふかふかである。

「タツヤ様、お食事はどうなされますか?」

 リリーが俺にそんなことを聞いてくる。

 食事か、もうそんな時間なのか。

「あー、他の連中ってどうしてるんだ」

「他の連中と申されますと?」

「グルタナとかレビンとかあいつらさ」

「四天王の皆様でしたら思い思いの場所で食事を召し上がられます」

 やっぱり四天王だったのか、あいつら。

 四天王なのに俺が入っちゃったら五人になるな。肥前の熊か。

 まぁ、それは置いておいて、どうすっかな夕食。

「部屋までお持ちしましょうか?」

 リリーが悩んでいる俺に口を出してくる。

「そうするか。頼めるか?」

「御意にございます」

 言葉だけを残してリリーの姿は既になかった。

 その日の夜はリリーに持ってきて貰った夕食を食べ、ベッドで泥のように眠った。

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