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俺が傅く女王様



健気?な美形男×女王な平凡?女







「邪魔」


「うおッ!?!?」






突然、腹部を襲った圧迫感。

心地よい夢の世界へ旅立っていた俺は容赦なく現実に引きずり戻された。

今だ残る圧迫感の根源を確認すべく寝ぼけまなこで自分の腹部を見れば、そこには小さな足が乗っかっていた。

その足を辿るようにして上を見上げると、そこには―――――――






「どけよ。邪魔なんだよお前」






口の悪い女王様がいらっしゃいました。






「……いやいや、どう考えてもおかしいでしょ。まずその足をどけてくんないとさ…」


「早くしろ」


「だからどこうにもお前が足を乗っけてるからどけないんだって!避けて行けばいいだろ!?」


「うるさい。お前ごときがこのあたしに口ごたえしてんじゃねーよ。あたしは通りたいとこを通る」


「どんだけ自分勝手なんだよ!てか、そもそもここ俺の部屋!!」


「お前の部屋はあたしの部屋。てか、お前ごときに一人部屋なんぞ贅沢すぎんだよ。そこらへんの道端で充分だ。ダンボールで立派なマイハウスを作れ」


「ホームレスになれと!?」


「いや、やっぱりダンボールハウスですらおこがましいな。もうそのへんにでも転がってろ。ゴミみたいに」


「ゴミと同等って…」






こんなやり取りの間も、依然として彼女の足は俺の腹を押しつぶしたまま。

ちょ、その片足に全体重をかけるのはやめて…!

出る!!

内臓的なものが!!






「出る!出るからやめて!!」


「何が?」


「内臓的なものが!!!」


「汚ねぇなあ。しょうがないか、ゴミだし」






そう言うとやっと気が済んだのか、腹部から圧迫感がなくなる。

素早く起き上がり俺は彼女から少し距離を取る。

第二の襲撃があったら困るからだ。

油断させてトドメを刺すのは彼女の十八番おはこだ。






「まあ、ゴミのくせしてお前、顔だけはいいからな。そのへんに捨てといても誰か拾ってくれるかもな」






俺のベッドの上に座り込み、足を組むその姿はまさしく女王。

平均よりも小柄なはずの彼女がやたらとでかく見えるのは、その背後から出ている尊大なオーラのせいに違いない。






「……で、わざわざ俺を起こした理由は?」






もう今日は甘んじて『ゴミ』の称号を受けるしかない。

彼女は気分によって俺の称号を変える。

一番マシな称号は『下僕』だ。

あとの称号は人間ですらない。






「何か用があるんだろ?」






彼女は無駄なことをしない。

寝てる俺を踏みつけて通っていくことはあっても(過去に散々やられてる)、目を覚ますまで腹を踏みつけ続けるなんてこと何の用もなければしない………はずだ。

たぶん。(気まぐれで嫌がらせとしてやることもあるので絶対とは言い切れないけど)






「ひとつ上の学年に不良グループがあるの知ってるだろ?」






暫く考えるそぶりを見せた後、彼女は唐突にそんなことを言ってきた。

ひとつ上の学年の不良グループ?

……思い当たるのはひとつしかない。






「狩野先輩たちのことか?」


「そう、その狩野とかいうヤツがリーダ格のクソ共の集まり」






狩野先輩と言えば、我が高の最高学年の不良グループの筆頭。

毎日どっかしらで喧嘩、もしくは犯罪まがいのことまでしてると名高いちょっとイッちゃってる先輩だ。

その先輩のグループがどうかしたんだろうか?






「その狩野がお前を狙ってる」


「は?」






どう考えても狩野先輩と接点を持った記憶が俺には無い。

なのに狙われるとはどういうことか。

何でそんな物騒なことに?






「俺、狩野先輩となんの接点もないんだけど」


「だろうな。けど、お前はその無駄にお綺麗な顔のせいで学年問わず、いや、この町全体に存在を知られていると言っても過言じゃない」


「……だから?」


「お前が狩野の存在を知っているように、向こうもお前の存在を知ってるってことだ。まあ、そもそも同じ学校なんだから顔くらいは知ってても不思議でもなんでもないけどな」






確かに、同じ学校なんだからすれ違ったりすることはあったかもしれない。

けどちゃんと接したことはない。

それなのにどうして狙われなければならないんだ?






「いや、でも知ってるだけじゃ狙われる理由には――――」


「一目惚れらしいぞ」


「――――なんないだろ…………って、え?」






何だろう。

今、とてつもなく有り得ない言葉が聞こえた気がする。

背筋に悪寒が走ったぞ?






