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灼熱の銀の球体  作者: 佐屋 有斐
第一部第五巻「天秤の剣」
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八十四章 覇者の道





 第八十四章 覇者の道



 バッナスホートは唸るように言った。

「ーー緋剣だと?架空上の剣だ。そんなものは誰も見たことがない」

「あぁ、今生きている人間は誰も見たことはねぇなぁ。でもよ、兄貴。架空上の剣じゃねぇんだよ。実際に実在した剣だぁ。天秤の剣の日、

十三のすべての世界で緋剣を手にしたネディ家の男を讃えて祭りが行われてきた。今ではもう第三世界でしか行われていない失われた祝いだ。緋剣は元々は第五世界に存在していたんだよなぁ」

「お前の話が偽りでなければ、俺は今まで偽物を握らされていたのか……」

「いやぁ、だから、兄貴。偽物じゃねぇよ、代わりに作られたってだけだ」

「どう違う?偽物だ」

「偽物じゃねぇよ、兄貴。名剣ヴァラオスの名前の由来は、かつての武道の覇者ヴァラオス・セサル・ネディだ。さっきもいったけどなぁ、誰にでも持てる剣だ。けど、真の所有者だけは剣に認められなければ持てねぇんだよ。俺は今日この日が来るまで同じ剣をずっと携帯してこなかった。俺の相棒はヴァラオスだけだと決めてたからだなぁ」

 バッナスホートは微かに嘲笑った。

「そんな話を俺にしたところで、ここは剛の世界ではない。俺たちの身体はここには存在していないのだろう。今、俺から奪ったところで、剛の世界では俺の手の内にある」

「あぁ、兄貴。今となっては負け惜しみにしか聞こえねぇな。俺はとっくに兄貴の実力の上をいっている。剛の世界に戻って取り戻すなんてこたぁわけねぇ。俺が必要としていたのは、ヴァラオスが俺を認めてくれるかどうかだった。ヴァラオスは兄貴じゃなく、俺を正当な所有者として認めたんだぁ。真の力を出すことを求めているんだよなぁ。十三世界に戻ったら、兄貴はこの剣はもう二度と持てなくなる」

 リカ・ネディは大きく笑いながら、手の中にある名剣ヴァラオスをじっくりと眺めた。それはもう愛しくてたまらないといわんばかりの表情だった。

 バッナスホートは言った。

「俺を引きずりおろして楽しいか?」

 リカ・ネディはもはやバッナスホートを見ず、名剣ヴァラオスに視線をとどめたまま言った。

「いんや。兄貴のことなんざ、俺は特別気にしてねぇんだよ。はじめからな」

「ーーふっ。俺のことなど眼中にないと言いたいのか?」

「眼中になかったわけじゃねぇけど、気にする相手ではなかっただけなぁ。俺は誰に対しても同じだぁ。しかし、兄貴、俺に感謝してくれよなぁ。オルシエのことを止めたんだぜ」

 バッナスホートは目の端でオルシエを意識して言った。

「あいつは俺より実力は下だ」

「そうだなぁ。実力はオルシエ自身、兄貴に勝てねぇとわかってたからなぁーーオルシエは別の手段を考えてたんだなぁ。例えば、兄貴もろとも跡形もなく消え去る手段とかな。捨て身覚悟で、兄貴に一矢報居ようとしていたんだぁ。けどよぉ、俺はもっと兄貴がうんざりさせる方法を知っているって教えてやったんだよ」

 にんまりと笑ったリカ・ネディにバッナスホートは微かにたじろいだ。

「兄貴、悪行を重ねた奴が上から引きずり降ろされたら。下にいた連中は、そいつに何をしようと考える?」

「……ネディ!」

 バッナスホートはいつもの冷静さを欠いて叫んだ。

 リカ・ネディは言った。

「上り詰めたり、その場所に居続けることは簡単なようで本当のところは並大抵のことじゃねぇが。落ちるのはほんの一瞬だ。落ちていった人間に対する感情っていうのは恨みを持つ者も、持たない者もなんら区別もつかなくなるんだよなぁ。人は根っからの残酷な生き物だなぁ。平気で笑いものにできるんだなぁy」

