二十一章
第二十一章 輪のなかで
青の光の中、髪の長い男が人々の遺体の傍を通り、ギルビィ・ベーグの亡骸を跨いで、ザッコの元に行き着いた。ザッコは金色の瞳で男を見上げた。男の薄茶色の髪、金色の瞳。色を持った男の容姿は、まるで兄弟か親戚のように、あまりにもザッコと類似していた。
男はザッコを見つめたまま、黙って、手に持っていた花をザッコに差し出した。最後の花びらが散り去り、手の中にあるのは黒く丸い球だけだった。ザッコは手を伸ばして言った。
「ずっと待っていてくれたんだな……。ありがとう」
手が男の手と重なった途端、男の身体がザッコの中へと消えていった。黒い球体を握り締め、ザッコは背を反らせて暗い天空を見上げた。地面に生えていた青の花々がざわざわと突風に吹かれて揺れた。広場一帯だった青い花々が、地下深くから、治癒の世界全体に広がっていった。治癒の世界の地面は、青の花で埋め尽くされた。
「これは、一体どうなっているんだ……」
わずか数秒足らずで地面という地面から青い花が咲き誇り。破壊された病棟群の中にさえ、その美しい花を咲かせている。
赤い髪を掻き、ルーネベリは戸惑っていた。なにがはじまったのかわからないが、とても不思議な現象が起こっている。しかも、その中心にはザッコがいるのだ。安息の時はザッコがもたらすというのだろうか。マシェットは言った。
「見ていてください。ミドールの力が目覚めます」
背を反らしたままだったザッコは身体を起こし、胸に手をあてた。
ザッコの胸には、内円が取り除かれた内なる眼と、それを囲む、波打つ円が浮かんでいた。
二つの刻印は青く光り、やがて、緑、黄色、オレンジ色と変化していった。光の変化に伴い、治癒の世界にいる人々や植物、建物。生死を問わず、世界にあるもののすべてに青い刻印が浮かびだした。ただ一人赤い光を灯し、ザッコは誰にも聞こえない声で「まだ、その時じゃない」と言った。
「ザッコ、やめなさい。そんなことをしたら……」
癒しの塔から走ってきたズゥーユはザッコが今からしようとしていることに気づき、とめようとした。だが、ザッコのすぐ目の前で、足か動かなくなってしまった。ズゥーユの胸にも、刻印が、青く燃える刻印が浮かんでいた。
「ザッコ!解きなさい。これ以上は、してはいけない。お前が死んでしまう」
「先生」ザッコはズゥーユに言った。
「とめないでくれ。おれはやっと、生きてきた意味がわかったんだ」
「意味?」
赤く燃える胸に手を当てたまま、ザッコは空を見上げた。夜の世界にはけして現れない銀の球体を思い浮かべ、ザッコは言った。
「……知っていたんだろう。おれの苦悩もギルビィの願いも。知っていて、それでもこの道を歩ませた。おれはやっと意味を果たせる」
一体、誰に語りかけているのかと思うズゥーユに、ザッコが笑った。
「一度も言わなかったけど、おれは先生のことを勝手に父親のように思っていた。勝手に家族のように思っていた。子供の頃から、人を救うあなたの姿を見てきて、ずっとあなたのようになりたかった。心から尊敬していた。おれは先生みたいに人のためになにもできなかったけど、今は違う」
「ザッコ……」
「先生、おれはあなたと生まれ育ったこの世界を守りたいんだ」
刻印の赤い光が眩しく光り、ズゥーユは目を閉じていた。
「見てごらん」
シュミレットは胸に浮かんだ青く燃える刻印と地上を指差した。サンジェルトとイモアは刻印を見下ろした。二人の身体にも同じ、青の刻印が浮かんでいた。狼狽えたサンジェルはイモアの名を叫び、長い指先で銅のパイプを押したが、イモアはサンジェルほど驚きの色を見せなかった。笑い顔を崩さず、緑の目で青に染まった地上を冷静に見ていた。
「君の計画は、少し前倒しになったようだね。それとも、これは予定どおりだったのかな」
イモアはにたりとした顔でシュミレットを見た。
