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灼熱の銀の球体  作者: 佐屋 有斐
第一部第五巻「天秤の剣」
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九十二章 閉じられた扉



 第九十二章 閉じられた扉





 次に現れた光景は、とても暗い場所からはじまった。部屋に響き渡る啜り泣く幼い声の中、巨大な木製の前に少年が座り込んでいた。その少年は頑丈な扉を小さな手で何度も叩いていた。それも手が腫れるほどに叩いても、びくともしなかった。

「……うっ、うっ、出して!ここから出して!」

 少年は泣き腫らした顔でそう何度も叫んだが、頑丈の扉は開くことはなかった。

 ふわっと光景がまた変わった。

 大きな窓が幾つも並んだ明るい長い廊下を少年が青い表紙の厚い本を抱えて歩いていた。ダークブラウンの髪で瞳は淡いブルーをしていた。顔つきを見ると、アミアガリアの幼い頃のようだ。年は五歳前後ぐらいだろうか。

 幼いアミアガリアの隣を二人の若い侍女が頭を下げて通り過ぎようとした時、クスクスと二人は笑った。そして、すれ違いざまにこう言ったのだ。

「穢らわしい子」

 アミアガリアが振り返ると、クスクス笑いながら侍女たちは廊下の先へ消えていった。幼いアミアガリアが顔を歪めていると、前方から歩いてきた召使いがアミアガリアの身体にわざとぶつかってきた。

「痛っ!」とぶつけられた肩を押さえたアミアガリアは、前を向いて召使いを見上げた。三十代初め頃だろうか、茶色い髪を短く刈りあげた召使いは意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

「余所見せずに、前を見て歩いてください」

 むかっとしたのだろう、アミアガリアは叫んだ。

「お前からぶつかってきたんだろう!」

「ぷっ」と召使いは口元を押さえて笑った。

「なんだ!なんで笑うんだ」

「余所見をしていて他人のせいにするなんて、罪悪感がないのは母親がアレだからなんでしょうかねぇ」

「アレってなんだ?」

「アレはアレですよ。貴人様の血が半分混じっていても、生まれはどうしても消えないようですね」

「なんだって!」

「あぁ、また暴れますか?花瓶を壊しても私のせいにしないでくださいよ。迷惑ですから」

 召使いは馬鹿にした物言いで、にやにやとしていた。何やら企んでいるような様子だった。幼いアミアガリアはふんと鼻息を荒くして黙って召使いの隣を通り過ぎた。そして、また、召使いもまたすれ違いざまに「役立たずめ」と言った。

 気分の悪くなる光景だった。しかし、ふわっと景色が変わるたびに嫌な光景が繰り返された。食卓では、スープの中に干涸びた野菜が入れられ、ベッドのシーツは何ヶ月も洗われず。アミアガリアの華美な部屋のクローゼットには、服が二着しかなかった。それも、何年も前に新調した古い服ばかりだ。アミアガリアが暮らす屋敷の召使いも侍女たちも明らかに幼いアミアガリアを見下し、冷遇していた。

 アミアガリアの側には誰もいなかった。一人でポツンと窓辺に座り込んで、本をひたすら読んでいた。読書に集中していれば、醜い声が耳に入っても、聞かないふりができただろう。

 けれど、無視を決め込むアミアガリアの様子に勝手に腹を立てた十代の召使いの一人が、静かに窓辺で読書をしている幼いアミアガリアの細い腕を乱暴に引っ掴んで床に身体を放り投げた。絨毯の上とはいえ、床に身体を叩きつけられてアミアガリアが痛みに唸った。

