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一話

「おおー、すげぇ本当に異世界チックだ」

 気がついた俺の目の前には、中世ヨーロッパ風の町がどででんと待ち構えていた。

 町の周囲を囲む城壁のような壁はモンスター対策だろうか。結構な高さがある。

 俺の姿も現世やあの不思議空間に居た頃のようなスーツ姿ではなく、黒っぽい貫頭衣を基本に皮の鎧と腰には一本の剣。完全に冒険者のような姿だ。

「すげー、冒険者ライフがここから始まっちゃうのか? 剣重たいわー、皮の鎧ってこんな感じなんだーすげぇ」

 俺は町に入るでなく暫くの間剣を振ってみたり皮の鎧をべたべたと触ってみたりとおのぼりさんのような行動をしていた。

 いやまぁ、実際異世界おのぼりさんとでも言おうか、それに当てはまるのだから俺の行動は間違っては居ないはず。

「っといかんいかん、何時までもこうしていたら不審者だ。さっさと町の中に入って冒険者ギルド的なところに行こう」

 冒険者ギルドは大抵の異世界モノに出てくる通過儀礼だ。身分証を出してもらったり仕事や宿を紹介してくれる。

 ん、そうすると冒険者ギルドってハロワじゃないか……。いかん、空気が若干重たくなった。俺はもう何者にも縛られない冒険者だ。気にせず行こう。

 町に近づくと門があり、門衛的な人が二人佇んでいた。

「あの~、すみません」

「ん? 何だお前は」

「実は田舎から出てきたんですが、右も左も分からなくて」

 必殺、ありきたりな嘘炸裂である。社会人の基本スキルだ。これで出来るのと出来ないのとでは会話の入りが俄然難しくなる。

「おお、そうか、確かに見ない顔だな。よし、何か教えて欲しいことでもあるのか?」

「実は冒険者になりたくて来たんですが、そこら辺の情報がさっぱりで。よろしければ教えていただけませんか」

「おおいいぞ」

 ここからはむさいおっさんに基本を教えてもらう俺の図だった。

 話の内容は要約するとこうだ。

 ここは始まりの町と呼ばれるファスタ。俺のような冒険者を目指す若者やらおっさんやらが日夜訪れる町だという。

 冒険者になるためには冒険者ギルドに行き登録手数料を支払って、晴れてFランクの冒険者になると言う。

 そこからは同じ志を持つもの同士パーティを組むもよし、一人でももくもくと仕事に励むもよしのフリースタイルだという。

 登録手数料って何だよ、金なんて持ってないよ俺は。

 そう思いながら身体をまさぐっていると出てきました、謎の子袋、

 中を覗くと銀貨が二枚ぽっち入っていた。

「おお、二千ルーンか。登録手数料は確か千ルーンだから十分間に合うぞ。

 親切な門衛のおっちゃんの言葉に歓喜する俺。

 よかった。流石に女神様も文無しで放り込むほど鬼畜じゃなかった。

 しかし登録料が千ルーンって事はだ、俺は嫌な予感がしつつおっちゃんに尋ねた。

「実は腹も減ってるんですが、千ルーンでいくら食べられますかね?」

「千ルーンか。良いとこ二食ってモンだろうな」

「あの~。駆け出しの冒険者が泊まる宿なんてのは?」

「あるわけないだろう。いいとこ二千ルーンで雑魚寝部屋に泊まるのが精々だ。後は馬小屋とかを貸してもらって寝るんだな」

 馬小屋なら只だぞという言葉は既に右から左に聞き流していた。

 あの糞女神、何が平凡な一生だ! 小遣い程度の路銀じゃねぇかよ! 一ルーン一円換算じゃねぇか!

 馬小屋住まいか……風呂ぐらいは入れるよな?

