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九話

 翌朝から俺の生活は一変した。

 と言うことはなかった。

 それも当然で、あくまで魔王になると宣言をしただけで、俺は未だに幹部のままだからだ。

 それもレベル一桁の。

 と言うわけで今日も今日とて競技場には行かねばなるまい。

 そんな訳でベッドの隣を見ると、そこには真新しい皮の鎧と鉄の剣が鎮座しているのだった。

 ……いい加減これともおさらばしたいなあ。

 そう思いはしたものの、カルーアの言葉を思い出して自戒する。

 いかんいかん、俺はまだまだ未熟者。良い装備は手練になってからだ。

 俺はいそいそと着替えることにした。

「リリーやーい」

「御前に」

「悪いんだけど、今日も食堂まで先導頼むわ」

「御意にございます」

 いい加減食堂までの道も覚えないとなぁ。

 それにしても、昨日あれだけ血を流したのに一晩経てばケロリとしてる辺り、俺もいよいよ人外だなぁと思わされる。

 人外といえばもう一つ。

 俺、攫われてから風呂入ってねえや。

 今日辺り入ろう。

「リリーやーい」

「はい、何でございましょう?」

「風呂って有るんか?」

「ございます。四天王の皆さまようの小浴場と一般兵向けの大浴場の二種類です」

「そうすっと、俺は小浴場の方になるのか」

「はい、そうなられます。お風呂の方をご所望ですか?」

 麻風呂か……いいな、でも鍛錬があるからな。

「いや、今日の終わりに入るよ。準備の方頼むわ」

「御意にございます」

 そんなこんなでやってきました喧しい食堂。

 リリーの後について指定席までやってくると、先客がいた。

 レビンは勿論のことだがフェイが八本の腕を華麗に駆使しながらご飯を食べている。

 こうしてレビンと対比すると、フェイのスレンダーな体型が目に付く。

 決してグルタナのようなストーンツルーンぺターンとは違うささやかながらも主張している胸に括れた腰、安産型のお尻。

 赤毛のショートの髪の毛も釣り目がちな勝気そうな表情に良く似合っている。

 ……俺は朝から何を実況してるんだろうか。

 別嬪さんなのは前から分かっていたことだ。

 ハーレム万歳。

「よおレビン、フェイ。おはよーさん」

「おう、おはようタツヤ」

「あら、おはようタツヤ」

 挨拶もそこそこに、リリーが準備してくれた飯を食う俺。

「今日も元気だ煙草が旨い」

「よくそんなものが吸えるわねー?」

 食後、今日の俺の担当はフェイということでレビンはそそくさと退出してしまった。

「旨いもんだぜ? 女が吸うのは認めんがな」

「何よそれ? 勝手な言い分ね」

 フェイとこうして話すのもいいもんだな。

「それじゃあ、競技場に行きますか」

「はいはい、行きましょうね」

 競技場では俺の要請もあって再びスノーウルフの成体と戦闘を行うことにした。

 先の先だ。

 今までなら出来なかったが、今の俺にはこれがある!

