最終話
加藤さんが去ってから数日後、イスドレン城は上に下にの大騒ぎとなっていた。
勇者襲来である。
「そうか、いよいよ駕籠君が攻めてきたのか」
食後の煙草を吸っていた俺にグルタナからの厳しい叱責が飛ぶ。
「そんな悠長に構えてる場合じゃないでしょう!? 急いで部下達に指示を出さないと!」
「指示はもう決まってるよ。丁重に謁見の間までお通ししろ、だ」
「あんたねぇ、無傷の勇者とやりあうつもり!?」
短気はいかんね、グルタナ君。
それにやりあうんじゃない。話し合うんだ。
「それじゃあ四天王の皆とカルーア、付いて来てくれ」
「ちょっと! あんな布切れでどうにかなるの!?」
「グルタナよ、心配なのは分かるがタツヤを信じてみようぞ」
「カルーア様まで……」
心配性だな、我らが四天王筆頭様は。
「安心しろ。あんな布切れが効果を発揮するのが俺たちの世界なんだ」
そういって俺は食堂を後にした。
さて、場面は謁見の間に移る。
なんとも足の速いことにそこにはもう伊藤さんと駕籠君の姿があった。
「若人となると足が速いね」
「高橋さん……高橋さんですよね?」
おりょ、もうばれてる。
フルフェイスの兜被ってんだけどなぁ。
「ばれてた?」
「行く先々の魔族が白旗掲げてるんですから、嫌でも高橋さんの入れ知恵だって気が付きますよ」
やっぱりなー。白旗の文化がないところだモンなぁ。
「それで高橋さん、魔王に、なられたんですね」
駕籠君は悲痛そうに顔を伏せる。
「そうだよ、なっちまったんだよ、魔王に」
「香里から魔力探知に引っかからない穴が移動してると聞いてもしやと思ったんですが……すごいですね、前に立っても魔王って感じが全然しない」
褒めてるんだか貶してるんだか……褒めてんのかな。
しかし穴か。そういう見方も出来るわけだ。
バレバレですな、俺の動き。
「高橋さん、狙いは何なんですか? 何故俺たちを何の抵抗もなく招き入れたんですか?」
「駕籠君、俺の祝福、知ってるかい?」
「ええ、確か平凡な一生ですよね?」
「その願いをかなえるために、君達を招き入れたんだ」
「願い?」
わかんねえか、わかんねえだろうな。
「俺達魔王軍と講和をして欲しい」
「講和ですって?」
「今、真大陸側の諸国は魔王軍の脅威に晒されて連合を組んでいるよね?」
「はい、かれこれ八〇〇年ほどそうなると聞いていますが」
八〇〇年か、なげなそりゃあ。
「その連合国家を君が主導して講和の席に立たせてほしい」
「そんな、今更講和だなんて――」
「今だからだよ、駕籠君。俺と君達がいる今だからこそ可能なんだ」
「じょ、条件はどうするんですか!? 今更に過ぎますよ、講和だなんて!」
「魔族側の魔大陸への完全撤退、および通商協定の締結」
さあここからが一世一代の大博打だ.
信じてるぜ、駕籠君。
「足りないなら、俺の首をつけよう」
俺の言葉に、場に居る全員が信じられないといった表情をした。
「高橋さんの首って……」
「言葉通りだ。俺の命と講和を持って帰れば、君達は英雄になれる。英雄の言葉を無視するほど、君達が守り戦っている国々は非情じゃないだろう?」
俺の言葉に駕籠君と伊藤さんは何も言えなくなってしまったようだ。
「タツヤよ、何もお主が命を賭けることなぞ――」
「あるんだ、カルーア」
「駕籠君、魔大陸を統治している人は加藤雄吾さんといって俺たちと同じ日本人だ。講和の場には必ず出てくる。後は彼と話を詰めればいい」
さあ駕籠君、君ならどうする。
まだ若い君なら――。
「――分かりました、講和の件、持ち帰って話してみます。それと、首の件ですが……」
駕籠君が魔剣をシュラリと抜く。
さあ、どうなるかな。
瞬間、鮮血が舞った。
「――ヅァ!」
俺の右腕が地に落ちていた。
「右腕を首の代わりに頂いていきます、後は――」
駕籠君は言うが早いか自分の左腕を切り落とした。
「雄治!」
伊藤さんが駆け寄って回復魔法をかける。
「俺の左腕を貴方に。これで激戦の後講和の話がでたことになりますね」
「俺のでだけで良かったのにな――無理をする」
「若いですから」
「それじゃあ、頼むぞ、若人」
「頼まれました」
俺たちは笑って別れた。
その後、講和の条件で揉めはしたが、無事締結。
長きに渡る人魔の争いに終止符が打たれた。
どんとはらい。




