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灼熱の銀の球体  作者: 佐屋 有斐
第一部第五巻「天秤の剣」
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九十四章 必然的な出会い




第九十四章 必然的な出会い





 景色がまた変わった。次に見えた場所は広い部屋に天蓋付きのお大きなベッドが置かれた寝室のようだった。室内も外も暗くなり、蝋のような木の上で頼りない火が踊っていた。

 アミアガリアはベッドの端に手を組んで座り込んでいた。どこか悲しげ様子だった。彼は一人だった。

「アミアガリア様」とノックと共に部屋の外から声がした。アミアガリアは返事をしなかったが、何度も外から名を呼ばれたのでゆっくりと立ちあがり扉を少し開けた。

「こんな夜更けに何用だ?」 

 ランプを片手に持った背の曲がった老いた召使いが扉の前に立っていた。召使いは膝まづき、頭を垂れた。

「お休みのところ、申し訳ございません。陛下がお呼びなのです」

「父上様が?」

「はい。お声を奪われて以来、陛下は床に伏せっておいでだったのですが、先ほど目を覚まされましてアミアガリア様をお呼びになりました。至急、陛下の寝室までお越しください」

「わかった、そうしょう」

 アミアガリアが頷くと、召使いは立ちあがり頭を下げてからその場を立ち去ろうとしたが、アミアガリアは「待て」と言った。

 召使いは振り返った。

「今は真夜中だ。もしや、お前は知っているのか?父上様が私を呼んだ理由を……。父上様の秘密を……」

 召使いはただ頭を下げた。

「アミアガリア様、時は満ちたのです。後継としてのお役目をどうかお果しください。陛下がお待ちです。すぐに向かわれてください。お時間がございません」

 アミアガリアは目を細め、首を傾けた。召使いの返答が肯定だと受け取ったのかもしれない。

 そこでまた景色がふわりと変わった。


 アミアガリアはランプを手に先を歩く父と、小さな鞄の紐を肩から腰にかけて王を支えながらランプを持つ召使いの後ろを歩いていた。そこは薄暗い廊下だった。以前、王妃のイーユにアミアガリアが呼び出された場所でもあった。

 アミアガリアのランプを片手が微かに震えていた。廊下の先へ進むたびにひんやりとした冷たい空気が足元から漂ってくるような不気味な感覚が周囲を占めていた。廊下の先へ先へと進むたびに、冷たい空気は上半身から頭部を覆い包み、だんだん生きた心地がしなくなってきた。

 しかし、アミアガリアの父王と召使いはその向こう側へ躊躇することなく進んでいった。息子のアミアガリアは後につづいて歩いてはいたが、戸惑いと不安が隠せない様子だった。微かに震えていた手が、さらに震えを増し。怯えたように周囲を注意深く目を凝らしていた。

 三人が進もうとしている先はとても静まり返っていた。響く足音がこだましていた。

 しばらく進んだ先に、ようやく扉に行き着いた。木の古びた扉だった。召使いはアミアガリアを振り返ると、手を伸ばして王の腕を持つように促した。アミアガリアは何も言わずに父の腕を掴んで、身体を支えた。支えた重みでアミアガリアは身体を少し傾けたが、召使いは手伝いなどはしなかった。召使いは肩にぶら下げていた小さな鞄の紐も王の首にかけた後、その場で首を垂らして言った。

「今から扉を開けさせていただきます。少し進むと、下へおりる階段がございますので。足元にお気をつけください。ここから先はお二人でお進みください。私はここでお帰りをお待ちしております」

 召使いはそういうと、ランプを少し離れた床に置いてから木の扉をあけた。扉の向こう側にはまた暗闇が広がっていた。先ほどよりさらに冷たい空気と埃が喉をくすぐるのか、アミアガリアは咳き込んでいた。