「お前は俺を脅しているのか?」

「脅してなんかねぇよ。本当のことを話しているんだなぁ。兄貴が名剣ヴァラオスを奪ったホルウィス・ネディが転落していった姿を俺は見ているんだぁ。ホルウィスさんは厳しい人ではあったけど、普段はまぁまぁ穏やかな人だったのに。ホルウィスさんが武道の覇者でなくなった途端、恨み、嫉妬、嘲り、不満、色んな嫌なごちゃごちゃした感情を皆ホルウィスさんにぶつけてた。ホルウィスさんにお世話になった連中もだなぁ。ほとんど皆一緒だった。俺はそんな醜い姿を見たから想像できるんだなぁ。

 兄貴はホルウィスさんよりもずっと酷い目に会う時が来た。オルシエが手を下さなくとも、兄貴は、兄貴の罪を受ける時が来たんだなぁ。兄貴には、本当の意味で反省してできる限り償って欲しいが。謝って許されることばかりじゃない。兄貴が奪ったものは、取り返しのつかないものばっかりだからなぁ……」

 バッナスホートは小さく笑った。

「俺の心配をしている場合か。頂上に上り詰めるお前も、いつか同じ目に遭う。永遠に頂点に立てる者などいない」

「あぁ、兄貴。きっと、そうだろうなぁ。でも、俺は俺でもう覇者になった後の道は見つけたんだよなぁ」

「お前だけが免れると思っているのか!』

 リカ・ネディは大袈裟に笑った。

「兄貴は面白れぇこと言うなぁ。俺は兄貴のように目先の利益しか見ていなかったわけじゃねぇんだ。兄貴のした悪行のすべては支離滅裂で本末転倒だって、わかっているのかぁ?」

「本末転倒だと?」

「だってそうだろぉよ。人から物を奪って、兄貴はその奪ったものを自分のものにできたと思い込んだけどなぁ。食ったそれに、兄貴は死ぬまで食われていく。兄貴が感じていないだけで、兄貴の周囲から少しずつ、兄貴が真っ当に生きていたら得られるはずだったものが消えていっているんだなぁ。俺は兄が怖くならないのが不思議でならねぇよ。

 人のものばっかり欲しがって、兄貴は結局何も持ってねぇじゃねぇか。何の為に欲しがったんだ?」

 リカ・ネディの言葉に流石のバッナスホートは狼狽えた。名剣ヴァラオスが本来の所有者の元へ戻った今、バッナスホートには「武道の覇者」という肩書きも失ったのも同じだった。バッナスホートは天秤の剣の試練というべき出来事に最後まで残り、第五世界の管理者の娘ユー・ヴィアと結ばれ。名実共に覇者となるつもりだった。しかし、それらの考えはすべて跡形もなく崩れ去ってしまった。

 リカ・ネディが現れなければーー。リカ・ネディと再会しなければ、こんなことにはならなかったはずだ。バッナスホートは弟分であったはずのリカ・ネディを心の中に罵った。

「お前さえいなければ……」

 突然、起きあがったバッナスホートがリカ・ネディの首に向かって手を伸ばしたが、リカ・ネディは手で振払い、バッナスホートの肩に足をかけて地面に押し倒した。そして、振り下ろした名剣ヴァラオスをバッナスホートの顔の真上でとめた。

 リカ・ネディは柄を握る手を力強くに握りしめて震えていた。

「ーー俺はヴァラオスを失って落ちぶれてしまったホルウィスさんを見つけた時、後悔した。俺にもっと力があれば、ホルウィスさんをあんな目に遭わせずに済んだってーー。

 俺はホルウィスさんを俺のお師匠様として雇い入れて、十年間細かいところまで指導してもらって実力を磨きあげてもらった。教えを受けている俺の姿を見て、落ちぶれた悪い評判しか知らなかった武道家たちはホルウィスさんが信頼の置ける人だと少しずつ知っていって子供たちの師匠として頼りはじめたんだぁ。そうやって、毎日毎日細やかな努力をしながら人の輪を繋げていったんだなぁ」

