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四話

 味のしない昼食会は程なくして終わった。

 ストレス耐性がないのだからこういう展開はやめて欲しい。

「あ~。茶が美味い」

 今は食後の一服をしているところだ。

「ふむ、そろそろ紹介を始めるか」

 カルーアさん、そういうのは食事を済ませる前にお願いしますよ、本当に。

「まずはこやつじゃな」

 そういって指を指されたのは一つ目の美女だった。

「サイクロプスのレビンという。レベルは84じゃ」

 次いで指を指されたのは八本腕の有る美女。

「アラクネーのフェイという。レベルは80じゃ」

 次いで魔女っこが指差される。

「リッチのグルタナという。レベルは90じゃ」

 最後に剣士が指差される。

「デュラハンのサツキという。レベルは82じゃ」

 ……どれも逆立ちしたって勝てそうにない高レベリストじゃないですか。

 ハーレムとか思って済みませんでした。

 しかし、最後の剣士さんはデュラハンなのか。あの首取れるのか。

 見てみたいな。

 そんなことを暢気に考えているとリッチのグルタナと視線が合う。

「魔王様、何故このような弱者を幹部に据えようなどと思っておいでになられたのですか。私の魔力探知に一向に引っかかりませんよ」

 グルタナさんから核心を突く質問をずばり頂きました!

 そうだよな、普通そう思うよな。第一、俺レベル1だし。

「それはな、そ奴が祝福を受けしモノだからじゃ。おい、確か能力値カードを持っておったな。見せてみよ」

 俺はカルーアに言われるままカードを見せた。

「嘘……全部の初期ステータスが三桁もあるのにレベル1なの……」

 グルタナを始めとした四天王たちが俺のカードを見て絶句していく。

 やっぱりすごかったんだな、俺って。

「こやつの祝福の名は平凡な一生だという。カードにもそう記載されておるだろう? 我が目をつけたのはそこよ」

 どこですか?

「平凡とは非常に難しい、境界の曖昧な物じゃ。それ故魔力探知にも引っかからん。それに魔王軍に平凡な一生を送れる者が居るとしたら、そ奴は間違いなく強者よ。どうじゃ、納得いったか」

 先生、俺が納得できません!

 カルーアの言ってることが全て真実なら、俺の思い描いていた平凡な一生とは全く違うものになってしまうじゃないか。

 そんな俺の思いをよそに、四天王たちは如何様、なるほどなどと各自納得している。

 あれー? おかしいなぁ。最初からだけど、なんかおかしいなぁ。

「まあ、そういうこともあってこやつを幹部として召抱えたのじゃ。レベル1だからひとまず競技場でレベル上げをさせようと思うが、皆の意見を聞こう」

 競技場って何じゃらほい、という俺の疑問はよそに議論は煮詰まっていく。

「捕虜を捕らえて殺させるのはいかがでしょうか。競技場よりもより安全にレベル上げが容易です」

「否否、それでは実戦の感というものが身につかん。私は競技場が良いと思う」

「同意だね。レベルだけ高い唐変木が出来たって邪魔なだけさ」

「――同意」

 何やら満場一致で競技場なる場所でレベル上げをやらされることになりそうです。

 おかしいなあ、俺の意見が一個も入ってないぞ。

「ちょ、ちょっと待った」

 九つの視線が注がれる。

 ぐ、ぐう、負けないぞ。

「競技場ってのは何なんだ? それにカルーア、俺が幹部入り決定みたいなこと言ってるけど本当に良いのか? 言っちゃ何だが動物一匹殺したことのない俺だぞ!? 役に立つとは思えん」

 俺の疑問に答えたのはカルーアだった。

「競技場とは、魔物と勝負して腕を磨く場所だ。何心配するな、最初はレベルの低い魔物で練習させてやる。それと幹部入りの件だが――」

 カルーアは俺の顔を覗き込む様な仕草をする。そして朗らかに笑って見せた。

「安心せい。悪いようにはせんよ。それどころか誇らしくも有る。祝福持ちが我が魔王軍にも現れたのは我らがまったきの悪ではないという証左じゃ。おぬしは居てくれるだけでもいいんじゃよ」