 アミアガリアは召使いが開いた扉を父を支えながらランプ片手に進んだ。そして、しばし進むと、召使いが言った通りに下へとおりる階段が見えてきた。その先は暗闇だ。アミアガリアの手は大きく震えていたが、支えられている王がアミアガリアの手を強く握った。アミアガリアが父王を見ると、ランプに照らされた父の淡いブルーの瞳には少しも不安はなかった。この場所を知っているのだ。アミアガリアは頷いて、階段をゆっくりおりはじめた。

 二人がおりた階段の先には金の扉があった。そして、その金の扉には奇妙な印が描かれていた。


 挿絵(By みてみん) 


 丸い円の中に三つの円があり、潰れた丸の中に三つの穴とそれらの中心に一つの穴があった。何かの象徴のようなものだった。

 アミアガリアの父王はその手に片手を伸ばして押した。すると、金の扉は難なく開いて二人を招き入れた。

 二人がその扉を開いて中に入ると、そこは小さな小部屋になっていた。その部屋はなぜか灯りもないというのに、明るい部屋だった。床も壁も砂色の石造りであり、床には赤い上等な絨毯が敷き詰められていた。奥には姿見鏡が立っていた。鏡の縁は金できており、花や蝶などの様々な煌びやかな装飾が施されていた。その鏡の前には、金でできた足一本の小さなテーブルが置かれていた。

 アミアガリアの父王はアミアガリアの手を押し退け、一人で立つと、首にぶら下げていた小さな鞄から青い鉱石の塊を一つと、折り畳まれた三枚の紙をアミアガリアに押し付けるように渡した。それから、青い鉱石と鏡をそれぞれ指差して、宙で鉱石と鏡を線を結ぶような仕草を何回か繰り返し、最後に紙をトントンと指先で叩いた。

 アミアガリアはランプを床に置くと、父王の仕草を指で真似ねてから折り畳まれた紙をひらいた。

 父王から渡された紙には文章がびっしりと書いていた。

 アミアガリアはその文章の初めの二行を読んで言った。

「この石を鏡の側にあるテーブルに置き、地面に平伏して『捧げます、捧げます。我れらの慈愛よ』とーー三度叫べばいいのですか?」

 父王は大きく頷いた。

「ーーしかし、なぜ平伏す必要が?それにあの鏡な何なのですか?」

 アミアガリアの問いに父王は答えず、ただ首を横に振ってから鉱石と鏡と紙を何度も指差した。どうやら急かしているようだ。

 アミアガリアは渋々、「わかりました。また後で説明を聞かせてください」と言うと、青い鉱石を小さなテーブルに置き、言われた通りに平伏そうと振り返ると鏡の少し離れたところで父王が既に床に座り込んで、膝の下に置くための深い赤の布を置いて丁寧に広げていた。その布というのは、父王の隣にも置かれており、そこへアミアガリアも座るように置かれたのだろう。

 アミアガリアの目つきは父王の不可解な行動に懐疑的のようだった。けれど、何も言わずに父王や用意した布の上に膝をついて床に平伏した。アミアガリアが平伏したのを見ると、父王も横で床に平伏した。

 アミアガリアは言った。

「捧げます、捧げます。我らの慈愛よ。捧げます、捧げます。我らの慈愛よ。捧げます、捧げます。我らの慈愛よ」

 父王に言われた通りの言葉をアミアガリアが大きな声で叫んだが、何も起こらなかった。アミアガリアは父王の戯れだったのだと思ったのか、頭をあげようとした。しかし、そのアミアガリアの後頭部を父王は手で押さえつけた。アミアガリアが横を見ると、父王は小さく首を横に振って床に置いた布を見つめていた。先ほどよりも緊張している様子だった。


 そして、それは突として起こった。

 二人が平伏している間、部屋に置かれた姿見鏡の表面が水面のように波打っち、ぬっと女性の肉付きのいい美しい手が突き出てきたと思えば、そのまま全身を表して鏡を通り抜けた人物がいた。

