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灼熱の銀の球体  作者: 佐屋 有斐
第一部第五巻「天秤の剣」
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八十七章 姿見鏡



 第八十七章 姿見鏡





 バイランは少し間を置いて言った。

「メアの鏡は、鏡を通してすべての世界の不浄なものを寄せ集めてカヴェザアフで水晶を形作る。その水晶から出る滴を一万年かけて貯めると、『死の秘薬』ができる。その秘薬は古くから老神という存在だけが引き取りに来るそうだ。その後、何に使っているのかはメアも知らないようだ」

「老神?ーー何度か聞いた名だ。名前はあるか?」

「知らない。メアはお父様と呼んでいた」

「お父様?女王たちの父親なのか?」

「違うそうだ。メアとメアの姉君スアリトメ女王陛下には他にも兄弟、姉妹が大勢いるそうだ。メアと陛下以外の者たちには何ら血の繋がりがないが、常に繋がっていると言っていた」

「繋がっている?」

「皆、とても重要な役割りを負っていると言っていた。それ以上、詳しく話を聞いても理解できなかった……」

「あぁ」とルーネベリは頷いた。そういえば、ルーネベリも似たようなことを言われた覚えがあった。聞いても理解できない。バイランは少し寂しげに目を伏せていた。ルーネベリは言った。

「なんとなく話はわかった、メトリアス女王は貧乏くじを引いたんだな?」

「本人はそうじゃないと言っていたがーーそうとしか思えない。あんな暗い世界にーー」

「あら、そんなに悪い世界じゃなかったわ」と、突然話に割り込んできたのは、青い陶器の皿を数枚抱えて部屋に戻ってきたメアだった。

「メア!」とバイランが言うと、メアはお皿をテーブルに置いてにっこりと笑った。

「カヴェザアフにも奇妙で愉快な子たちが沢山いましたもの。寂しくはありませんでしたわ。ーーでも、姉の世界に行けないことは残念でしたわね。姉も私の世界に行けないことを残念に思ってましたわ。私たち双子なのに、同じ世界に居られませんの。だから、鏡越しのいつもその日起こった出来事を話し合っていましたの。懐かしいわ」

 メアはテキパキと、菓子メテル・テテローを十等分に切ると、青い皿にのせて、ルーネベリや、アラ、名無しの神の前に置くと「どうぞ、手で召し上がってくださいな」と言った。

 アラと名無しの神はメテル・テテローを掴んで口に運ぶと、パリパリと音を鳴らしていた。

「美味い」と思わずアラが呟き、名無しの神は「へー」と言った。

 メアは微笑んで「美味しいでしょう?」と言わんばかりだった。

 ルーネベリもせっかく振る舞ってもらったので、メテル・テテローに手を伸ばして口に運んだ。薄い紺色の飴のようなものが口の中に入った瞬間、食べたこともない果物の瑞々しい甘い香りと芳醇な酒の香りが広がった。そして、最後にピリッという最後を締めるような刺激が心地よかった。

「なんだこれは……」

 ルーネベリも思わず手に持っているメテル・テテローを二度見してしまった。

「ふふ、お口に合ってよかったですわ」とメアが言ったので、ルーネベリが言った。

「こんなに美味しいとは思いませんでした。これは……酒とも合うんじゃないですか?」

「そうですわね、合うと思いますわ。試したことはありませんけれど、ヨーケルとか、アシュマ、メゼット、クロイノー辺りのお酒ならぴったりかもしれませんわね」

「どれも酒なんですね?」

「えぇ、他にも沢山ありますわ。本当に山のように」

「えっ、酒が山のようにあるんですか?」

「そうですの。カヴェザアフはお酒がとても有名ですのよ。お父様がーーあぁ、私の養父ですのよ」

「あぁ、その話は少し聞きました」

 ルーネベリがそう言うと、メアはちらりとバイランを見て納得したようだった。メアは言った。

「カヴェザアフは気温も常に一定で、闇の暗さはお酒を熟成させるするのにピッタリだからといって、水晶で作った酒蔵が沢山ありますのよ。お父様の酒蔵も沢山ありましたから、私もそこで自家製のお酒を熟成させておりましたわね。最後に作ってから大分立ちますから、きっとまた美味しく熟成されていますわ。

