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最後の贄






「どうしてですか…!」






薄れゆく視界の中で、少女が泣いている。

いつもは何がそんなに可笑しいのかと問いたくなるくらい、にこにこと笑っているのに。

泣き顔なんて、初めて出会ったあの時以外決して見せなかったのに。






「どうして…ッ!」






嗚呼、もう泣くでない。

どんなに泣こうとも、もう私はその涙を拭いてはやれない。

抱きしめて慰めることだってできやしない。

今こうして勝手に閉じてゆく瞼をかろうじて開けていられるほどの力しか私には残っていないのだから。






「私は…私はッ!」






何処からか吹いた一陣の風。

少女の雪のように白い髪がふわりと靡く。

そうして露わになった細く白い首筋咲く、金色の花。





「私はッ!あなた様の『贄』なのですよッ!?」





――――嗚呼。






それは確かに私がつけた『贄』の証。






「だから早く私を喰ろうてくださいッ!!」






空と同じ青い瞳が私を射抜く。

責めるように、懇願するように。

強く、強く私に突き刺さる。





けれど。





「嫌だ」






拒絶の言葉を述べれば、青い瞳は驚いたように見開かれた。

さっきまでの強さを失った、困惑した視線が注がれる。

何を思っているのか手に取るように分かってしまう。

本当に心根の素直な子だ。

いっそ、愚かなほどに。






「…何を…何を笑っているのですか…っ!」






どうやら無意識のうちに笑っていたらしい。

少女の青い瞳に再び強い光が灯る。

唇を噛みしめ、絞り出すような声が私を責める。






「私を喰らわなければ、あなたは死んでしまうのですよッ!?」






そんなこと、誰よりも良く分かっている。

遥か昔から燃え続けてきた私の命の灯は今まさに消えかかっているなんてことも。

このままでいれば確実に死ぬだろうことも。

けれど、私は決めたのだ。






「…お前だけは喰うてやらぬ」






永遠に来ぬと思っていた死への旅立ち。

それがこんなにも穏やかなものだったとは。

この少女と出会わなければ、きっと知ることなんてなかっただろう。






「なぜですッ!?なぜ喰うてはくださらないのですかッ!?ずっとこうしてお願いしているのにッ!!」





何故かって?

理由なんて簡単なもの。

私がお前を喰いたくないから、唯それだけ。






「…どんなに懇願されてもお前だけは絶対に喰うてはやらん」






嗚呼、どうやら最期の時がきたらしい。

視界が急速に闇に支配されていく。

もう少女の顔さえ見えない。






「待ってッ…!嫌ですッ!!私を置いていかないでえッ…!!」





最期に伝えたくて、でも決して伝えぬと決めた言葉が闇に支配された意識の中に浮かび上がる。

どうか、どうか。

伝わって。

伝わらないで。

相反する思いが陽炎のように揺らぐ。






―――私は、お前を……






遥か昔から生きてきたのに、そんな感情を抱くのは初めてだった。

しかも『贄』である人の子に抱くなんぞ、己ですら信じられなかった。

今だって信じられない。

けれど契約の時が近づくにつれて、気が付いてしまったのだ。

私はこの娘を喰いたくない、ということに。






「―――――!!」






私の名を呼ぶ少女の声。

もうずいぶんと遠く聞こえる。

もっとその声に呼ばれていたかった。






「―――…」






最後に呟いた少女の名は、彼女に届いただろうか。

己にさえ聞こえなかったその呟きに。

言えなかった思いをすべて乗せて。

私は私を終えよう。




































さようなら、私の最後の『贄』よ。



願わくば、またお前と出会いたい。




今度は同じ、人の子として。


























そしてもし、出会えたなら。

今度こそこの思いを伝えよう――――。




























またもやお久しぶりです…。

連載もののネタは思いついているのですが、文章に上手くできないという状態に陥っているので短編でリハビリをしようかと思って書きました。しばらく短編でリハビリするかもしれません。

私の連載ものをお気に入りなどに入れてくださっている方々には誠に申し訳ありません(>_<)

今しばらくお待ちいただけると嬉しいです;





これはとある私の連載ものの元となったネタです。

活動報告にてそのあたりをちょいちょい補足するので気になった方はどうぞ!





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