 召使いは叫んだ。

「聞いているのか、この野郎!澄ました顔をしやがって。なんで俺がお前みたいな奴に仕えないといけねぇんだよ」

 アミアガリアは召使いをきっと睨みつけた。

「其方のどこが私に仕えているって言うんだ」

「はぁ?」

 幼いアミアガリアはページを半分に折れてしまった本を閉じて拾い、服についた埃を払いながら立ちあがった。

「主人が読書しているのに、声を荒げて乱暴するのことが仕えることなのか。私も其方のような頭の悪い奴に仕えられたくない、さっさとどことなりへと去ればいい」

「なんだと、このガキ。ーーおい、こっちに来い。口で言っても駄目なら、この生意気な奴にわからせようぜ」

 笑いながら首を左右に傾けてボキボキと骨を鳴らした召使いは、同世代の若い召使いたちを呼んだ。幼いアミアガリアは召使いに四方八方を囲まれて、逃げ場もなく隅に追いやられた。

「なにをするんだ……」と声を漏らした後、召使いが腕を振りあげた瞬間、景色がまた変わったーー。


 次に現れた部屋の光景の中、幼いアミアガリアの顔も首も手も、素肌が見えているところすべて痛々しい赤や青、紫の痣だらけだった。その上、切り傷も至る所にあった。到底、心がある人がすることとは思えない仕業だ。痛みを堪えながら膝を抱えて暗がりにある部屋の片隅で涙を流しながらアミアガリはぽつりと呟いた。

「母様はどうして会いにきてくれないんだろう……」

「あの女はあんたを見捨てたんだよ!」

 突然聞こえた声に振り返ると、四十ぐらいの太った侍女が箒を片手にいつの間に部屋に入ってきていた。

「あぁ、汚い。 埃まみれだ。どれくらい掃除していないんだ、この部屋は!」

 悪態をついた侍女は、口元を押さえて箒で絨毯の上を履くと、大量の埃が宙に舞った。

 アミアガリアは思わず咳き込んだ後、口元を押さえて言った。

「母様が見捨てた?」

「あぁ、そうだよ。ちょっとばかし美人だからって貴人様に見染められて、後は部屋に篭ってやりたい放題さ。貴人様もまったくどうかしているよ」

 太った侍女は箒で床を履きながら、暗がりにいるアミアガリアに近づいて「どいとくれ」と言うと、ふと、アミアガリアの腕の痣を見てそれから腫れた顔を見てびくついた。

「あんた、その顔……どうしたんだよ?」

「殴られて、蹴られた」

「本当かい?なんてことだーー。誰にやられたんだい」

「私に仕えている奴ら皆だ」

「……一体、いつからだい」

「もうずっと前から……」

「ずっと前からだって、大変だわ……。だから、こんなに部屋が汚れているんだね」

 太った侍女が真っ青な顔をしていた。


 景色が変わった。廊下から始まったその光景に、横一列に両手を後ろで縛られて跪かされている召使いと侍女たちの姿があった。皆はブルブルと震えあがっていた。

 そして、その前にはダークブラウンの髪を後ろで束ねて、高価な黒の衣服を身にまとい、高級な椅子に腰掛けた四十ぐらいの男が座っていた。目が淡いブルーであり、顔は美形とはいえず平凡だったが、顔立ちからして神経質でひどく冷たい印象だった。

「はて、私は我が息子を殴って良いと許可したか?世話せずとも良いと許可したか?」

 男の傍に仕える茶色い髪の上等な黒い上着を着込んだ男が言った。

「貴人様は許可は与えておりません。此奴らが都合よく判断して行ったことです」

 淡いブルーの目を細めた男は、手を払うようにした。

「まったく面白くない。面白くないぞ。私の血を半分も受け継いだ息子を痛ぶるなど、貴人がなんたるか今一度わからせる必要があるようだ」

「貴人様!」と召使いと侍女たちは慈悲を乞うように叫んだが、貴人の傍にいる男が睨みつけて黙らせた。

「まったく、その通りにございます。アミアガリア様の大切な御身を傷つけるなどと言語道断。いっそのこと、此奴らがした行いとまったく同じことして罰といたしましょう。無駄口を叩ける口と、身体が同じ目に遭えば、頭の悪い此奴らでも善悪の判断ぐらい身につくでしょう」

