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冥姫  作者: 大雪
第一章 忘却の罪
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第十一話 指標

「それで」

 ついに来たか――。

 彼らは、ぐっと腹に力を入れる。

「なんで俺の娘の頬に傷が?」

 え?!そっち?!

 パカンと顎が開ききった彼らに、連理は吐き捨てる。

「娘の事よりも重要なことがあるのか?」

 ある――なんて言ったら、ぶっ飛ばされる。

「え、えっと、その」

 冷や汗をダラダラと流す彼らを暫し見つめた連理は、ふっと殺気を和らげた。

「まあいい。で、報告は?」

 ようやく、本題に入った。

「『ISPM』からの報告をお伝えします」

『国際超常現象機構~International supernatural phenomenon mechanism~』――『ISPM』。

 多くの能力者が登録されているその機関は、人ならざる者達とも協定関係を結び、連理の故郷である冥界も協定関係に入っていた。

 他に、天界十三世界、魔界、精霊界、仙人界などが有名な協定先である。

 そして各世界は、決められた人数と人材を人間界に派遣し、『ISPM』にあらゆる方法で協力する事になっていた。

 全ては、人ならざる者達の介入で故意に引き起こされる特殊超常現象事件―『ASP』の解決の為に。

「現在の連続無差別事件についての新たな情報ですが、どうやら一番濃厚なのは冥界だそうです」

「うちがか? ーー根拠は?」

「実は、犯人と思われる存在が一人の少女に接触。その少女の記憶を探ったところ、人ならざる存在――それも、『死者』である事が確認された模様です。現在、その素性を調査中です」

「『死者』か……」

「それも、外見からかなり昔の存在らしいです」

「取りこぼしか……それとも、わざとか、か」

「『冥界』は常に人手不足ではありますが……」

 リーダー格の言葉に、連理は鼻を鳴らす。

「ま、どちらにしろ、『狩る』だけだ」

「御意」

 深々と頭を下げる彼らに、連理は空を見上げた。

「で……今回被害者を出した『ISPM』の動向は?」

「若い者達の間では弔い合戦と騒ぐ者達も出たそうですが、上層部が抑えました」

「そうか……あそこも、色々と厄介ごとを抱えているが……まあ、何とかなったなら良い」

 しかし……それもいつまで持つか。

「だが、妙だな。今回の件は、低レベルの『魔物』によるものだと聞いたが」

 だからこそ、今回犠牲になった者達が派遣されたのだろう。

 彼らは、『ISPM』の能力者達の中では比較的経験が浅く、今回の出動は経験値を稼ぐ為のものだった。

 だが実際には、犠牲者まで出し、完全なる『ISPM』側の不手際だった。

 連理は、手に入れた依頼書を見る。

 そこには、しっかりと対象者『魔物レベル3』と書かれている。

 レベルーーそれは、事件の元凶となる対象者の凶悪性を表わす指標だ。

 『ISPM』が『ASP』の元凶となる対象者を、それぞれの殺傷力、性格気質、種族を三大柱とした総合的評価に基づいて、レベル1~10の十段階に分けている。

 依頼書の表記例では、『魔物レベル6』、『霊レベル3』、『堕神レベル5』等という記載が一般的であり、『ISPM』に協力している人ならざる者達にも大抵これで伝わる。

 また、レベルは数が大きいほど、対象者の凶悪性が大きくなり、対処するのが難しくなる。

 通常、人間が単独で相手に出来るのは種族問わずレベル4までで、その上のレベル5~8は、人ならざる者達と契約した人間か、人ならざる者でなければ相手に出来ないとされている。

 レベル9、10に関しては、既に人の手には負えず、人ならざる者にしか相手に出来ない。

 また、このレベルとは別に、依頼の難易度というものが存在する。

 これは、ランクで分けられており、上からSS、S、A、B、C、Dとなっており、対象者以外の外部的要因や依頼者側の事情など様々な事情を加味されての仕分けとなっている。