 常闇の者たちもほとんどお酒を作ったり、他の世界に売ったりしておりますのよ」

「その話を聞くと、カヴェザアフに興味が非常に湧いて来ました」とルーネベリは腕を組んで笑った。

 メアは口元に手を当てて笑った。

「あら、お酒がお好きですのね」

「はい、とても好きですね」

 ふと、メアの話を聞いて、ルーネベリはメトリアスの鏡を手に入れる前の出来事を思い出した。レソフィアの高の庭で、美女の片目にいた禍々しい生き物が物々交換をしていた小人にメトリアスの鏡を差し出した時のことだ。あの時、禍々しい生き物は鏡のことをたいした価値があるとは思っていない様子だったことがとても印象的だった。

 ルーネベリは言った。

「もしかして、カヴェザアフは鏡よりも酒の方が有名なんですか?」

「えぇ、元々、私の鏡は私が中に沢山物を入れられるように加工したものですのよ。沢山のお酒を運ぶ用のものですわね。私はそういった鏡を数えきれないほど数を作りましたのよ。大昔に姉に一枚渡した後は、全部、カヴェザアフの至る所に転がってますわ。誰もがいつでも使えるように」

「あぁ、なるほど」と頷きながら、ルーネベリはつい先ほどメアが近所の人がいつでも持って行けるように皿を外に置いておくと言っていたことも思い出した。 どうやら、メアの親切心は昔からだったようだ。

 メアは言った。

「お酒はお父様が神だから、神々が買いに来ることも多くて。神々に有名な銘柄は『シナイン』ですわ」

「あっ、知っている」と名無しの神が言った。

「えっ?」とルーネベリ。名無しの神は言った。

「至高の酒『シナイン』。その酒を飲むと、百年は元気になる」

 メアは頷いた。

「そのお酒ですわ。お父様の酒蔵で作られておりますのよ。私が作っているお酒は『シナシトス』ですの」

「それも知っている!」と、名無しの神は立ち上がって叫んだ。

「まぁ、私のお酒もご存じなの?」

「その酒を飲むと、身体が輝く。ーー昔の身体が……」

 名無しの神はテーブルに両手をついて俯いた。

「昔の身体?」とメアが首を傾げると、フェザティアが部屋に戻ってきた。

「ねぇ、作ったもの、外にあるものだけでいいか見てほしい」

「あぁ!ごめんなさい。すぐに行きますわ」とメアは言い、新しくメテル・テテローをルーネベリたちの皿によそおった後、「ごゆっくりなさっていて」と言って部屋を出ていった。

 ルーネベリは名無しの神が可哀想に思い、席を立って名無しの神の両肩に手を置いてゆっくりと座らせた。アラはメテル・テテローに齧りついて黙ったままだった。

 バイランは言った。

「本当なのか?」

「えっ?」と、ルーネベリは言った。

「その神が剣だったという話だ」

 ルーネベリは自身の席に戻り頷いた。

「ーーあぁ、そうなんだ。剣だったんだ」

 ルーネベリが足元を見下ろすと、いつ間にか椅子の足付近にプラチナの美しい剣が置かれていた。何度も見ても美しい剣だ。しかし、ルーネベリは確か、バイランたちの家に来る前に、地面に置いたまま持って来なかったはずだ。バイランたちを怖がらせないように……。

 バイランはルーネベリが下を向いていることに気づいて、何を見ているのだろうと床の方を向くと、銀色に光る剣が見えた。ぎょっとしたバイランはうとうとしはじめていた子供を太い腕で覆い隠した。