「そんなことか。それがどうした?」

「あぁ、そんなことが大事なことなんだよ。今の兄貴にはわからねぇかもしれねぇけど。人っていうものは強いようで弱いんだよぉ。外から見れば俺はホルウィスさんの恩人に見えるかもしれねぇけど。実際のところ、俺はホルウィスさんに後継者として見出してもらった恩がある。俺がいくら剣の天才でも、機会を与えてもらえなかったら、俺は自分の才に自惚れただけのくだらない人間になっていた。兄貴と同じようにな」

「お前……」

「俺は、それらの経験から思ったんだよなぁ。『人に生かしてもらって、俺は初めて生きて。俺自身もまた誰かを生かして生きている』ってなぁ。武道の覇者は大勢の上に立つ。大勢の上に立つなら、それら多くの奴らを生かす道を知らなきゃならねぇんだ。兄貴にはそんな器はなかったんだよなぁ。

 人から奪うことしか知らねぇというのは不幸なんだよ。奪うのは簡単だ。生かすほうが難しいし、苦労しながらも生かせる奴こそ本当に欲しものが得られる。兄貴は簡単な道に逃げることしかしらねぇ。何をしても奪って逃げてばっかりじゃねぇか。そんなに逃げてばっかりでどこに行きてぇんだよ。逃げてばっかりの奴の顛末を考えたこともねぇのかよ。まったく本末転倒だろう。周りに迷惑かけながら自分で自分の首を絞めるな。他人に尻拭いをさせるなよ。そんなものは情けなく駄々を捏ねてるだけだろぉが」

 リカ・ネディはすっとヴァラオスを下げて、バッナスホートから離れた。

 オルシエがそっとリカ・ネディに近づいて肩に手を置いた。そして、一言言った。

「胸のすくような思いだ、ありがとう。これまで誰もバッナスホートを引きずり下ろせるような武道家はいなかった。このことを知って喜ぶ者は大勢いる。俺たちが誇るべき覇者がようやく戻ってきたーー喜ばしいことだ」

「気にするなぁ。俺がするべきことをしたまでだなぁ。ところでなぁ、見てくれ」

 リカ・ネディは名剣ヴァラオスをオルシエに見せた。オルシエは感嘆の声をあげた。

「立派な剣だ。立派な心根を持つリカに相応しい」

 リカ・ネディは笑った。

「急に不自然に褒めるなよなぁ。笑っちまうだろ。俺を持ち上げても、何にもならねぇよ」

「あぁ……本心だが、不自然だったな。こんな時、なんて言えばいいのかわからん。俺は口下手だ」

「気を遣うなよぉ。俺はこれまで通りのリカ・ネディだぁ。覇者になっても俺はかわらねぇ。俺は俺のままだぁ。だから、オルシエもこれまで通りでいてくれよなぁ。覇者なんてものはどうせ肩書きだ。肩書きに偉いもなにもありゃしないんだよなぁ。本来はなぁ」

「ーー肩書きに溺れるつもりはないんだな」

「溺れるほど、俺は簡単な道のりは歩んでねぇよ。それに、上には上がいるし、自惚れている場合じゃあねぇんだ」

 オルシエは微かに嬉しそうな顔をした。リカ・ネディは名剣ヴァラオスを見つめ、そして、言った。

「しかしなぁ、念願成就。願いが叶う瞬間てものは、こうもあっさりとしているのか。この剣一本手に入れるまで、二十年以上もかかったぁーー。いつかこの剣に認められた日が来たら、ずっとしたかったことがある。失敗しても笑うなよぉ」

「笑うものか」とオルシエ、リカ・ネディは口元を綻ばして名剣ヴァラオスを横に向けてちょうど刃とリカ・ネディの身体が平行になるように左手で持つと、刃の少し上に右手を柄の方から剣先の方へサッと移動させた後、再び柄の方へ戻した後に言った。