 黒い縮れた長い髪を後ろで高くゆいあげ、太い黒い眉と、意志の強そうな真っ赤な鮮やかな瞳をしていた。その女性は黒いレースのついた黒のティアラを頭に飾り、白の布地に黒の装飾が施された丈の短い綺麗なドレスを着ていた。美しく長い足が見える短いドレスの下には短い黒いズボンを履いており、編み上げた黒いサンダルを履いていた。両腕には金の太い腕をしており、首元には何重にも金のネックレスを飾っていた。そして、最も特徴的なのはその女性の額に刻まれた紋章だった。記号のような不思議な紋章だ。その装いはアミアガリアたちの種族とは明らかに異なっていた。


 挿絵(By みてみん) 


 その人物は言った。

「ーー聞きなれない声がしたな。初めて聞く若い声だ」

 二人しかいなかった部屋に、聞こえた第三の人物の声にアミアガリアは驚いてその声の主が誰か確かめようとしたが、父王はまだアミアガリアの後頭部に手を置いて押さえつけていた。父王の手は先ほどのアミアガリアのようにわずかに震えていた。

 声の主は平伏す二人の傍まで歩き、二人を見下ろして言った。

「よいぞ、面をあげよ」

 父王はようやくアミアガリアから手を離して、顔をあげた。アミアガリアは父王の様子を伺いながら声の主を警戒しながら見上げた。

 声の主は、アミアガリアの顔を見るなり言った。

「ほう、麗しい男だな。お前の息子か?ダトヤ」

 アミアガリアは父王の顔を見た。父王は喉を押さえて頷いた。黒い髪の女性は父王の仕草を見て察したようだった。 

「なんだ、喋れないのか?」

 女性は座り込んで父王の喉を注意深く観察した後に呟いた。

「古い神の呪いか。厄介なものを受けたな」

「父上様は、治りますか?」と思わずアミアガリアはその女性に言った。

「ふっ。私を恐れぬのか。なかなか見どころがある。貴様、名は?」

「アミアガリアと申します」

「ダトヤの息子、アミアガリアか」

「……はい」

「何だ?その歯切れの悪い返事は」

「父上様のお名前を初めて耳にしました」

 アミアガリアのその言葉を聞いて、黒髪の女性は父王の顔を見てハハハと大笑いした。

「子に名すら教えていないのか。ダトヤめ、貴様は昔から変わらぬな」

 父王はその場に何回か平伏した。どうやら、口止めしたい様子だった。黒髪の女性はふんと鼻息を履いて、その場に、宙に座る仕草をした。すると、どういうことか、平だった鏡が波立ちウネウネと伸びて黒髪の女性の身体を包み込むような椅子の姿となった。姿見鏡は鏡の玉座と姿を変えたのだ。

 アミアガリアは生まれて初めて目にする出来事にただただ驚いていた。

 黒髪の女性は言った。

「アミアガリアーーいや、アミア。貴様、心の声が顔にでておるぞ。力を見るのは初めてか?」

「はい。物が変化させるなど、そのようなことが人の身でできるのでしょうか?」

「ハハ。ダトヤよ、狡猾な貴様と違ってなんと愛らしい子よ。ーー何も知らぬ愚かな子よ。世界は広いのだ。貴様は何も知らぬ赤子であるというだけだ」

「あなた様は一体ーー」

「私か。私は二つの世界を統べる王にして、鏡の王ミランディア・アニウィリテ・カヴェザアフだ。皆は私を慕って、『ミム』と呼ぶ。事情がありダトヤは私の名を呼べぬが、アミア、貴様は呼ぶことを許してやろう」