「ーーそ、それは?さっき置いて来た剣じゃないか。どうやってここに持って来たんだ」

 バイランにそう言われ、ルーネベリは顔をあげて苦笑いした。


「いや、持って来てはいない。ついて来たんだ」

「ついてきた?剣が?」

「あぁ、そうなんだ。この剣に俺は選ばれてしまったんだ」

「選ばれた?さっきからどういう意味だ」と、バイラン。ルーネベリは真実の剣を見下ろしたまま言った。

「そうだな、すべての事情を説明したいんだが、俺も色々と誤解していたところもあったようだ。先にバイランさんとメアさんの話をやはり聞いておいた方が良さそうなんだ。申し訳ないが、協力して欲しい」

「先に話せと?」

「必ずわかっている経緯は後で話す」

 ルーネベリは真剣な面持ちでバイランを見つめた。バイランは床に置かれた剣と、腕の中の子供に目を落とし、「寝かしつけてくる」と言って、子供連れてしっかりと閉じられた青い三つの扉のうちの一つを開けて、奥の部屋に行ってしまった。

 しばらくしてバイランが戻ってくると、「待たせた」と言った。

「いいや、悪いな」とルーネベリが言うと、バイランは席に座り、両手を組んだ。

「いや。さっき話したこと以外で、何が知りたい?」

「もう一度最初から、バイランさんとメアさんの話が聞きたい」

「フアザェヴカにいた頃からか?」

「あぁ、できれば。どこで重要な事柄と絡んでいるのかわからないから、おおよそすべての事柄を知っておきたい」

 バイランは、アラと名無しの神を見て頷いた。

「……わかった。だが、話し終えた後は、そっちの話も聞かせてくれ」

 ルーネベリは深く頷いた。

「もちろんだ。すべて話す」

 バイランは頷き返し、背もたれに身体を預け、手を組んだまま話しだした。

「……さっき話したとおり、私はファザェヴカで宰相をしていたが。私は元々はフアザェヴカの民ではなかった」

「えっ?」と、ルーネベリ。バイランは言った。

「私は流れ者だった。両親もどこかの世界に長く定住することなく、様々な世界を流れ歩く民だった。私が子供の頃、病を得た両親はフアザェヴカに辿り着いてすぐに亡くなってしまった。行き場を失った私をメアの姉君スアリトメ女王陛下に拾ってもらい、女王陛下の城で育った。私は恩のあるスアリトメ女王陛下を敬愛し、女王陛下のお役に少しでもたてるように勉学に勤しみ、宰相の地位にまでのぼりつめた。しかし、今思えば、私が宰相にまでのぼりつめたのは、女王陛下の寝室に仕事を理由に入室を許されるからだったのだろうな」

「それはまた、どうしてなんだ?」

 バイランは照れ臭そうに笑った。

「単純な奴だと思うだろうが。スアメトリ女王陛下の寝室には、姿見鏡があったからだ」

「姿見鏡?そんなものはどこにだって……」

「スアリトメ女王の寝室にある姿見鏡はすべての世界を探しても他には見つからない。メアと、スアリトメ女王が生まれた日、実のお母君が残したものだそうだ。フアザェヴカとカヴェザアフ二つの世界を繋ぐたった一枚の鏡をなしていて、どちらか片方が割れても元に戻る。双子のお二人のために作られた鏡だった」

「なるほど。メアさんと、スアリトメ女王のお母様は神なのか?そんな特別な鏡を作るなら、神ではないかと思ったんだが……」

「メアはあまり母君のことを覚えていないそうだから、私も確信はないが。メアがお父様と呼んでいる老いた神が、母君と大昔から縁のある神だと聞いたことがある。メアの家族も複雑なようだ」

「そうなんだな。……それで、バイランさんは姿見鏡に映るメアさん会いたさに宰相までのぼりつめたんだな?」

 バイランは顔を赤らめた。

「……子供の頃、癇癪を起こして泣いていた私をなだめるため、女王陛下の寝室にある姿見鏡を見せてくれた。そこで鏡の向こう側にいたのがメアだった。私は優しく愛らしく美しいメアを一目見て心奪われた。女王陛下を敬愛していたが、メアは一人の存在として愛してしまった」

