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二話

 そんなこんなでやってきました冒険者ギルド。

 でかい。他の石造りの家とは一線を画すほどでかい。作るのにどれだけの人足が要ったんだろうとか益体のないことを考えていた。

 そんなことを考えられるほど暇だ。

 駕籠君と伊藤さんは報告があるからとか言って俺を置いて行っちまうし、ギルドの連中からは好奇の視線で見られるし、受け付けさせて下さいとか言う雰囲気じゃないのよね。

 すいてんだけどなー、受付。今のうちに冒険者登録してしまおうか?

 でも二人とも待ってろ的な雰囲気だったしな、やっぱり止めとこうか。

 あ、受付嬢と目が合った。サッと逸らされる目線。

 うん、行こう。ここまで露骨に避けられるなんて理不尽だ。

 そんな俺に絡まれる理不尽をあの受付嬢にもあって貰おう。

「あの、すみません」

「…………」

「あの~、冒険者登録をしたいんですが」

「…………」

 無視かこのアマ。ふざけやがって。

 ネームプレートは……日本語じゃん。カタカナじゃん。

 何々、アマンダ・ストームさんね。

「アマンダさん」

 俺が名前で呼ぶと条件反射なのか笑顔でこちらに振り返るアマンダさん。

「冒険者登録をね、したいんですよ」

「え~と、そのですね」

「冒険者になりたいんですよ、私はね」

「大変申し上げにくいんですが、あのですね」

 縮こまるアマンダさん。何やら事情があるような雰囲気。

 こういう時はあれだ、下っ端に何を言っても無駄な時だ。例えるならそう、平の営業に値下げ交渉しても上手くいかない時と雰囲気がそっくりだ。

「アマンダさん、そちらの事情は良くわかりました」

「へ? いや、私は何も――」

「みなまで仰らなくても窺い知ることは可能です。所謂上からの圧力という奴でしょう?」

「は、はあ」

「ご無理を言って申し訳なかった。暫く座ってることにしますよ」

 俺はそういって受付を後にした。

 そして先ほどと同じところに着席……事態が一向に進んでいないことに気がつく。

 何をやってるんだ俺は? あそこは上のものを出せという場面ではなかったのか?

 おのれアマンダ、ちょっと別嬪さんだからといって俺を煙に巻くとは、たいした交渉術だ。脱帽せねばなるまい。

 だがどうしようか、今更戻って上のものを出せというのは簡単だ。簡単だが格好がつかない。格好がつかないことはしたくない。

 俺がうじうじと悩んでいると、施設の一部で歓声が上がった。

 何じゃらほいとそこ――二階部分を見てみると、駕籠君と伊藤さんがお偉いさんっぽい小太りな男に先導されて階段を下りてくるところだった。

 一歩下りる毎に歓声は大きくなり、一階に下り切った頃には大歓声となっていた。さながら野球の優勝パレードのようだと場違いなことを感じる俺。

「諸君! この度勇者カゴ様と大賢者イトウ様の手により東の魔王は討伐された! 残された魔王は北の魔王只一人! 今日は盛大にこの慶事を祝おうではないか!」

 小太りなおっさんが歓声に負けないほどの大声で何やらしゃべっている。

 これも変な話だ。女神様が言ったことは覚えている。魔王の勢力伸張が著しいと。もう残ってるの一人だけじゃん。まぁ、平凡な一生を送ることを約束された俺にしたら嬉しい限りだが。

 てか、やっぱり勇者だったんだ駕籠君。もてるんだろうな、羨ましい。

 俺がそんなことを考えていると、歓声を浴びながら駕籠君がこっちに来る。

 止めろと、悪目立ちするから来るなと念じていた俺の願いもはかなく駕籠君は俺の目の前にやってきてしまった。

「高橋さん、改めまして、勇者なんかをやっている駕籠です」

 そういって頭を下げる駕籠君。お祭り騒ぎの施設内でも主役の一人がそんなことをするから俺が目立つ目立つ。

「聞きたいことは一つだけなんです、答えてくれますよね?」

 答えてやるからこの状況をどうにかして欲しい。俺は小声で駕籠君が欲しいであろう情報を伝えることにした。

「生まれは日本のI県だよ。これでいいかい?」

 俺の言葉に駕籠君は満面の笑みを浮かべた。そうして俺の手を取る。おいよせ、何をする気だ。今でさえ相当数の人間から嬉しくない視線を送られているってのに。

「みんな、聞いてくれ! この人の名前は高橋達哉さん、俺と同じ女神の祝福を受けた人間だ! きっと魔王討伐の役に立ってくれる!」

 その声で歓声は益々大きくなっていった。

 小太りなおっさんが見かけによらすスピーディに駆け寄ってくる。

「何と、それは真ですかカゴ様!」

「ああ、本当だ。俺と同じ国に生まれた男性で、祝福を得てこの世界に降り立ったんだ」

 身バレ所の話じゃなかった。異世界人ってこっちの人たち知ってんのかよ。

「何と何と、その話が真ならばこれほど嬉しいことはございません。北の魔王は魔大陸へと繋がる回廊を守護する随一の使い手。配下も精強と聞いております。その前に力強き仲間が増えてくださったのは僥倖という他ございません」