「君が最後に言った言葉、少し勘違いしそうだったよ。本当の狙いはミドールを捕まえることじゃなかった。君の言った詩こそが、本当の狙いだった。違うかい?」
「イモア!」パイプを激しく揺らしたサンジェルに、イモアは「心配するな、サンジェル」と言った。シュミレットはつづけた。
「詩は完成していると言ったね。てっきり、文章が完成していると思ってしまうところですが、君は詩と同じ状況が完成したといったのだよ」
シュミレットは「根拠はこれだよ」と、胸の刻印を叩いた。
「君はまず、ミドールの縁者であるタニラ・シュベルを使って治癒の世界の人々を殺させた。これで、地上には多くの遺体が生まれ。“楽園の使者が舞い降りて、死者の屍の上を歩く”ことのできる状態をつくりだした。そして、治癒の世界にいるだろうミドールの名を持つ者を捕らえ、時期をみて、詩に沿った行動をとらせようとした。殺戮者にミドールの縁者を選んだのは、君なりの保険だったのではないかな。ミドールの縁者なら、ミドールの名を持たなくともミドールの血脈は受け継いでいる。捕まえたミドールがもし失敗したら、君はタニラ・シュベルを無理にでも覚醒させるつもりだった」
イモアは言った。
「今、それを知ったところでどうなる?見たとおり、ミドールの覚醒ははじまった。自然にはじまった覚醒は、簡単にはとまらないだろう」
「そうだね。間に合わないかもしれない。でもね、僕が気になるのは、詩の結末だよ。君が言った詩の中には、使者の結末がなかった。ミドールが覚醒したあと、どうなるのです?」
「使者の末路など、知らないな」
「知らない?」
イモアは頷いた。
「詩の本文は未完成だ。一度はすべての詩を手に入れたが、グセリティア・ミドールに詩の一部を持ち去られた。あの女を探していたのは、なにもミドール姓を持つ者だという理由だけではなかった」
「君は結末のわからない詩を実現しようとしていたというのかい」
「わからないからこそ、ミドールの詩を実現しようとした。環境さえ整えてやれば、この目でそれを見ることができる。ミドールの覚醒は序の口だ。ミドールの詩には、必ず遠来者の謎が隠されている」
「君は……」
「あなたを誘ったのは本心からだ。この世にはいくつもの謎があるが、シュミレットやミドールに代わる人間はいない。あなたたちの存在そのものが生きる謎だ。その謎を知るためなら、どんな手段も厭わない」
シュミレットはイモアに対して、なにやら執念めいたものを感じ取った。自身の野望のためなら、多くの人々の命さえ難なく犠牲にできてしまう。今、この男を捕らえなければ、近い将来、やっかいな事になるのではないだろうか。しかし、サンジェルは捕まえたが、イモアはそう簡単に捕まるような男ではないだろう。向こうの様子が気になる今、未来を危惧している暇はなかった。シュミレットはため息をついた。
「君たちのことはよく覚えておくよ。次に僕の前に姿を現したら、その時は、有無言わせずに時の牢獄送りにしますからね」
「ザーク・シュミレット、我々とは来ないのか」
「君は勘違いしているのだよ。おおいに勘違いしている。僕は賢者だ。僕とは二度と関わりを持とうとは思わないでほしい」
シュミレットはサンジェルに言った。
「君はまだ若い。一時の気の迷いで人生を棒に振るのはよしなさい」
シュミレットはフードの裾を引っ張り、魔術式から飛び降りた。シュミレットの行く先に魔術式が現れ、回転しながらシュミレットを広場の方へ運び、飛んでいった。
サンジェルは去るシュミレットに向かって叫んだ。
「私たちの世界はここじゃない」
すべての破壊された病棟が、下から上へと元の姿を取り戻してゆく。人々に記された刻印が青く燃えてゆくなか、死者たちは息を吹き返し、目を開いた。負った傷が自然と癒され、人々は次々に立ちあがった。心に深く沁みる、美しい青の花々が優しくなびいていた。