 アミアガリアが父王を見ると、父王は激しく頷いた。

「ありがとうございます、ミム様」とアミアガリアはその場に平伏そうとしたが、黒髪の女性ミムはアミアガリアの顎に手を置いてそれをやめさせた。

「その麗しい顔を下に向けるな。ダトヤに似ずよかったな。見飽きることはなさそうだ。ーーさぁ、そろそろ、その甘美な声で頼みごとを言え。鉱石と取引きだ」

 アミアガリアは手に持っていた紙を見下ろし、少し読んだ後、二枚目にも目を通してから言った。

「お願い申し上げます。父上様の呪いを解いていただけませんか?」

「それはできない」

 ミムはアミアガリアから離れ、鏡の玉座に座り込んだ。

「どうしてでしょうか?」

「貴様の父は、古い神の怒りを買ったからだ。古い神の呪いは、古い神しか解けぬ。何をしたのか知らぬが、相応の罰だと思え」

「そんな、父上様は王なのです。私たちをこれからも率いて頂かなければならないのです。どうか、お願いします。父上様の声をーー」

「ハハ。そう躾けられたのか?ーー率いる者が必要ならば、アミア、貴様が王になれば良い」

 アミアガリアは明らかに動揺していた。隣に座っている父王は血走った目で息子を見ていた。

 ミムはその父王を見て笑った。

「ダトヤよ、前に貴様は息子を後継に据えると言っていたな。それが少し早まっただけだ」

 父王は悲しそうに首を横に振り、手振り素振りで「まだ早い」と言っていたが。ミムはきっぱりと言った。

「貴様が君主ならば、決断しなければならない。貴様が出来ぬならば、私がしてやろう。今後、取引きはアミアとのみ私は行う。貴様はこの部屋には金輪際立ち入ることを許さん。私は二度は言わぬぞ」

 父王は口を大きく開けた。アミアガリアが代わりに口を開こうとしたが、ミムは首を横に振った。

「ーー余計な真似はするな。そろそろ戻らねばならぬ。アミア、取引きは終わらせる。これを授けよう」

 ミムは懐からガラスの小瓶を取り出して、テーブルに置かれた青い鉱石の隣に置いた。小瓶の中には薄い緑の液体がわずかに入っていた。

「それは……」

「呪いによる苦痛を和らげる貴重な薬だ。長年、取引をしてきたダトヤへのせめてもの情けだ。私とて滅多に手に入らぬ品だ。使う分量をよく考えて使え」

 ミムは小瓶の隣の青い鉱石を掴み懐に入れた。

 アミアガリアは言った。

「ありがとうございます。……しかし、痛みを和らげる術以外には他には何もないのですか?」

「貴様ができるならば、この世界を出てシウカを探すんだな」

「シウカ?」

「アミア、貴様はただの赤子同然よ。次の機会が欲しいのであれば、赤い鉱石を持ってこい。二つだ。私は王だ、忙しい身だ」

 

 ふわっと霧のように景色が消え、また次の景色に変わった。

 そこは、先ほどまで見えていた地下の部屋の景色と同じだが、別の日のようだ。アミアガリアは白い上着を着ており、ミムは赤いドレスを纏っていた。しかも、その紅ドレスの裾は短く、下に短いズボンを履いていた。

 アミアガリアは床に布を敷いてその上に座り、ミムは鏡の玉座に座って何やら互いに口を動かしていた。声は聞こえなかった。

 景色がまた何度か変わった。アミアガリアの服装や髪の長さが変化し、ミムのドレスや髪型が毎回変化していたが。毎回、二人が会話をしている様子がよくわかった。

 何十回かそういった光景がつづいた後、姿見鏡と小さな一本足の金のテーブルしかなかった部屋に、やや大きめの質素な木のテーブルと椅子が置かれていた。アミアガリアはその椅子に座り、ミムは鏡の玉座に座り、いつしか談笑まじりに会話をしている光景が現れた。声も笑い声も聞こえなかったが、二人の距離が少しずつ親密になっていくのがよくわかった。

 景色がその後、五度ほど変わった頃、木のテーブルの上に、果物ののった籠と金の盃が二つ並び、近くに酒の入った

 ミムは紫色の皮をもつ大きな果物にかぶりついた。果実の汁がミムの美しい顎のラインに流れ落ちたが、ミムはその汁を豪快にドレスで拭き取った。

 アミアガリアの声が久しく聞こえた。

「ーーシウカは生成術という不思議な術の中の、人体生成術を得意とした医師のようなものなのですか?」

「そうだ。あれはコクハの民でな」

「コクハ?」

「高い技術力と強い生命力を持った種族だ。争いを好まない賢き者ばかりだ。私の母は長い旅をしていた彼らの一行をもてなしたことがあった。だから、母の後に王となった私が逃げてきた彼らを一時期保護してやっていた」