「……今、何て言った?」


「とうとう人語も理解できなくなったか。ああ、そうか、お前ゴミだもんな。仕方ないか」


「そんなことはどうでもいいから!!今、何て言った!?」


「調子に乗るなよ、ゴミ。あたしの言葉がどうでもいいだと?」






絶対零度の視線が俺を射抜く。

切れ長の涼やかな目から放たれるそれは恐ろしく強烈だ。

さっき感じた何倍も強い悪寒が背中に走る。






「すいません」


「言葉に気をつけろ、ゴミ。ゴミごときがあたしの言葉をどうでもいいなんて言ってんじゃねぇぞ。むしろゴミごとき相手に口をきいてやってるあたしに感謝しろ。このクソゴミが」






そう何度もゴミと連発しないでほしい。

本気で惨めになってくる。

てかクソとゴミを融合させるな。






「……それで、さっき何て言った?」


「『言った』?」


「さっきなんて仰ったのかお願いですから教えてください」






だいぶ機嫌を損ねてしまったらしい。

いつもは気にもしないタメ口すら癇に障るようだ。

あー、やっちまったな俺……






「一目惚れらしいぞって言った」


「……誰が、誰にです?」


「狩野が、お前に」






青天の霹靂とはこういうことを言うのだろうか。

こんなに驚いたのはいつぶりだろう。

ああ、そう言えば昔目が覚めたら見知らぬ森の中にいたことがあったなあ。

あの時くらいの衝撃かもしれない。





――――あれはほんと衝撃的だったよなあ……






わけのわからない状況にただ泣き喚くしかできなかった当時7歳だった俺。

泣き喚くのすら疲れた頃に姿を現したのは同じく当時7歳の彼女だった。

その小さな手にビデオカメラをしっかりと握った彼女はにいいっと口をつり上げ笑っていた。

あの時の彼女の魔王のごとき笑みはその後も彼女がろくでもないことを俺に仕掛けてくるときに発動されるようになったので、俺の中では「魔の笑み」として最上危険信号となっている。

そして今も彼女が保管し、毎年元旦に初笑いの種として俺の家で再生されるあの時の画像は、暗黒の思い出以外の何物でもない。(衝撃的過ぎて過去へ現実逃避)






「…ひとつ確かめてもいいですか?」


「何だ?」






いやいや、まだ希望はあるぞ俺!

もしかしたら俺が思い描いてる狩野先輩と今話題に出てる狩野先輩は別人かもしれないじゃないか!

大丈夫、頑張れ俺!!






「狩野先輩の性別は?」


「男だ」






俺が思ってたのと同一人物かよ!!

終わった……

俺の中で何かがガラガラと音を立てて崩れて終わった……






「ひとつ上の学年の不良グループのリーダー格で狩野なんてヤツは一人しかいないだろ。確認するまでも無いだろうが」






微かな、ほんとに埃くらい微かな望みにかけたかったんだよ!

だってその狩野先輩ってリアルに『え、この人ブタとゴリラから生まれてきたの?』って言いたくなるような男じゃないか!!

そんなんに一目惚れされて狙われているなんて…!

考えるだけで(いろんな意味で)恐ろしい!!






「ありえないありえないありえないありえないあんなリアルブタゴリラ!!」


「おいおい、人は見かけじゃないってよく言うだろ?付き合ってみれば案外、いいヤツかもしれねぇぞ?」






彼女のその言葉に、俺は目を見開く。

え、ちょっと待って。

彼女は何を言ってるんだ?

それじゃあまるで―――――






「俺にリアルブタゴリラと付き合えと言ってんのか…?」






あまりの衝撃にタメ口に戻っていたが、彼女の機嫌はもう元に戻っていたらしい。

それどころか無駄に良くなってる気がする。

こういう時は危険だ。

俺の長年の経験から彼女の機嫌が無駄に良くなる時はろくでもないことが起きると知っている。






その証拠にほら、彼女はにいいっと口をつり上げた「魔の笑み」を浮かべてるじゃないか。






「あたしは慈悲深いからな。恋と言う名の病におかされた、哀れなるブタゴリラを救ってやりたいんだ」






誰が慈悲深いって?

しかも「哀れなるブタゴリラ」って何だよそれ。

哀れに思えねーよ。






「俺は救いたくねえぞ、ブタゴリラなんて」


「あたしが救いたいって言ってんだから救うんだよ」


「そもそも俺はノーマルだ!付き合うなら女がいい!!」


「案外、男同士もいいかもしれないぞ?試すには絶好のチャンスだ。よかったな」


「よくねーし!!てか、俺の意思はどこいった!?」


「お前の意思は未来永劫あたしの元へお出かけ中だ」


「意味わかんねーよ!!!」


「ごちゃごちゃうるせーな!」






飛び出すようにしてベッドから立ち上がった彼女はその勢いのまま、床に座っていた俺を蹴飛ばす。

再び床に寝転がる形となった俺の胸にダン!と押し付けられる小さな足。

踏みつけながらぐっと顔を近づけて俺を見下ろす彼女の切れ長の瞳が、冴え冴えと光る。






「あたしがやるって言ってんだからやるんだよ」






凛としたよく通る声。

遠慮も迷いもない、絶対の自信に裏打ちされたその声で紡がれる言葉にはどうしたって逆らえない。

だって彼女は女王様だから。






「こんなおもしろそうなネタ、ほっとくなんてそんな野暮なことできねーだろ?とことんおもしろおかしく楽しまなきゃ損だろうが」






いやいやいや。

お前は楽しいだろうが、俺は1ミクロンも楽しくないんだって。

何であんなブタゴリラと付き合わなきゃならんのさ。

俺にだって付き合う人間を選ぶ権利があるだろ!