「ファイヤーボール!」

 燃え盛る火球がスノーウルフにぶつかる。

「キャウン!」

「効いてるわよタツヤ!」

 フェイの声援が飛んでくる。

 効果は覿面だ、って奴だな。

「うおおお!」

 間髪要れずに俺はスノーウルフの前足目掛けて斬りかかった。

「ギャン!」

 俺の攻撃によりスノーウルフは両前足を失っていた。

「これで止めだ」

 俺は右手に魔力を多めに集めた。

「ファイヤランス!」

 炎の槍が動けなくなったスノーウルフに突き刺さる。

「ギャオーン!」

 断末魔の叫び声を上げてスノーウルフは動かなくなった。

「どうだフェイ。俺もやるもんだろう」

 俺は誇らしげに振り返った。

 そこにはフェイの笑顔。

「驚きだわ、タツヤ。僅か三日でスノーウルフの成体を倒せるようになるなんてね。魔王様が知ったら喜ばれるわよ?」

「フェイは喜んじゃくれないのか?」

「勿論、私だって嬉しいわよ」

 何とはなしに自分の能力値カードを見てみる。

 そこにはレベルが10になったことを知らせる数字が出ていた。

「お、フェイ。レベルが10になったぞ」

「あら、本当ね。やっと二桁ね、貴方のレベル。今日はお祝いかしら?」

 そんなことを話しながら、結局その後十匹のスノーウルフと戦闘を行った。

 後半にはレベル10のスノーウルフもいたが、破壊魔法を使いこなせるようになった俺の前では敵ではなかった。

 最終的に俺はレベル13にまで上がっていた。

「ふんふふ~ん」

「ずいぶんとご機嫌ね、タツヤは」

 フェイは分からないだろうなぁ、俺がご機嫌な理由が。

「何かあったの?」

「レベルが二桁になっただろう? そろそろ武具の交換が必要なときじゃないかと思ってね」

 フェイは俺の言葉に、あー、と納得したかのように頷いた。

「ずっと鉄の剣と皮の鎧だったものね。鋼の剣ぐらいはもらえるんじゃないのかしら」

 鋼の剣、良いねえ響きが。

 これぞ冒険者って奴だよなあ。

 まあ、俺はとっくに冒険者じゃないんだけどね。

「と言うわけでカルーア、武具を見直して欲しい」

 昼食の場で、俺は開口一番そういった。

「どうしたんじゃいきなり?」

「レベルが13になったんだよ。俺もそろそろ新しい武具が欲しい」

「ほお、レベルが10を超えたか」

「はい、スノーウルフ相手にも怯まず戦えております、魔王様」

 フェイの言葉にカルーアは感心したように頷いた。

「良かろう、次回からは鋼の剣と魔獣の鎧を授けよう。励むが良い」

「サンキューカルーア」

 俺はそういってカルーアの髪を撫でた。

「な、何をするのじゃ!?」

 お、真っ赤になりやがった。こいつもおぼこかよ。

「何って、感謝の気持ちを表しただけだよ」

「それなら言葉だけでよかろう! 軽々しく乙女の髪に触れるでないわ!」

 乙女ってあーた……まあ、乙女か。

「良いじゃんかよー。ご褒美だと思ってくれれば良いだろう?」

「ほ、褒美で頭を撫でる奴はおらん!」

 ッち、ガードが固いな、流石は魔王。

「へいへい、それじゃあ二人きりのときだけ撫でることにするよ」

「ふ、二人きり――!?」

 また赤くなりやがった。おもれー!

「こらタツヤ、魔王様をからかうんじゃないよ」

「――斬る?」

 ごめんなさい。

 だからサツキさん、腰のものを抜くのは止めて下さい。

「ねえフェイ」

「なんだグルタナ」

「タツヤの魔法、どうだった?」

 おりょ、グルタナさん、気になりますか?

「完全に使いこなせていたよ。なに、気になるの?」

「そりゃあ、私が教えたんだもの。気になるわよ」

「師匠の腕が良いからな、バッチグーだったぜグルタナ」

「そう、なら良かったわ」

 そうして昼食会は過ぎていった。

「あ~、一仕事したあとの一服は格別だな」

 そうして俺は食後の一服を楽しんでいた。

 何せ競技場で魔法を連発したせいで午後からも競技場と言うわけにはいかなくなってしまったのだ。

 まだ俺は魔法の手助けなしにスノーウルフは狩れないとの証左でも有る。

 ちょっと悔しい。

「ねえタツヤ、午後からはどうするの?」

 尋ねて来たのはフェイだ。

「どうすっかな~、予定がないんだよ」

「それならさ、部下の教練手伝ってよ。練習試合でも経験値は入るから丁度いいと思うの」

 なに、練習試合でも経験値が入る?

 初耳ですよ、奥さん。

「行く、やる。教練する」

 こうして俺とフェイはフェイの部下の教練のために競技場に舞い戻ることとなった。

 競技場は魔族でごった返していた、

「は~、これ全部フェイの部下か?」

「違うのもいるよ。教練は自主参加だからね」

 てっきりアラクネーばかりだと思っていた俺の目の前にはサイクロプスやオークなど違う種族の魔族も立ち並んでいた。

「それで俺はどうすればいいんだ?」

「そこら辺の魔族と適当に練習試合してくださいって頼めばいいのさ」

 適当だなぁ。

 俺がそんなことを考えていると、早速フェイは声をかけられていた。

「フェイ様、俺と教練をして下さい」

「いいわよー。それじゃあ始めましょうか」

 その声に呼応するかのように、フェイと声をかけた魔族を中心に一辺十メートル位の緑色の空間が出来上がった。

 あんなんでいいのか。

「祝福持ち様、俺と教練をして下さい」

 お、俺にも声が掛かった。

 振り向くとそこには一人のオークが立っていた。

「良いぜ、やろうか」

 俺の声に呼応するかのように緑色の空間が出現した。

「そういえばさ、武器とかはどうなってるんだ?」

「ご安心を。見た目は通常のものですが、威力は非殺傷化されております」

 そういってハルバードを構えるオーク。

 なら安心だ。

 勝負開始!

「てやあああ!」

 俺は咆哮一閃オークに斬りかかった。

「なんの!」

 俺の鉄の剣は簡単にハルバードではじき返される。

「今度はこちらからいきますぞ!」

 振りかぶられるハルバードを俺は鉄の剣で受け止めようとした。

 獲物と獲物がかち合った瞬間、俺たちのいる空間は赤色に染まった。

「おりょ? どうなったんだ?」

 何時の間にやら空間も無くなっていた。

「今のは俺の勝ちってことですよ、祝福持ち様」

 あら、そうなの?

 アホ面をさらしている俺に親切なオークは説明をしてくれた。

「今のは鉄の剣でハルバードを受け止めきれないって判定を出されて俺の勝ちになったんですよ。そういうのを自動で判定してくれるんです」

 ほえ~、便利ッちゃ便利だな。

 俺は自分の能力値カードを見てみる。

 レベルが1上がっていた。

「戦闘時間が長ければ長いほど経験値は多くもらえる仕組みですよ」

 ありがとう親切なオーク君。

 これからは俺、積極的に教練に参加するよ。

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