「『我が半身、我が剣よ。我が血と共に古き記憶を甦らさん。その緋の片鱗を目覚めさせ、我と共に頂きへと参ろう』」 

 リカ・ネディは親指を刃に這わせて、指が切れているというのに、そのまま刃先の方へとずらした。赤いリカ・ネディの血液がヴァラオスの刃先に薄く色付いたと思った途端、ぼっとリカ・ネディの血が燃えて、ヴァラオスの刃全身が炎に包まれた。

 燃える剣を見たオルシエは口をぽっかりと開けた。

 地面に寝転んでいたバッナスホートは半身あがり言った。

「緋剣か……」

 リカ・ネディは燃えるヴァラオスを握りしめたままバッナスホートに言った。

「この剣はヴァラオスだ。緋剣の欠片を入れて新たに鍛えられた剣だなぁ。ヴァラオスは覇者と認めた者の血を媒体として緋剣と似た姿になるらしいなぁ。……子供の頃、ホルウィスさんに見せてもらった時と同じ姿だなぁ。安心した。俺は間違いなくちゃんとした覇者だ。いやぁ、覇者にもう間もなくなるってことだなぁ」

「ーーはは」とバッナスホートは笑った。

「どうした?兄貴。美しすぎて言葉もでねぇか」とリカ・ネディ。バッナスホートは言った。

「もう笑うしかないな。偽物は俺だったということが今わかっただけだ。リカ、お前の言う通り、俺は今まで何を逃げていたんだろうか……。もし、俺がお前のように努力とやらをして、もし奪わずに実力で得に行っていたらーー」

「兄貴、過ぎ去った時は戻らねぇんだ。もっと早くに後悔するべきだったな」

「ーーそうだな。俺は長く自惚れた悪夢を見ていたようだ。お前からその姿を変えた剣を奪ってやろうかと思ったが、俺は今のお前に勝てると自負できるほど馬鹿ではなかったようだな」

「兄貴」

 バッナスホートは小さな溜息をついた。

「ところで、お前はいいのか?ここに俺といれば、天秤の剣に最後まで残れないのではないか。今のお前ならアラ・グレインを負かして最後まで残りユー・ヴィアと婚姻を交わすこともできるだろう」

 リカ・ネディはにんまりと笑った。

「兄貴。黙ってたんだがなぁ、俺はもう妻帯者なんだよなぁ。最初からユー・ヴィアとの婚姻なんて考えてなかったんだなぁ。俺の目当てはヴィラオスだけだった」

 リカ・ネディの肩から手を離したオルシエも驚いて「妻がいたのか?」と言った。

 リカ・ネディは頷いた。

「ホルウィスさんの娘のミルディが俺の妻だなぁ。ミルディは舞台俳優で剛の世界に長年住んでいないからなぁ、俺かホルウィスさんが話さなければ誰も知らねぇだろうな」

 バッナスホートはなんだか身体の力が抜けて、地面にごろんと横たわった。

「お前には化かされてばかりだな。こんな間抜けそうな奴が、俺よりも一歩も二歩も先に進んでいたとは……」

「馬鹿だからって甘くみるからだなぁ」

 バッナスホートは目を腕で覆い隠して、言った。

「俺は馬鹿に負けた大馬鹿者だな」

 あまりにも悔しかったのだろうか、バッナスホートはそれからまったく言葉を発するどころか身動きすらしなかった。もしかすれば、それはバッナスホートなりの最後の抵抗だったのかもしれない。

 ヴァラオスを手に入れたリカ・ネディは、燃える剣の火を片手で消し去った後、オルシエと共にその場を離れた。二人は目的と遂げたのだ。長い旅が終結を迎えるまで、リカ・ネディとオルシエは互いが第五世界に戻った後のこれからについて語り合った。オルシエは傲慢な武道家たちの被害に遭った者たちを守り救済するための法を作りたいと熱く語り。リカ・ネディはもっと開かれた武道の発展と、武道家の引退後の職斡旋支援などより現実的な剛の世界の社会に貢献していきたいという考えを語った。

 すべて叶わなくとも、互いに助け合えば、変化を起すことができると考える者たちが次々と出てくるのではないかという観念からも、ビュア・デアの神殿を巡りながら二人はさらに想いを語り合った。その姿はまるで幼い子供のように純粋で、無我夢中だった。