 淡いブルーの目をした貴人は笑みを浮かべた。

「はぁ、はぁ。それは良い考えぞ。広場に連れて行き、罰を皆の前で与えよ。私が良いと言うまで嫌というほど思い知らせてやろう。貴人を怒らせることがいかなることか」

「貴人様!」、「貴人様、お許しください!」と召使いも侍女たちも叫んだが、恐ろしい笑みを浮かべた貴人は言った。

「まだぎゃあぎゃあと煩く叫ぶか。アミアガリアには主人がなんたるかを叩き込む必要があるようだ。もう二度と逆らう気も失せるように、たっぷりと教え込もう」

 貴人の言葉に、召使いも侍女たちも顔を真っ青にした。これからとんでもない出来事がその身に起こることを予期していた。貴人の恐ろしさを忘れ、貴人のまだ幼い子供を傷つけたのだ。

 冷たい貴人の笑みに、自らが犯した過ちに苦しまされることに皆は恐怖した。

 自分よりも弱いもの虐めることは実に容易いかもしれない。しかし、実際ところ、虐げて喜んでいたのは、自らもまた抗えないものだからだ。より強いものにはけして抗えない。やるせない複雑な心境を晴らすための単なる憂さ晴らしなんてものはそもそも都合の良い錯覚に過ぎない。所詮は、小さな世界しか見えていない愚か者なのだ。醜い本性を曝け出し他者にした惨たらしい行いは、かつての自分と同じ目をした皆に晒されるのだ。皆が知るのだ。誰かの真似をしたとしても、自らの責任として逃れられない。一時の快楽のために、自分が手にしていた僅かなものすら、すべてを自らが捨てたのだ。


 景色がガラッと変わった。高い本棚に囲まれた貴人の書斎で、アミアガリアは椅子に座る父の前に立ち尽くしていた。

「アミアガリアや、なぜ目下のものに付け入る隙を与えた?」

「父上、すみません。私が弱かったからーー」

「弱い?お前は幼いだけだ。貴人とはいえ、成長するまでは幼いのだ。お前は生まれた瞬間から私のようになれるとでも思っているのか」

「……いいえ、父上」

 椅子に座る貴人はふんと鼻で笑った。

「わかっているならば、なぜ侮られるような真似をしたのか考えてみよ。お前は虐げられる側ではない、虐げる側だ。それを徹底的にその身に教え込む必要があるようだな」

 アミアガリアは衝撃を受けたような驚いた顔で父を見た。貴人は言った。

「我が息子よ、お前は特別な子だ。けして誰にも侮られてはならん」


 ふわっと景色がまた変わった。同じ貴人の書斎のようだが、小さな黒革の鞭を手にした貴人の長が椅子に座り。目の前で書物を持つ少し成長したアミアガリアの言葉を聞いていた。景色がまた変わったが、代わり映えしない書斎の中でさらに成長したアミアガリアが父の前で書物の内容を読んでいた。

 しかし、何度か似た光景が現れた後、さらに成長し小さな紳士の風格が出てきたアミアガリアが長い廊下に佇んで窓の外を眺めている景色となった。

「アミア」と、美しい女性の声が呼んだ。アミアガリアは振り返らなかった。しかし、もう一度、美しい女性の声が「アミア」と呼び、アミアガリアは声を呼んだ者の方へ鋭い目つきで振り返った。

 すると、輝く金髪の長い髪を胸元にたらし、やや目元が腫れた淡いパールの白色の瞳を持つリイリカナが上着を片手で抑えて少し開いた扉から顔を出していた。

 アミアガリアはその女性を母だとなぜか一目見てわかっていた様子だが、微笑むこともなく。すぐさま背を向けて廊下の先へ足をすすめた。

「アミア!待って」と、追いかけたリイリカナがまだ少年に過ぎないアミアガリアの腕を掴んだ瞬間、アミアガリアは大きな拒絶をした。リイリカナの手を叩き払い、バランスを崩したリイリカナはよろめいて床に座り込んだ。