この世に再び生かされたことを喜び、人々は泣きながら立ち尽くしていた。
「人々が生き返った。……こんなもの、見たことがない。高度な技術どころじゃあない。時術師と奇術師が何人いても、こんなこと不可能だ。死んだ者を生き返らせるなんて」
遠くから見ていたマシェットが目の前に呆然としながら、ザッコを見ていた。
赤い刻印が燃え、ザッコの身体が激しく震えていた。
「ザッコ、よしてくれ」
すぐ傍で、見ていることしかできないズゥーユの悲痛の声が、ザッコには聞こえていた。けれど、とまれなかった。世界中から身体に伝わってくる希望、願い、想いの詰まった命の輪。身体の底から溢れでる力が、失った多くの者たちを深層の眠りから呼び起こし、弱った奇力が強く反応して、消えていた息吹が世界に戻ってくる。
祝福された世界に、戻ってくる。
ザッコの身体を囲むように、二重の光の輪が生まれた。輪は回転しながら、優しい光を散らしていた。それは、まるでギルビィ・ベーグの去り際のような光景だった。
ザッコの口から深紅の血を流していた。身体の内側に鈍く痛みがあった。内臓から筋肉へ、筋肉から骨へと、生まれつき持った病が急激に身体を蝕んでいるのを感じる。力を使えば使うほど、身体が傷ついてゆく。ズゥーユはザッコに言った。
「身体がもたない。強い力で多くの人々を救えても、お前は……」
言葉が詰まり、ズゥーユは涙を含んだ目でザッコの金色の瞳を見ていた。覚悟を決めたのだとわかっていても、親心としては、どうしてもとめたかった。四十年の歳月は、ズゥーユにとっても大切な時間だった。ザッコのことをいつしか実の子のように、我が子のように愛してきた。奇術師として、管理者として失格だが、他人のことよりも、自分の命のことを考えてほしかった――。
人々の身体に浮かんでいた刻印が急に消えた。
病棟郡は完璧な姿を取り戻し、大破された街道も綺麗な道に戻った。地上に溢れていた青の花々が地中深くへと引っ込み。以前とかわらない、治癒の世界がそこにあった。ザッコは二つの輪を連れ、ズゥーユの方へ歩み寄った。歩くたびに、ザッコの白っぽい黄緑色の肌が、真っ白になっていた。黄金の瞳も色褪せてゆく。
「先生」小さな声でそう呼び、ズゥーユの目の前まで来てザッコは持っていた黒い球体をズゥーユの胸に押し付けた。すると、球体が胸の中へとすっぽりと入っていった。
「ザッコ。今、なにを……」
「これで元通りだ。先生はこの世界の管理者を受け継いだ。他の世界の管理者と一緒だ。もう恥じなくていい。正真正銘、管理者になった。これでまた平和になる」
「笑ってくれ、先生」
微笑したザッコに、ズゥーユは気づいた。ズゥーユの頭の中に、見覚えのない記憶が入り込んでくる。とてつもなく長いその記憶が、治癒の世界の歴史をズゥーユに知らせる。そのうえで、ズゥーユの目には、時の石が見えていた。針の数も、形状さえわかるほど見える。指先から全体へ血が通ってゆくように、別の力がズゥーユの身体を満たしていく。これが管理者の力。世界全体の息吹を感じる。
ズゥーユの驚き覚めやらぬなか、二重の輪が砕け、ザッコが後ろへと倒れていった。
「ザッコ!」
目を閉じて倒れたザッコを、ズゥーユはいそいで跪き、抱きかかえた。ザッコの顔は真っ白だった。口元に手をかざすが、息をしていない。胸に耳を近づけても、心臓の音も聞こえない。ズゥーユは奇術を使い、ザッコを蘇生しようとした。しかし、ザッコの身体で燃えていた刻印が激しく燃えあがり、奇術を拒んで消えていった。
力を使い果たしたのか、病に蝕まれたのか。命が尽きたのだ。信じられない。その後、ズゥーユが術式を発動させても、ズゥーユはザッコの奇力に呼びかけることができなかった。静かなザッコの身体。涙がぽつりぽつり、ザッコの真っ白な顔に落ちていった。