どうしても俺にBLをさせたいならせめてもう少しイケメンな男にしてくれ(ちょっと思考回路が混乱してきた)。






「つーわけで、哀れなるブタゴリラからの預かり物」






俺の胸から足を退けベッドへと戻りながらポイっとゴミのように投げ出されたのは、薄桃色の封筒だった。

ハートのシールで封をされていたその中には、封筒と同じ色の薄桃色の便箋が入っていた。

そしてその便箋には汚い殴り書きのような字で、『明日の放課後、屋上で待ってます。絶対に、絶対に来て下さい!来てくれるまでずっと待ってます…。 ★あ・な・た・の狩野より★』と書かれていた。






「なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」



「ブタゴリラからお前宛のラブレター」






いやいやいやいやいやいやいやいや!!

どう考えてもおかしいでしょ!?

何このラブリ~なラブレター!?

書いたの本当に狩野先輩!?

あの不良グループのリーダー格と言われてるブタゴリラがこんな乙女チックなもの寄越してくるの!?

てか何だこのラブレターの色!

薄桃色ってあの先輩に一番似合わねぇ色じゃねぇか!!

しかもハートのシールとか貼ってますますラブリ~にしちゃってんじゃねーぞ!!

何よりもこの文面!!

どこぞの恋する乙女ですか!?

ここまで来ると気味悪い通り越して腹立つわあああああああああああ!!!!






「今日呼び止められてな。渡してくれって頼まれたから引き受けてやったんだ。ほんとあたしは慈悲深い」






邪悪の間違いだろうがあああ!!

こんな危険物を運んでくるなんて慈悲ある人間のすることじゃない!

もうなんか精神的に色々とノックアウトなんですけど!!






「ふざけんなよマジえええええええ!!!何でそんなん引き受けちゃってんの!?そこは断ろうよ!!」


「何で?こんなおもしろいことをみすみす逃すなんてその方がふざけてんだろうが」






ああ、もうダメだ。

彼女が一度興味を持ったらもう止められない。

彼女が満足するまで平穏はやって来ないのだ。






「まあ、まずは手始めにそこに書いてあるように明日の放課後屋上へ行くんだな。そんで返事は保留にしろ。間違っても断るなよ?すぐに終わらせちゃあ、つまらねぇからな」






ニヤニヤと笑う彼女は何て邪悪なんだろう。

背中に真っ黒なオーラが見えるのは絶対に気のせいなんかじゃない。

あれは本物だ。






「ああ、これって貞操の危機…?」






もしもブタゴリラに襲われたら。

勝てる自信がない。

その場合俺はあのブタゴリラに……ああ!考えただけでもおぞましい!!






「安心しろ、危なくなったら助けてやるから」






撃沈した俺に彼女は甘く囁く。

でも騙されてはいけない。

これは救いではない。

女王な彼女に慈悲なんてないのだから。






「お前を好き勝手に扱っていいのはあたしだけだからな」






彼女は微笑む。

冴え冴えと光る瞳を細めて。

悠然と、そして邪悪に。

執着心という鎖で俺を縛りつけながら。






「他のヤツになんて渡しはしない」






取り立てて美人でもない、平凡な容姿。

喧嘩っ早くて、口を開けば唯我独尊な他人を見下す言葉ばかり。

性格はもはや修復不可能なほどひん曲がった、傲慢で非情な女。






いいとこなんて、ひとつもないのに。






「お前はあたしのものだからな」






そうやって尊大に微笑む顔も。

ぞんざいに扱いながらも決して手放さない俺への執着心も。

愛おしいと思ってしまう俺はきっとどこかおかしいに違いない。






「……ちゃんと助けてくれよ?」


「当然。あたしにできないことなんてない」






君は女王。






俺が傅く唯一の人。







俺はきっとこの先一生、この女王様に囚われたまま。









これはなんだか無性に女王キャラが書きたくてできたお話です。


キャラの補足をしますと、

彼女はデレの要素がほとんどなし、誰に対しても唯我独尊というとことん女王様キャラ。生粋のS。

彼は彼女にだけ弱い美形チートキャラ。それ以外の人には冷たく、どちらかと言えばS。けど彼女には勝てない。

こんな二人は幼なじみです。


彼女のどこに彼が惚れたのか作者も謎…ってくらい彼女にいいとこがないですね;

恋におちるのに理由はない!というスタンスで貫き通します(^^;)




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