 アミアガリアは母を見下ろしてひどく恨みの篭った目で睨みつけた。そして、何も言わずに、廊下の先へと消えていった。


 さらに景色が変わった。

 成長したアミアガリは少年から青年へと姿が変わっていた。爽やかな面立ちのアミアガリアは十代半ばだろうか。濃いブルーの上等な衣服に身を纏い、感情をほとんど表に出さないようにしているのか無表情で窓辺で本を読んでいた。アミアガリアのいた部屋はどうやらアミアガリアの趣味で整えられたわけではなさそうだった。壁紙は華やかな薄い赤の花柄で、窓際に置かれた木製の椅子は無駄な宝石があしらわれるなど無駄な装飾が多かった。

「アミアガリアちゃん」と、突如軽く部屋の扉をノックをしてアミアガリアの返事も待たずに部屋に女性が入ってきた。淡い赤のドレスに身を包んだ女性は、三十代後半ぐらいだった。厚い化粧をしていたが、元が良いのか美人に見えた。

「義母上様」とアミアガリアの声変わりしてやや低くなった声が言った。夫人はふふと気分よく微笑んだ。

「読書中にごめんなさいね。旦那様が急かしてくるから、そろそろ決めたほうがいいと思って。あなたとお話をしにきたのよ」

 アミアガリアは読んでいた本を閉じて言った。

「婚姻の話ですか?」

「えぇ、まずは婚約だけでも済ませておかないと。アミアガリアちゃんは旦那様の後継だから、早くに済ませておかないと他の貴人に示しがつかないわ。こないだ会った姪のライザナはどうだった?気に入らなければ、私の古くからの友人にも頼むことができるわ。もっと穏やかな子の方がーー」

「婚姻のことはすべて義母上様にお任せします。私の意志などお構いなく」

 夫人は溜息をついてアミアガリアの手の上に、家事などしたことのない滑らか手を重ねた。

「そんなことは言わないでちょうだい。私は母と言っても名ばかりかもしれないけれど、これでもあなたのことを大切に思っているのよ」

 アミアガリアと夫人の間に重い沈黙がつづいた。義理の親子である二人の仲は悪いわけではない様子だが、夫人はどこか憂いの篭った目を伏せていた。

 アミアガリアは言った。

「義母上様のせいではございません」

 悲しそうに顔を顰めて口元をハンカチで押さえた夫人は言った。

「せめてあなたに弟か妹がいれば、あなたの相談相手になったかもしれないけれど……。いっそのことのあなたの実のーー」

 夫人は口にしてからはっとした顔をした。口に出すつもりなどなかったのか、「ごめんなさい、私ったら」と悔やむような顔で言った。そこに悪意は微塵とも感じられなかった。夫人は自分自身を卑下した上で呟いた言葉だった。

 アミアガリアは夫人の手からそっと逃れて言った。

「義母上様は私を思って仰っていらっしゃるとわかっております。婚姻の相手はライザナ嬢でかまいません。私のことを好ましいと仰って下さったので。きっとうまくいくことでしょう」

「そうかしら。あの子は気性が激しい子だから。少し心配だわ」

「まだ幼いだけです。義母上様の姪ならば、心配はご無用でしょう」

 夫人はぎこちなく微笑んだ。

「信頼してくれてありがとう。私が自ら教育するわ。分別がつく子になれば、きっとあなたのことを支えられる良き妻になれるはずだわ」

「きっとそうなりますよ、義母上様」

 アミアガリアは頷いた。夫人も嬉しそうに頷き返した。 


 次に景色が変わると、そこはピンク色と金色に飾られた壁紙の広く豪華な部屋だった。

 二脚の華美な座椅子と陶器製のテーブル、白いふわりとした天蓋付きの大きなベッド。そして、廊下へと通じる扉、立派な浴室に繋がる扉と、衣裳部屋に繋がる扉、そして、もう一つ、夫の部屋に通じる扉が壁を飾っている。