「そうだったのか」

 バイランは頷いた。

「それから、私は成長し、宰相までのぼりつめたが、スアリトメ女王陛下の家臣の一人でしかない。叶わない恋だと思っていた。諦めようともーー」

 ルーネベリは笑った。

「だが、今はパートナーになっている。現在に至るまでに一体何が起きたんだ?」

 バイランは口元だけ微笑み、言った。

「人生は何が起こるかわからないものだな。ーースアリトメ女王陛下とメアはとても仲の良い双子で、スアリトメ女王が何かをなさると、メアも後から真似をしていた。よくある幼い兄弟、姉妹のいる子供たちと同じだ。片方が何かを得ていると羨ましく思ったり、同じものが欲しいと思ってしまう。メアはスアリトメ女王陛下の真似をする方だった」

「そういえば、菓子のメテル・テテローだったか?」

 バイランは頷いて言った。

「スアリトメ女王陛下が考案させたロテテ・ルテメを真似て作られた菓子だ。メアは姿見鏡越しに見たスアリトメ女王陛下の気に入りをよく欲しがり、カヴェザアフに似たものはないかと探させていた。スアリトメ女王陛下は妹のメアを溺愛していて、真似をされることも嬉しがるような優しい人だった」

「本当に仲の良い姉妹なんだな」

「あまりにも仲が良すぎた……」

「そうなのか?」とルーネベリ、バイランは過去を思い出したせいか少し辛そうに言った。

「ある日、スアリトメ女王陛下に献上品が届いた。その献上品は『トゥシーの実』といって、非常に珍しい植物の実だった。スアリトメ女王陛下はトゥシーの実を水の鉢に植えて大切に育てて、人の形となって唄う光の花として開花させた。トゥシーの花は傍にいる生物を僅かに癒す力もあって、スアリトメ女王陛下はトゥシーを可愛がり、フアザェヴカに多くの花壇を作ろうとしていた。そして、ある日、姿見鏡越しにトゥシーの花をメアに見せた。

 メアはいつものように、トゥシーを欲しがった。カヴェザアフにも似たものはないかと探させたが、元々『トゥシーの実』自体はフアザェヴカ由来の植物でなかったたため、メアはカヴェザアフでその実を見つけることはできなかった。しかし、メアは諦めず。他の世界から来た旅人に『トゥシーの実』と似た植物はないかと尋ね歩いた……」

 ルーネベリは言った。

「それで、あったんだな?」

 バイランは「あった」と答えた。

「トゥシーの実、それとよく似たものーー『シトゥー』だな?」

 ルーネベリはそう言うと、バイランはとても不機嫌そうに顔を顰めて顔を横に振った。

「トゥシーの実とは種も、性質も、何もかも別の植物だった。似ているのは名だけだ。後に私がメアから聞き、また、他の者から詳細を聞いて知った話だが、シトゥーの実は酒蔵にいた見知らぬ不埒者がメアに献上した種だった。シトゥーの実は、その植物は半ば人の形に成長しながら毒のフェロモンを放ち、生命の言語を学習し、恋人のように育てた者の心を奪い虜にする。そして、最後は虜にした者に絡みついて命を吸って大量の種を残す寄生植物だった。

 メアは不埒者の思惑に嵌り、シトゥーの実を鉢に植えて大切に育てた。シトゥーの実を育てていくうちに、メアは毒に侵されてどんどん変わり果てていった。姿も以前とは別人のように成り果て、心配したスアリトメ女王陛下が、女王に代わりフアザェヴカの者をメアのいるカヴェザアフへ渡し、メアを助けることが決まった。私は宰相の座を辞して、その一団に志願し加わった。女王陛下から私たちは、何かあった時のために封印鏡と短剣、スアリトメ女王陛下の髪を一房頂戴して旅立った」

