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冥姫  作者: 大雪
第一章 忘却の罪
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第三十五話 決意

「椿に話しちゃ駄目ですか?」

「え?」

「確かに椿は今の時点で凄く怖がってます。でも、だからといってやはり何も言わないのはやっぱりおかしいと思います。だって、病気とかでも結局はそれと戦うのは本人なんです」

「香奈さん」

「それに暗示は完璧ですか? もしその犯人と対峙している時に正気に戻ったらどうなるんです? それこそパニックですよ」

「それは、その」

「でも、最初から納得済みだったら、絶対にパニックにならないっていう保証はなくても、突然暗示が解けるよりもよほど安全じゃないですか? それに、よく霊とかって本人の意思である程度憑きにくく出来るというかなんというか」

 でも一番の方法は、そういう場所にまず行かない事だ。

 しかし向こうから来ると言われている今はそれが使えないから、やはり本人の気力が鍵となる。

「……けど、もう時間が」

「椿の事は私達が説得します」

「え?!」

「いや、香奈、それは厳しいんじゃ」

「まあ厳しいけど――何とかなるでしょう。死にたくなかったら手伝えって言えば」

 それで何とかなるのか?!

 しかも説得ではなく脅迫だ。

「香奈、それなら別に私達じゃなくても」

「私達だからだよ。ただでさえ怯えている状態で見知らぬ章子さん達に突然協力してと言われるよりは、長い付合いの私達が言った方が良いんだよ」

「なんで?」

「椿の弱みを徹底的につける」

 鬼だ。

 こいつ悪魔だ。

 美鈴は激しく心の中で香奈を罵った。

「確かに良い方法ではありますが……もし、失敗したら?」

「その時は、椿の命が保証される最も良い方法を選んで貰って構いません。ただ聞きたいんですけど」

「何?」

「その組織の目的は今回の事件を解決する事と聞きました。でも、それは犯人を倒す事と人命のどちらが重要視されているんですか?」

「香奈?」

「だってそうじゃない。もし犯人を倒す事が最優先なら、いざとなったら椿は切り捨てられるもの」

「……聡い方ね」

 章子がクスクスと笑った。

「組織的には、犯人を倒す事が最優先よ。でも、だからといって人命を切り捨てる事はできる限りしない。けれど最後の最後は分からない」

「……」

「そして私達は組織に従う。組織の能力者だから。でも――協力者は違うわね」

「え?」

「組織所属ではないから。協力さえしてくれれば、何をしても構わない。私達の邪魔にさえならなければ」

 つまり、椿を守る為に何をしようと構わないと言っていると香奈は悟った。

 ならば――。

「じゃあ、私も自分の思うとおりに動きます」

「か、香奈?」

「美鈴達はどうする?」

「え?」

「この人達は最後の最後では椿を切り捨てるかもしれないと言う。ならば、最後の最後で椿を守るかどうかは私達次第」

「香奈、それって」

 美鈴は焦った。

 それについては、最初に椿に話を聞いた時に散々美鈴と梓でやり合った事だ。

 所詮中学生の自分達が殺人犯と正面切って戦える筈も太刀打ち出来る筈もないと。

 しかも今、その殺人犯が化け物だと分かったばかりである。

 それこそ何の力も持たない、ましてや章子達の様な能力者でなければ戦えない相手にただの無力な中学生が出来る事なんて何もない。

「逃げるぐらいかな」

「逃げるぐらいって、逃げ切れる保証が何処にあるのよ!」

「うん、問題はそこなんだよね」

 犯人の目的は椿。

 だから、章子達に見向きもせずに椿に向かってくるかもしれない。

「だから、どう逃げたら良いか考えようよ」

「考えるって……何か案でもあるの?」

「う~ん、ない事もないけど」

「え?」

「ほら、よく恐い話で神社とかお寺に逃げ込んだら無事だってあるでしょう?」

「あれはお話でしょう!」

 そう叫べば、章子の笑い声が聞こえた。

「章子さん?」

「そうとは言えませんよ。場所によっては悪霊などの魔が入れない場所はあるもの」

「ほ、本当ですか?」

「ええ。椿さんの事を考えるなら最初からそこに居て貰いたいけど、秋月 響子を捕まえるには接触して貰わなければならないから……そうね、すぐに逃げ込める場所の近くで接触させればいいかも知れない」