 リカ・ネディとオルシエという二人の武道家を軸にいずれ剛の世界では人々が大きな革命を起こしていくのだが、それはまたどこかの話でーー。

 そうして三人の旅路は静かに終わっていった。




 一方、遠く離れた神殿の中腹でアラが腕を擦っていた。

「ルーネベリ、神デハルは何を思い違いしたんだ?」

 ルーネベリは言った。

「あぁ、アラ。簡単な話だったんだ。デハルはビュア・デアを出るために身体を捨てたと思い込んだ。だが、実際は他人の身体を奪ってビュア・デアの外へ出たんだ」

「奪った?」

 ルーネベリは頷いた。

「そうだ。俺たちが今まで歩んできた道のりは無意味だったわけじゃないんだ。何かと何かが関連づいているが、それは常に一直線上につながっているわけでもなかった。でも、俺は気づいたんだ。神フェザティアの前の名前、スタルセラティティタンは、スタルという剣の所有者だという意味だったはずだ。そして、神アブロゼもハープのようなものを持って戦っていた。つまり、フェザティアのようなーー位のことなどまではわからないが、多くの神にはそういった相棒となる剣などの武器というか、道具があるんじゃないか」

 アラは背中の大剣を意識した。

「確かにな。武道家にとって武器は必須というべきものだが。神々にも神々に由来した宝器があるのかもしれない」

「そうなんだ。そこで、俺は考えたんだ。名無しの神の行動や、言動をーー」

 アラはただ頷いた。ルーネベリは言った。

「俺にしか聞こえなかった声だったのかもしれないが。名無しの神とデハルらしき人物の声が話しているのを聞いたんだ。そこで、デハルらしき人物が言ったんだ。真実の剣は名無しの神の『手の内に一度もあったことがなかった』と。そして、異様な名無しの神のデハルや真実の剣に対する執着に似たような行動や言動。俺たちから真実の剣を奪い取るよう大勢の人々に命令しながらも、しかし、実際には奪うことができないと知っていた。なぜそんな訳のわからないことをしているのか、俺たちを弄んでいるようにしか見えないだろう。俺はまったく理解できなかったんだが。名無しの神が名無しであることでようやくわかったんだ」

「何がわかった?」

「名無しの神はデハルの姿を奪ったんじゃないんだ。剣を奪おうとしたわけじゃなかったんだ。奪われ身体を無意識に取り返そうとしていたんだ」

「ルーネベリ、どういう意味だ?奪われた身体というのはーー」

「真実の剣はデハルが成ったものじゃない。最初から名無しの神の方だ。どういう経緯でそうなったのかはわからないが……。

 話は戻るが、神フェザティアは言っていた。スタルという剣の意識を殺したと。だが、剣自体は消えていないどころか、大きな被害をもたらしたと。その話を要約すると、スタルという剣は、実体のある剣と実体のない意識の二つが存在しているということだ。俺たちの奇力体と肉体というように、二つで一つとして存在しているとしたら。それは、真実の剣自体もそうなのではないかと俺は考えたんだ。

 片割れである身体を失った名無しの神は、当然、姿がないからこそ、身近だった者の姿を写したが。周囲にはデハルの姿を奪ったように見えた。しかし、実際のところは俺たち気力体と同じように実体はないということになる。デハルが真実の剣という身体をビュア・デアの外へ持ち去ったからこそ、外に身体がある以上、名無しの神はビュア・デアを自由に出入りすることもできた。そう考えると、すべてが腑に落ちていく」

 アラは言った。

「ルーネベリ、お前の話が確かなら名無しの神が『真実の剣』なのか?持てない剣がか?」

「いや、それがもう間違っているんだ。今の真実の剣は本来の姿じゃないんだ。おそらく、そのことを真実の女神は知っていたはずだ。デハルが犠牲にしたのは姿じゃなったんだ。大方、記憶やその類のものの可能性が高い。そして、俺が選ばれた理由はーー俺の武器が思考だからだ。俺は複雑に絡み合った糸を解くべくして選ばれたんだ」










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