横たわるザッコと、ザッコを抱えるズゥーユ。二人を見ていたブリオが心配そうにメリアに言った。
「キアーズ長。ザッコさん、動きません。どうしたのでしょうか」
ザッコが亡くなったことを、無意識の領域で知ったメリアは鼻を啜り、涙を堪えながら首を横に振った。
マシェットは言った。
「“楽園の使者が舞い降りて、死者の屍の上を歩く。この世の果てで眠りつく青き花々は、時の輪のなかに蘇り。使者は光の人になぞらえて、金色のもとに没する。満ちる世界を統べる力の輪、対なす輪の交わりとともに、金色の永久の紡ぎを得る”」
「マシェットさん、それは……」ルーネベリにマシェットは頷いた。
「完成したミドールの詩です」
「なぜ、完成した詩を知っているんですか」とビニエが言うと、マシェットは言った。
「我々、時術師のなかには、ミドールの血を継ぐ者が多くいます。
ビニエさん、詩を持っていたあなたと同じ、ミドール姓を持たないミドールの縁者が、時術師のなかには多くいるのです。ですから、ミドールの詩が世間に知られた後、迫害されるミドールを守るのは、時術師全体の役目となったのです」
「役目?」
「時術師はミドールと接触せず、遠くからミドールを見守り。万が一、ミドールの身になにか起った場合、ミドール姓の代わりに詩の運命を見届けるという役目があるのです。そして、奇術師は奇術師で、ミドールの傍でミドールを助け、詩と共に運命を歩む役目があったのですが、長い歳月のうちに忘れ去られたのでしょう」
「それじゃあ、デュッシ家がミドールを助けたのは……」
「冰力に感染したビニエさんが詩の一端を叫んだのは、もしかしたら、この安息の時を予期していたからかもしれませんね。奇力、不思議な力だ」
そう言って、ルーネベリは四人を残し、ズゥーユとザッコの元へと走った。
「間に合わなかったようだね」
ズゥーユの背後に、回転する魔術式を伝ってきたシュミレットが降り立った。
「彼がミドールだったなんて、露ほども思わなかったよ。僕にまで隠すなんて、よっぽど、君は彼を守りたかったのだね」
振り返ったズゥーユは涙を拭いて言った。
「シュミレット様。……お察しの通りです。ザッコには、力は使うなとあれほどきつく言ってきたのですが。母親に似すぎたようです」
「僕は三百年弱生きているけど、今までミドールには会ったことがなかった。それが、知らず知らずに会っていたなんてね。彼の本当の名前は何だい?」
「ザッコの本名は、フェザクシア・ミドール。あなた様と同じ、遠来者です。もしかしたら、ミドールの名を正統に受け継ぐ、最後の一人かもしれません」
「そうかい。覚醒によって、ミドールの血筋が途絶えたというわけですね。彼の病気は、奇力によるものだね?」
ズゥーユは頷いた。
「奇力、悔しくもこの力こそが、フェザクシアの奇力異常を引き起こす原因でした。ミドールの血はかえって、フェザクシアを不治の体にしてしまったのです。可哀相に……」
シュミレットはズゥーユに抱えられたザッコを見下ろし、すぐ近くで泣き叫んでいるタニラ・シュベルに目をやった。タニラ・シュベルの顔に紫の濃い染みが現れていた。魔力によるものだろう。けれど、タニラの悲しみは深く、その痛みすら感じていない様子だった。
シュミレットはズゥーユの肩に手を置いた。
「君は我を忘れてはいけないよ。管理者であるということは、窮屈でとても重いものです。でもね、これは君にしかできないことなんだ。彼のためにも幸せな世界を築きなさい」
タニラの元へ歩いていったシュミレットと入れ違いに、走ってきたルーネベリはズゥーユの隣に膝をつき、ザッコの顔色を見て亡くなったことを察した。
シュミレットはタニラ・シュベルに近づいた。タニラは目から涙を流し、鼻水を流し、口からは唾をたらしていた。苦痛の末、自我を保てないほど錯乱しきっていた。シュミレットはそんなタニラの顔を両手で包んだ。