 止めろ、勝手に盛り上がるな。俺の祝福は平凡な一生だぞ? 魔王討伐なんて俺の出る幕じゃないんだよ。

 そこんとこ、分からないんだろうなあ。分かって欲しいんだけどなあ。

 心底嫌そうな顔をしている俺の事は放って置かれてヒートアップする周囲の歓声。

「ではタカハシ様、能力を測るためにこちらの水晶へ手を置いて下され」

 小太りなおっさんが何やら水色に輝く水晶を持ってくる。

 これで能力が測れるらしい。

 止めてくれ。こんな状況で俺の低いであろう能力値がばれたらまた自殺したくなっちまう。

「いや、今日は日が悪いので改めて後日というわけには――」

「大丈夫ですよ高橋さん。どんな祝福でもこちらの人間達より俺たちは能力値が高く設定されてるようなんです。俺のときなんかはこの水晶が割れてしまったぐらいで」

 それはお前がリア充だからだ、とは決して口に出さない。それぐらいの分別はつくつもりだ。

 問題は能力値だ。嘘か本当か俺には知る術がない。これで高くなかったら大恥かいてしまう。

 だが無情にも俺の掌は水晶へと置かれてしまう。

 さあ、どうなる!

 と意気込んでみていた俺の目の前で、水晶に無数の亀裂が入っていく。最終的には音もなく崩れ去ってしまった。

 やったんじゃね? これで俺もチート組の仲間入りじゃね? 別に入って魔王討伐はしたくないけど。

「おお、まさか能力測定球が崩れてしまうとは、弾けとんだカゴ様やイトウ様とは多少違うが、とんでもないお力をお持ちのようだ」

 小太りのおっさんがそういいながら何やらカードのようなものを手にしている。

「さあタカハシ様、これが貴方様の能力値カードです。なくさすにお持ち下さい」

 そういわれてカードを受け取る俺。

 そこには俺の名前と祝福、それと力だとか知力だとかが数値化されていた。

 おお、俺の能力はどれも三桁だ。レベル1でこれなんだから、レベルを上げればもっとすごいことになるに違いない。

 うん? 所属勢力が空白になっているが何でだ? 普通は人間側とか勇者ご一行とかになるんじゃないのか? それに人種も空白だ。普通は人間だろう。

 俺がそう頭を捻っていると、突然辺りが暗くなった。

「何だ!?」

「どうなっているんだ!?」

 叫び惑う人々の声が聞こえる。かく言う俺もそうだ。

「絶対平凡な一生じゃないだろこれ! あの駄女神! 嘘つきめ!」

 俺はそういいながら手近なテーブルの下に避難した。

「落ち着け! これは魔王の手によるものだ!」

 叫んでいるのは駕籠君だ。

 何で魔王が? と思わなくもないが、魔王討伐の経験者が言うんだからそうなんだろう。

 出来れば俺の疑問が解消されて宿に入ってからこういうイベントが起きて欲しかった。

『我は北の魔王カルーア。人間どもよ始めまして』

 頭に直接響いてくるような声がする。北の魔王ってさっき話に出てきた奴じゃん。最後の大物じゃん。もっと後ろに構えてろよ! 前に出てくんなって!

「貴様が北の魔王か! 丁度いい、ここで白黒決着をつけようじゃないか!」

「待って駕籠君! ここじゃ被害が大きくなりすぎるわ!」

 駕籠君と伊藤さんが何やら話し合っている。

 うん、伊藤さんの言うとおりだね。被害が出るから決着は相応しい舞台で、具体的には俺が巻き込まれない場所でやってくれ。

 そんな俺たちを嘲笑うかのように黒い気配は段々とその密度を増しているようだった。

『まあ待て、勇者カゴよ。今回は争いに来たわけではない。我が同胞を迎えに来たのだ』

「同胞だって!? ここには人間や亜人種しかいない! 世迷言をほざくな!」

「そうよ! ここに魔族はいないわ! 私の魔力探知でも反応がないもの!」

 二人が北の魔王カルーアと言い合ってるのをよそに俺は黒い密度を増していくそれを眺めていた。間違いなく、俺の目の前で密度が濃くなっている。

 あれ? おかしくね? こういうイベントはお呼びじゃないんですけど!

 俺の叫びとは裏腹にその黒さが実体をもったのは直ぐ後のことだった。

 耐えようのない重圧が俺に圧し掛かる。

『ここにいるではないか、我が同胞が』

 俺の目の前には、総白髪の容姿端麗な美女がこちらに手を伸ばしていた。

「お、俺!? そういうことは別の人担当と違うんか!?」

 思わず地が出てしまった。

 だがそんな事はお構いなしに黒の中から伸ばされた腕が俺の腕を掴む。

「高橋さん!? 糞、その手を離せ!」

 俺の窮地を見て取った駕籠君が腰から剣を抜いて斬りかかって来る。

 しかし、その剣先が届くことはなかった。

 何せとっくに俺は黒の中に取り込まれていたのだから。

 レベル1に期待しちゃいかんよ。

『我が同胞は返してもらった。勇者カゴよ、北の大地にて貴様を待つ。我を失望させるなよ』

 その声を聞きながら俺の意識はぷっつりと途絶えるのだった。

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