 ……訳が分からん。女神の祝福持ちというのはそれほどまでにありがたい物なんだろうか。俺にとっては厄災だが、周囲にとっては祝福なのかもしれない。

 そんなことを俺はカルーアの笑顔を見て考えていた。

「そうと決まれば、早速にでも競技場へ参ろうか」

 俺以外の四人が頷く。

 仕方がない。ここは俺が折れることにしよう。

 決してやっぱりハーレム万歳! などと思ったわけではない。

「何をしておる、はよう立たぬか」

「はいはい、分かりましたよ」

 俺は仕様がないなぁといった風に立ち上がる。

 しょうがない、いっちょやってやりますか。

「競技場ってのはどこにあるんだ?」

 喧しい食堂を出て真っ先に尋ねたことはこれだった。

 食休みを取ったとはいえ食後だ。余り歩き回りたくはない。

 出来ればゆっくりのんびりと行きたい所なのだが。

「競技場は城の外縁部にある――」

 答えてくれたのはデュラハンのサツキだった。

 おお、首を小脇に抱えてる。

 どうなってるんだろ?

 ご飯食べるときには装着してたから着脱式のホースみたいになってるのかな、食道とか。

「城の外縁部って事は、城から出なくちゃならないのか?」

「いや、城の内部から通じてる通路があるから安心していいわよ」

 今度答えてくれたのはアラクネーのフェイだ。

 良かった、窓から外を見ると雪で真っ白なんだよな。カルーアも極寒の地何て言ってたから、外に出て凍えるのは真っ平ごめんだ。

暫くそのまま歩いていくと横へ向かう通路が現れた。

「お、あれか?」

「そうじゃ。それでは、今日ぐらいは皆で世話してやろうか。以後は持ち回りでタツヤのレベル上げを手伝ってやってくれ」

 カルーアのそんな言葉に連れられてゾロゾロと五人で競技場へと入っていく。

「は~、でっかいところだね、こりゃまた」

 俺は感嘆の声を挙げていた。

 競技場は俺が思っていた通り、イタリアのコロッセオのような円形の施設だった。

 コロッセオと違うのは屋根部分がありドーム型になっていることぐらいだろうか。

 きちんと客席部分らしきものまで有る。

 催し物でもやるのだろうか。

 思い思いに魔族たちが剣などを振るったりしている。

「ふふふ、凄かろう。魔大陸より連れてきた技師達の手によるものじゃ」

「ああ、すっげーな。何ていうか、凄いわ、それしか言葉に出来ない」

 カルーアと談笑しながら鍛錬に励む魔族たちの間をすり抜けていくと、変な場所に出た。

 鉄製らしき柵に囲まれた一部分だ。こちら側からの出入り口は一つ。もう一つは壁面にある石造りの扉と言う、何と言うか動物園の檻のような場所だ。

「よしタツヤ、中に入るのじゃ」

 俺は嫌な予感もそのままにその檻の中に入ってみることにした。

 存外に広い。丁寧に屋根に当たる部分にまで柵が作られており、四角形の箱の中に入った気分だった。

「カルーア、ここは何なんだ?」

 俺はそういいながら振り返ると、ガシャンと言う音がした。

 ……何の音だ?

 よく見てみると、グルタナが俺の入ってきた入り口部分にでっかい南京錠のようなもので鍵をかけていた。

「魔王様を軽々しく呼び捨てにする男には罰が必要よね」

 グルタナがそんなことを言うと、カルーア以外の三人がうんうんと頷いている。

「我は気にせんと言うのに、困った奴らよ」

 のう、なんて俺に話を振るカルーア。

 嫌違うから。そんな暢気な場面じゃないから。

 俺の予想通りなら――。

 ゴゴゴゴという音と共に壁面の扉が開く。

 そこには真っ白な体毛の狼が一匹佇んでいた。

「それはスノーウルフの幼体よ。レベルは5って所かしら」

「安心しなよ、あんたの初期ステータスなら十分勝てる相手だ」

 レビンさん、それ全く慰めになってないからね?

「ウウウゥゥゥ!」

 何か凄い唸ってるんですけど! 幼体っていっても2メートル位あるんですけど!

「タツヤよ、ガンバじゃ!」

 ガンバじゃねぇよカルーア! 事前説明をきちんとしてくれよ!

「ガォウ!」

 咆哮一閃、スノーウルフが俺に飛び掛ってきた!

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