「タニラ、聞こえているかい?」
がくがくとタニラが歯ぎしりしていた。もう声は聞こえていないようだった。それでも、シュミレットは言った。
「君の身体には、無数の魔力が混在しているのが見える。一体、何人の魔術師を犠牲にして、魔力を体内に入れたのかはわからないけれど、抜けきれなかった魔力が君の全身に広がって悲鳴をあげている。わかるかい。魔力を持たない君の身体は、魔力に呑まれているのだよ」
タニラの目が動き、目の前にあるシュミレットの視線と合わさった。
「君はとても悲しいものだね」
金色の瞳に、すっかり紫色に変色したタニラの顔が映っていた。タニラはシュミレットの片眼鏡についた紫のアミュレットを掴み、息を吐いて、最後の言葉を呟いた。
「ただ、愛したかっただけなんだ……」
肌が紫一色となり、タニラの皮膚はパキンッと音を鳴らした。魔力によりガラスと化した身体が、小さな亀裂で崩壊していった。人の形もわからないほど粉々になり、塵となって吹き飛んだタニラ・シュベルを、シュミレットは目を閉じて、静かに見送った。
ルーネベリは悲哀に沈むズゥーユにどんな言葉をかけようと思い、俯くと、ズゥーユの足元に折りたたまれた紙が落ちていた。誰が落としたものなのだろうかと、折りたたまれた紙を手に取り、開いて見てみると、紙いっぱいに不可解な絵が書かれていた。
ルーネベリはその絵を見ながら笑った。
「ズゥーユさん。ザッコが銀の球体について学びたいといったとき、ザッコは世界のためにならなくてもいいと言いました。純粋に自分のためだけに銀の球体のことを知りたいと言ったんです。でも、学者である俺は、世界のために学び、世界のために新しい発見しつづける。それが俺の生きる糧であり、生きていく道だと思っていました……」
「ルーネベリさん?」
戸惑うズゥーユに、ルーネベリは言いつづけた。
「ザッコはこの日をずっと待っていたのではないでしょうか。ザッコだけじゃない。長いながい時間、ミドールの血族たちも同じように待っていた。望もうが、望むまいと。知ろうと知るまいと、この世に存在する者はすべて、生まれてきた意味を果たしているのかもしれません。俺たちが思う犠牲なんていうのは、都合のいい解釈にすぎない。彼らはもっと、俺たちの考えている以上に尊く、意味を果たすという運命に翻弄され。そして、一生を終えて、残される者たちに大事なものを残していく」
「ルーネベリさん、ザッコは何を残していったと言うのですか?」
「それは、ズゥーユさん。あなたが一番ご存知でしょう」
ルーネベリは拾った紙をかかげた。
「もしよければ、これは頂いてもかまいませんか?」
「……はい、どうぞ。ザッコのものです。私には何を描いているのか、よくわかりませんが。お気に召したのでしたら、どうぞ、もらってください」
「そうですか。それでは遠慮なく」
ルーネベリは紙を丁寧に折り、革ジャケットの胸ポケットにしまった。
イモアと共に治癒の世界から脱出したサンジェルは屋敷に戻り、窓の開いた部屋のピンク色のベッドの上に膝をたて、座っていた。翼は背にしまってあるものの、シャワーも浴びず、ずたずたになった白いワンピースを着たまま、サンジェルは身につけていた青い宝石のついたペンダントをひっくり返した。
ペンダントトップの裏側には、「永遠につづく愛を」と彫られていた。
END.
詩がもたらした悲劇。しかし、彼らの想いは終わらない……。
前巻完結より一年後の2012年6月30日、
「 楽園の使者 」全二十一章が完結しました!!
ここまでお読みだくさり、大変お疲れ様でございました。
三巻は八月から連載のヘルジェイル上巻が終わり次第、連載開始する予定です。
応援や感想など、皆様のお声もお待ちしておりますので、
そちらの方もひとつ、どうかよろしくお願い致します。