「……保護?彼らには天敵がいたのですか」

「シウカたちの敵は若い神たちだ。真理を歪めた罪を問われていたそうだ」

「何の真理ですか?」

「生命の死の真理だ。神だけがその真理に触れていいという考え方が多くの世界にはあってな。それに反いたのがコクハの民だ。シウカはコクハの中で最初に不死となり、仲間のコクハの民にも同じ施術を施したが。それだけは足りぬと旅をつづけていた。母はシウカの想いを汲んでやったのだ」

「そうだったのですか。ミム様には『神』という者を退けるお力があるのですか?」

 ミムはハハと笑った。

「私は王だが、神を前にすれば無力だ。常闇のカヴェザアフによって守られているのだ。カヴェザアフという世界には、若い神は酒を求めにくることはあっても不用意に来ない。カヴェザアフの地下深くは古き神たちの寝床なのだ。神だけではなく世界そのものを滅ぼす力を持つ悪神もそこに静かに眠っている」

「悪神……」

「私の母の一族は代々、カヴェザアフの地に住まうように老神によって生みだされた一族だ。目を覚した神々に酒を振る舞い、荒ぶる気を鎮め、再び安らかな眠りにつけるよう役目を与えられてきたのだ。カヴェザアフで若い神が力を不用意に使い、神々を起こし怒らせれば、どれほどの若い神々が殺されであろうな」

「恐ろしい地ですね。ミム様はそんな地をお一人でーー」

「私は神には勝てぬが、そんな脆い生物ではないぞ。家臣も大勢いる。それにカヴェザアフともう一つの世界も統治している。カヴェザアフとは真逆の世界だ。強靭な肉体を持つ私が生まれたのは母が勇敢だったからこそであろうな」

「ミム様のお母上様はどんなお方だったのですか?」

「ーー哀れな人だ。アミア、貴様は外の世界を知らぬだろう。私ですら想像すらできぬ者たちが多数いるのだ」

「そんな者が世界にはいるのですか?」

「あぁ、わんさかいる。外の世界には時を食らう化け物がいる」

「化け物……時を食べるなど」

「そういう生き物がいるだけだ。カヴェザアフともう一つの世界である光の都市アザームは隣り合う世界ではなかった。時を食う化け物よって、別の世界の時間が食われたことによって他の世界が消え、その反動ゆえに不安定となった二つの世界が隣あい重なり合った時期があったのだ。その重なり合った時期、私の母であるカヴェザアフの王であるミュゾラと父であるアザームの王ベネムは重なった世界に映りあう者同士、恋に落ちたのだ。母は老神様に鏡を渡る力と引き換えに生まれてくる私を王にすると約束し、鏡の王となり鏡から光の都市アザームへと渡った。父ベネムとその一族は母を受け入れ誠に愛し、私が幼き頃まで温かな平和な日々をアザームで過ごした」

 ミムは盃の酒を一気に飲み干して、言った。

「ある日のことだ。カヴェザアフの民であるドルヤ・ノスムという男は執拗に母を愛し、母が残した数本の髪を大事に持っていたそうだ。そして、母の髪を持てば鏡を越えられることを知った。ドルヤは鏡を渡り、幼い私を人質に母をカヴェザアフに連れ戻し、無理やり母と婚姻を結ばせたのだ。私が王になった後、私の父ベネムはーー」

 アミアガリアは涙を流したミムを見て、ミムの手に無意識に手を重ねた。ミムは腕で涙を拭き取った。

「いや、大丈夫だ。父は家族を失ったせいで正気を失い、苦痛から逃れようとアザームに訪れた神から神になる手ほどきを受けたそうだ」










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