 ダークブラウンの髪を緩やかにウェーブさせた寝巻き姿の十四、五歳の若い娘が怒鳴っていた。

「あなた!どういうつもりなのよ」

 若い娘の足元には、衣服の乱れた若い侍女が平伏して「申し訳ございません、奥様。申し訳ございません」と言った。しかし、若い娘の気が晴れないのか、若い侍女を足蹴りにしたのだ。侍女は痛みを堪えながら、床に倒れた。

 若い娘は叫んだ。

「あなたのような下賎者が、身の程を弁えなさい!あなたがアミアガリア様のお目にとまるとでも思っているの。私が妻なのよ!アミアガリア様の妻は私なのよ。ねぇ、わかっているの!」

 侍女の首元の服を掴みあげて、娘は顔を真っ赤にして狂気を含めた目で侍女を見ていた。

 廊下へと通じる扉が勢いよく開いて、アミアガリアの義理の母である夫人が姿を現した。後から年配の侍女が入ってきたのを見ると、その侍女が夫人を呼んだようだ。

 夫人は侍女の首元を掴んでいる娘に言った。

「ライザナ!やめなさい」

 無理やり夫人は娘と若い侍女を引き離した。そして、夫人は娘の両頬に手をあて落ち着かせようとした。

「お義母様」と娘は怒りで顔を真っ赤にさせたまま両目から涙を流した。夫人は娘に構っている間に、年配の侍女は娘に叱られていた侍女を立たせて、部屋から出ていった。

「うう……。うう……」

「ねぇ、ライザナ。何を取り乱しているの。何があったのか教えてちょうだい」と夫人は優しく言うと、娘は泣きながら言った。

「あの子が、アミアガリア様にちょっかいをかけようとしたの」

「ちょっかい?何をしたの?」

 鼻を啜った娘は言った。

「アミガリア様の寝室のベッドに潜んでいたのよ。ーー私、アミアガリア様がご帰宅する前にお部屋を暖めて差し上げようと思ってお部屋に入って見つけたのよ。ショックだったわ、伯母様。ーーお義母様が仰っていたように良き妻になろうと思ったのよ。最近、寒くてよく眠られないとアミアガリア様が仰ってたから、だから私……」

「あぁ、かわいそうに。ライザナ」と夫人は両頬から手を離して娘を抱きしめた。

「私、うう……私」

「安心なさい。あの侍女のことは私が処分を下すわ。ほら泣きやんで」

「うう、今回がはじめてのことじゃないのよ。もうこの屋敷から女を全員追い出してほしいわ」

「はじめてじゃないというのは、どういうことなの?」

「アミアガリア様への愛を綴った手紙を何通も上着に紛れ込んでいるのを見つけたり。仕事でもないのに、アミアガリア様の後ついてまわっている侍女もいたわ。それ以外にも、お義母様に言えないことが沢山あったの。悍ましいわ。でも、アミアガリア様は気にもされていらっしゃらないの。『さようですか』としか仰らないの」

 夫人はライザナの背中を優しく摩った。

「それは、何かするほどのことでもないと思っているからだわ」

「あんなに誘惑されているのにーー」

「ライザナ。アミアガリアは旦那様の後継者なのよ。それに、若くてハンサムだわ。おこぼれを貰おうと躍起になっているのよ。あなたは正真正銘、貴人の妻なのだから相手にしては駄目よ」

「ですけど、お義母様。夫に色目をつかう者たちに仕えられるなんて嫌だわ」

 夫人は抱擁していたライザナから離れて言った。

「ライザナ、アミアガリアは馬鹿ではないのよ。たとえ、心が弾かれた相手ができたとしても、妻であるあなたを蔑ろになんてしないわ。あの子も可哀想な子なのよ。あなたがちゃんと理解してあげなきゃ駄目よ。こういう問題は頭を使わないとね」

 夫人は微笑んだ後、ふっと景色が消え去った。









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