「でも、逃げ込める場所って」

「問題はそれよ。人なるざる存在が関わっていなければ何処の神社や寺でもいいけれど、そうでないなら場所は限られる」

 章子はファイルから一枚の地図を取り出す。

 それはこの近辺の地図だ。

 と、そこに香奈はあるものを見つけた。

「神有家」

「え?」

 それは、香奈の母の実家だ。

 椿の家からは少し遠いが、章子達が言っていた。

 神有家は『IPSM』の重鎮だと。

 という事は、もしかしたら悪霊に対する対抗策とか持っていないだろうか。

「……いや、でもなあ」

 母の実家ではあるが、香奈はあの家が苦手だった。

 出来れば、あんまり近付きたくない。

 それにあそこは神社でもなければ寺でもなかった。

「神有家なら良いかもね」

「は?」

「あそこの家のある場所は一種の聖域だから、逃げ込むには良い場所なのよ」

「……そう、なんですか?」

 章子が頷く。

「うん。でも、当主に許可を貰わなければならないけど……」

 ただ正式な許可を貰うには時間がかかるらしい。

 確かに悪霊に狙われている存在など普通なら中に入れたくないだろう。

 そういえば明日は親族会議だ。

 その時にでも頼めないだろうか。

「私、頼んでみます」

「香奈」

「か、かか、香奈ちゃん」

「美鈴、理佳」

 香奈は二人を見た。

「それで、許可か取れたらどうする?」

「え?」

「逃げ込める安全な場所が確保されたら……」

「……」

「……」

「確かに、私達はただの中学生で、戦うのとかは無理。でも、椿の手を引っぱって逃げるぐらいは出来るかな」

「失敗したらどうするの」

「う~ん……とりあえず、失敗しない事だけ考える。あと、椿と逃げる時は大勢居たら逃げにくいから、側に入れるのは一人か二人ぐらい。後は神有家の方に待機して貰う形かな」

 安全な場所から援護射撃でもしてもらうか。

 ってか、悪霊に利く援護射撃ってどんなものがあるたのだろう。

 御札か?

 お守りか?

 と、美鈴の強い視線に香奈は考えを打ち切った。

 睨み付ける様な、挑むような強い視線。

「……本気なの?」

「うん、本気。それにもう今更だよ」

 もともと警察に椿の保護を頼みたかった。

 でも、相手が化け物となればそれ専門の『IPSM』という組織に頼むしかない。

 けれど最後の最後で化け物を倒す方を優先するとなれば、椿は自分で自分の身を守るしかない。

 所詮は自分の身はを守れるのは自分しか居ないのだ。

 だがそれを主張するなら、最初から自分は関わらないでおくべきだっただろう。

 中途半端に関わり、ひっかきまわして「はい、さようなら」が一番最悪だ。

 そしてそれを香奈は最初からする気などなかった。

 椿に安全な保護を――その為に、図書館で秋月 響子の写真まで手に入れたのだ。

「その顔は、もう何を言っても駄目ね」

「うん。でも、美鈴と理佳、あと梓には自分で決めてほしいから」

 香奈は椿の側に居る。

 でも、それは強制でなく自分の意思。

 美鈴達だって別に嫌なら嫌で良いのだ。

 ただ、全てを了承して手伝う場合は色々と相談しなければならないから、聞くのだ。

 今、どうするかと。

 きっと綿密な計画を立てなければ、逃げ切れない。

 だから、今、決めてほしい。

「……分かった」

「美鈴」

「私も椿が死ぬのは嫌だからね。戦うのは無理でも、考えを絞り出せば逃げ切る事は出来るでしょう。それに――ずっと逃げるわけでもないしね」

「そうなの?」

 首を傾げた香奈に美鈴は押し黙った。

「……今回の事件の被害の日時はいつか言って」

「毎週火曜日の午前二時~四時の間」

「そうよね。で、それ以外は被害が起きてない。だから、つまりその時間を逃げ切れば」

「助かる――うん、すっかり忘れてた!」

「香奈あぁぁっ!」

 ガッと胸倉を掴まれて振り回される。

「み、みみ美鈴ちゃん、落ち着いて!」

「そんな基本的な事を忘れて逃げ切れると思ってるの?!」

「思わない。だから美鈴頑張って」

「おおいっ!」

「美鈴、人は上手く使うものよ」

「違うでしょうがあぁぁっ」

 そんな美鈴の怒声は香奈の鼓膜を攻撃しただけではすまなかった。

「う……ん……煩いわね」

「……あ、あれ? ここ、客間?」

「あ」

「梓と椿が起きちゃったね」

「誰のせいだ!」

 怒鳴ったのは自分ではない。

 が、それまでの五割増しで香奈は美鈴によって胸倉を掴まれ振り回されたのだった。


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