「そうすると風呂の方は?」

「一回五百ルーンで大衆浴場には入れるぞ。安心しな兄ちゃん、魔剣士カゴ様も大賢者イトウ様も皆ここから始まったんだ。地道に行くしかないんだよ」

 絶対二人とも転生者っぽいんですけど。大賢者なんて伊藤さんかよ。どこの伊藤さんだよ。

「そうですよね、いつかは二人に並び立つような冒険者になりたいと思います。色々と親切にありがとうございました」

「おう、兄ちゃんも頑張ってくれよ」

 俺は挨拶もそこそこにそそくさと町の中に入っていった。

 町の中もザ・中世という趣だった。石造りの家々が立ち並び、メインストリートと思しき町に入って直ぐの中央通には露天が立ち並んでいる。

 ここでも俺はおのぼりさんよろしくあっちへふらふらこっちへふらふらと不審者のような動きをしていた。

 当然だろ? エルフとかドワーフとか獣人とか、それっぽいのがいるんだからついついきょろきょろとしてしまうのは不可抗力なのだ。

「おい、痛いじゃないかあんちゃん」

「オーオー腫れちまって、こいつは教会で治癒魔法をかけてもらわないと駄目だな」

 ……そんな俺が誰ともぶつからずに移動できるわけがないのも不可抗力なのだ。

 ものの見事にヤクザでございといった風体の二人に絡まれる俺。

 おかしい、俺の祝福は平凡な一生なはずだ。それにはこんなイベントは不必要なはずだ。

 あっれぇー、おかしいぞ。

「す、すみません。なにぶん田舎から出てきたばかりなもので右も左も分からずに、不注意でした。すみません」

 米搗きバッタよろしくぴょこぴょこと頭を下げる俺。

 必殺、安いプライド。頭を下げることでいちゃもんから回避できれば――。

「おい、謝罪はいいから誠意を見せろよ」

「せ、誠意と申しますと?」

「決まってるだろ、金だよ金」

 出来るわけがなかった。

 金って、二千ルーンしかないんだけど。

 登録料に千ルーン使うから千ルーンしか出せないんですけど。

 俺は困り顔であたりを見渡した。

 サッと顔を背ける住人達。無情だ。無常でも有る。

「すみません、千ルーンしか持ってないんです。どうかこれでご勘弁を」

 俺は顔は泣きそう心は苛立ちながら、子袋から銀貨一枚を取り出した。

「おいおい、たった千ルーンぽっちじゃ治癒魔法かけてもらえないぜあんちゃん」

「おうそうだな、ちょっとあっちでお話しようか」

 あっち……人のいない脇道である。

 身包み剥ぐ気満々じゃん! 装備取られたらザ・一般人に格下げになったちゃうんですけど!?

 ここは仕方ない、禁じられた必殺技土下座を繰り出すより他はない。

 俺はそう思って膝を着こうとしたところ、周囲のざわめきに気がついた。

 なんじゃらほいと顔を上げると、顔面蒼白なヤクザのお二人。

「あの~、如何いたしました?」

「な、なぁ! 俺たちって友達だよな!?」

 いきなり何をおっしゃるウサギさん。どう見てもヤクザに絡まれてた一般人じゃないか。

「いえ、生憎と私は田舎から出てきたばかりで――」

「三万ルーンでどうだ!? 口裏を合わせてくれるだけで三万だそう!」

 ヤクザズは必死な形相である。今更俺にびびった訳じゃないのは口ぶりから分かる。

 そうすると、俺から見えない場所、詰まりは後ろに二人をびびらせている対象がいるわけだ。

「そうですねぇ――」

 俺は悩む振りをしながら後ろを振り返った。

 そこには如何にも勇者でございといった風体の男と魔法使いですあたしといった風体の男女二人組みが周囲の歓声に応えながらこちらに向かってきているところだった。

 察するにこの町のヤクザモンを震え上がらせるほどの実力者。助けを呼べば助けてくれるだろう。というか勇者っぽい男の視線がこちらを向いているし、歩みもこちら側だ。放っておいても助けてくれそう。

 ここで俺の選択肢は三つだ。

 まずは助けを呼ぶ。二人は俺のことを助けてくれるだろう。

 二つ目は来るまでこのヤクザ二人の怯えっぷりを堪能する。人の不幸で飯が美味い。

 三つ目は――。

「おい、いくらまでなら出せる?」

 貰えるモンは貰っちまおうっていう選択肢だ。

「三万、三万だ!」

「もう一声!]

「ええい、四万だ、持ってけ泥棒!」

 ヤクザ2が懐から取り出した金貨四枚を素早く回収する。

 大丈夫だ、後ろからでは死角になって見えないはず……!

「おい、そこの君達」

「はい、なんでしょうかい?」

 俺は後ろに振り返るとにこやかな笑みを浮かべて見せた。

 その表情に若干の違和感を感じたのか、声の主、勇者風の男が困ったように頬を掻いた。「あー、何やら揉めていた様に感じたんだが」

「揉めるですって? ええまあ、確かに揉めていましたよ」

 俺の言葉にヤクザズが人一人殺せそうな視線を送ってくるがまずは無視だ。

「そうか、やっぱりね。おい貴様ら――」

 俺を押しのけてヤクザズにすごもうとする勇者風の前に、手を出す。

「まま、話を聞いてください。確かに揉めていたとは言いましたが、別にいちゃもんをつけられていた訳ではないのですよ」

「え?」

「彼らには貸しがありましてね、それを出し渋っていたので揉めていたんですよ」

 俺の手の上には先ほど頂戴した四万ルーンが鎮座している。

「そ、そうなんですよカゴ様! 俺達が悪いのでさあ」

「え、ええ、ええそうなんです。この兄ちゃんには貸しがあって、どうにかまからないものかと交渉していたんですよ」

 俺の話に乗っかるヤクザズ。

 ていうかカゴ様? 門衛のおっちゃんが言ってた魔剣士の?

 もしかして後ろの魔法使いっぽい杖を持った女の子って、伊藤さん?

「もしかして、カゴ様ですか? 魔剣士の?」

 俺たちのチームワークに参っていた風のカゴ? とか言う男はそうなんだとばかりに頷いた。

「ああ、確かに俺はカゴだよ、駕籠雄治って言うんだ。後ろの女の子は伊藤香里。貴方の名前は?」

 後ろを振り向くと既にヤクザズの姿はなかった、逃げ足の速い奴らだ。

「私ですか? 私は高橋達哉と申します。以後お見知りおきを」

 俺の名乗りを聞いて駕籠君――俺より年下そうだから君で良いだろ――の表情が険しくなった。

「すまないが貴方に聞きたいことが出来た。これから冒険者ギルドに行くんだけど、付いて来てくれるかな?」

 おっと、身バレしちまったかな。

 まあいいさ。護衛つきで冒険者ギルドまで案内してくれるんだと思えば何てことはない。

 何てことはないんだから、市民の皆さんそんな好奇の視線でこっちを見ないで!

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