「なるほど」とルーネベリは言った。しかし、バイランはあまり良い顔をしていなかった。

「あの旅はとても苦痛に満ちていた。カヴェザアフに辿り着いた私たちは、常闇の世界を知らなさすぎたことを悔いた。暖かい光の届かない胸が痛く凍てつくほどの冷たい空気、ほとんど音のしない寂しく怖いほどの静寂。喜びもなにもない世界。私と共にカヴェザアフに辿り着いた者たちは一日を経たずに命を落とした。皆、光の世界に生まれたため、常闇に対する耐性がなくショック死だった。フアザェヴカ出身ではなかった私だけが生き残った。私は一人残された。

 私が常闇の者たちに助けられ、どうにか暗闇を歩き、メアの元へ辿り着くと。あの暗く閉ざされた世界の一番暗い城の中で、メアはシトゥーに絡みつかれて毒牙にかかり、正気を失っていた。悪の女王のような姿になっていた。今のような笑顔はなく、いつも悪酔いしたように馬鹿げた振る舞いをしていた。

 私は怒りと嫉妬に駆られ、シトゥーをメアから短剣で無理やり引き剥がした。しかし、心を毒されてすでに虜にされていたメアは、シトゥーを鏡に隠して守ろうとした。私はシトゥーの入った鏡を粉々に割ったが、メアがシトゥーを逃したのはメトリアスの鏡ではなく、世界を行き来きできる鏡だった。正気を失っていたメアは暴れた。私はどうすることもできず、仕方なく封印鏡にメアを閉じ込めることにした。正気に戻ればと思ってのことだった。私はすべてが終わってからスアリトメ女王陛下にカヴェザアフで起こった出来事を話したが、女王陛下は怒っていらした。私はただ嫉妬心から逃げたシトゥーを追いかけることしか頭にはなく、女王の話をろくに聞かず、シトゥーを探し捕まえるためにメトリアスの鏡を持ってカヴェザアフを出るために鏡を越えた。ーー私はその時、よく女王陛下の話をよく聞くべきだったのかもしれないが、今の状況を思えばその時はそれでよかったのかもしれない」

「どういうことだ?」

「メアには封印鏡はあまり効かなかった。正気を失っていたメアはメア本人に呪いをかけて、封印鏡から出て来ようとしていた。事実、半分ほど出てきて、シトゥーを追う私を鏡を越えてゆっくりと追いかけてきた。私は鏡の中でシトゥーをメアより先に見つけてメトリアスの鏡の中に閉じ込めたが、メアの半身は執拗に追いかけてきた。シトゥーの入った鏡を抱えたままではメアからは逃げられないと悟った私は、鏡の世界から出口を探してライナトという世界に辿り着いた。……ちょうど私がライナトに着いた時、そこにいる神が男を押さえつけているところだった」

 バイランは名無しの神を見た。名無しの神は悪ぶれる様子もなくヘラヘラと笑った。バイランは言った。

「その神は男の身体から石のようなものを取り出して、地面に叩きつけていた。神が男を抱えて口論しながら別の場所へ移った隙に、私は石を拾いあげて私の力でシトゥーの入った鏡を石の中に封じた」

 ルーネベリは頷いた。「その辺りはなんとなく俺も似たなことを考えたんだが……なるほど。それから、どうなったんだ?」

 バイランは首を傾げた後に言った。

「私が力を使っているところを目の前に座っている神に見つかり、私はその力が欲しいと言われて悪名高いビュア・デアへ抵抗虚しく連れて行かれたが。目の前の神には私の力など必要のない力だった。私にはたいしたことができないとわかると、その神は私を放ったままどこかへ行ってしまった。それから、時々来てはあてもなく彷徨う私をからかい脅した。生憎、食事には困らなかったが、私は絶望していた。

 ほどなくしてメアの半身はビュア・デアまで追ってきた。私は愛する人に恨まれ愛されないことや、何もない世界に閉じ込められたことに悲嘆に暮れて自棄になってメアを封印鏡から出した。メアは一人に統合した。生涯の最後にメアへの愛を告げて私はメアに何をされても受け入れるつもりだったが、狂ったメアは私への報復よりもシトゥーを求めていた。話すら聞いてはもらえず、私はもう希望はないと諦めて絶望していた。そんなある日、メアは正気に戻った」









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