 一般的に、SSが超上級依頼、SとAが上級依頼、B、Cが中級依頼、Dが下級依頼だ。

 因みに、SSは滅多に無いとされ、多いのはA、B、C、Dの四つとされている。

 今回の仕事は、依頼書を信じればCーー普通ランクの仕事だった。

「ですが、現場に残された気配は、到底レベル3の相手ではありません」

「となると、評価ミスか……」

 それとも……。

「引き続き調査を行います。『ISPM』側も、既に被害者を出している為、更に慎重に動くと思いますが……」

「とりあえず、向こうも調査の仕直しか」

「せめて一人でも生き残ってくれていれば、事態はもう少し簡単だったのでしょうがね」

 相手が、どのレベルに相当するか位は分かった筈だ。

 能力者はある程度の強さと経験を積んでいれば、一目見ただけで大体のレベル分けが出来る。

 今回の能力者は、経験はそうでもないが、能力的にはそれが可能だった。

 だが、今更言っても仕方ない事だろう。

「しかし、今回犯人と接触した少女が問題だな。次のターゲットか?」

「可能性は高いです。ただ、その相手が問題なのですが……」

「は?」

「実は、その相手は香奈姫様の――」

 夜の闇に解ける様な声音が、その真実を告げた。

 

*****


 明くる朝、香奈は何時ものように学校に向かった。

 何時ものように通学バスに乗り込み、何時ものように生徒達と挨拶する。

 それだけを見れば、いつもと変わらない日常だった。

 ただ、何時もは一台目に乗るバスが二台目になっていたりしたが、ただそれだけ。

 帰りと違って朝はバスに乗るとすぐに眠るのもいつもの事で、大抵他の者達が降りてから運転手の先生に起こされるのも毎度の事だった。

 しかし、教室に入った瞬間、いつもの日常は簡単に消えさった。

「おはよう」

「……」

 ツンッと、顔を逸らす梓に香奈はポリポリと頬を指でかく。

 どうやら、まだ怒っているらしい。

 何時もなら、どんなに怒っても一晩経てば大抵元に戻るのだが。

 確かに椿の事では色々とやりあったし、その前から下地は出来ていた。

 とはいえ――なんか、いつもと違う気がする。

 何か……こう、ひっかかるのだ。

 本来であれば、ドロドロのものが少しずつ綺麗に戻っていくのを遮る何かがある気がする。

 ――って、考えていても始まらない。

 基本的に、香奈はあまり物事を深く考える性質ではなかった。

「あのさ、梓」

 香奈は、梓に話しかける。

 目も合わせてくれないが、聞いてないわけではない。

「椿のことだけど――ここで言ってもいい?」

 すると、梓がこちらを睨み付ける。

 が、すぐに教室の外へと出て行った。

 それを見て、香奈が後を追い掛け、その後を理佳と美鈴も付いていく。

 辿り着いたのは、人気の無い階段下だった。

 傍でハラハラと見守る理佳を余所に、香奈は昨日美鈴と話した事を説明した。

「……そんな事、分かってるわ」

「あ、そう。なら、大丈夫か」

 流石は梓。

 だが、また言い方が梓の気に障ったらしい。

 思い切り睨まれてしまう。

「ちょっと、そんなに睨まなくてもいいじゃない」

「美鈴は黙ってて」

 美鈴に対してもギロリと強く睨み付けると、梓が腰に手を当てて香奈を見つめる。

「椿の事は私達でどうにかする。香奈はもう関わらないで」

「なんで?」

「先に椿を見捨てたのはあんたじゃない」

 別に見捨てたわけではない。

 ただ、梓のやり方に同意出来なかっただけだ。

「だから、もう椿の事は言わないで」

「分かった。勝手にこっちで動くから」

「分かってくれたなら――は?」

「ちょっと香奈!!」

 茫然とする梓と理佳を余所に、香奈はさっさと教室に戻る。

 その後を追い掛けてきた美鈴が何か言っていたが、特技の右から左に聞き流す事にした。

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