八十二章 真実の顔
第八十二章 真実の顔
少し遠くからルーネベリの叫び声が聞こえた気がしたが、リカ・ネディは聞こえない振りをして目の前にいる男を見つめていた。
オルシエが大剣を振りながら、何度も何度もバッナスホートめがけて振り下ろしたが、バッナスホートは軽々とオルシエの剣をいなしていた。
「ーーリカ」とバッナスホートが低い声で呟いた。リカ・ネディの顔は一切見ていなかったが、すぐ側にいると感じ取っていたようだ。
リカ・ネディはヘラヘラと笑った。
「兄貴、最後まで残れずに残念だったな」
「お前が企んだことか。再会したときから怪しいと思っていた。よほど置いて行かれたことを恨んでいたのか」
「面白くない冗談だなぁ、兄貴。怪しいと思っていたのに、俺に何も言わなかったんだなぁ。俺のことはちっとも脅威とも思ってなかったのかぁ?」
「お前が俺の脅威になどなりえない。お前が俺に勝てると夢見ているのか」
オルシエが力強く大剣をぶつかり合わせたが、バッナスホートは嘲笑うように弾き返した。どんなに強く斬り込んでも、バッナスホートは弱者を相手にしか思えないという風に軽くかわしている。バッナスホートはそうやって剛の世界の覇者だと伊達に名乗っているだけではないということを見せつけてきた。オルシエは呻くように悪態をついた。
リカ・ネディは静かに笑った。
「ーー兄貴、俺は兄貴の代わりをしてきたんだけどな。兄貴がだらけている間、俺は武道会や決闘やら、兄貴の代わりにがむしゃらになって戦ってきた。実力は昔のままじゃねぇんだよーーユーヴィアは諦めな」
リカ・ネディが手を掲げると、まるで主人の元に戻るかの如くどこからから飛んできたあの生きた円形の剣がすっぽりと収まった。
「珍妙な剣を持ったところで、俺には勝てない」
「兄貴。兄貴の濁った目には、本当のことなんて見えちゃいないだけだろ。この剣を見つけられて、俺は強運だった。俺はずっと自分の剣を持っちゃいなかった。兄貴、なんでだと思う?」
バッナスホートは顔を顰めて目線だけリカ・ネディの方を向けた。
リカ・ネディたちのいる数十メートル先で、大勢の者たちの手がルーネベリを捕えようとーーいや、ルーネベリの抱えている真実の剣に向けて伸ばされていた。大勢の者たちの目は強欲さに溺れて光も移さないほど暗く虚だった。
アラはルーネベリに近づいてくる者たちに「近づくな!来るなら斬る」と大剣を振るって強引に押し退けて後退させたが、大勢の者たちにはその脅しは何らかの効果もなく寄せ集まってきていた。
ルーネベリを守るため意を決してアラは思いっきり大剣を振っても、大勢の者たちは怯みもしなかった。不意に振るったアラの剣に斬られて怪我を負った者たちを見て、アラはそんなつもりではなかったと傷ついた顔をしたが、斬られた者たちの傷はすぐに癒された。その様子を見てアラもルーネベリも気づいた。大勢の者たちはルーネベリたちと同じ奇力体なのだ。奇力体であれば、身体は元の姿に戻るのだ。すぐに傷が癒やされるならばと、アラはルーネベリを庇うように背後に置き、遠慮なく大剣を振るいはじめた。
アラは重いだろう大剣を振るい、四方八方から伸ばされる手を容赦なく斬りつけた。大勢の者たちの中には苦痛に叫ぶ者たちがいたが、数十秒もすれば身体は元通りになってく。しかし、叫んで痛みにもがく者たちの後ろから次から次へと新たに真実の剣を手に入れようと進行してきた一群がさらに近づいてくるのだ。先にいる者を踏みつけてまでルーネベリの下へ進むようとする無茶な者たちも出てくる始末だ。
アラは「ここまでか」と心の中で呟き。ルーネベリもまた「やっぱり駄目か」と思った。そして、同時に何の意思もなく言われるがままルーネベリとアラを襲ってくる者たちにルーネベリは既に恐怖心は薄れ、呆れたような疲れたような諦めの気持ちに変わっていた。
せっかくリカ・ネディが道を作ってくれたというのに数十メートルしか移動できなかったのだ。逃げたところで運命は変わらないようだ。むしろ、逃げずに旅の終わりを素直に受け入れた方が幾分かましだったのではないだろうか。少なくとも、無駄な期待などせずに済んだのではないだろうか……。
遂に誰かの手がルーネベリの赤い髪を掴み、誰かの手がルーネベリの足を掴み、胴回りをがっしりと掴まれた。大剣で斬りつけてくる
アラの方は主に大剣を掴む者たちが多かったが、すぐにアラの全身を多くの手に掴まれてうつ伏せに床に叩きつけれられた。それはルーネベリも同じだった。真実の剣を抱えている両腕を取り押さえられて、カランと真実の剣が床に落ちた。
プラチナの剣が輝きながら床に落ち、そのすぐ側に全身を押さえつけられた。大勢の者たちはプラチナに光る剣に手が伸ばされた。
《あぁ、結局は奪われるのか》と寂しく切ない気持ちを心の中でルーネベリが呟いた時、その言葉をどこかから名無しの神は聞いていたのだろう。
《それを拾え!その剣を持ってこい》と聞こえてきた。
あの傲慢さはどこからくるのだろうかとふとルーネベリは思った。神フェザティアや女神アブロゼから名無しの神は攻撃を受けてルーネベリの方へは容易に近づけないのだろう。名無しの神が近づけないからこそ、まるで駒のように大勢の者たちに上から命令を下している。
あの名無しの神は、大勢の者たちのことなど考えているのだろうか。真実の剣は神を殺すことも、今のルーネベリたちの状態である奇力体ですら斬ることができるのだ。ある意味では真実の剣は死ととても近いといえだろう。その死に限りなく近いものへ近づけと言っているのだ。
大勢の者たちはルーネベリが持っていた真実の剣の意味をほんの少しも理解していないのだ。名無しの神が真実の剣を手に入れて、大勢の者たちを消し去ることだってできるかもしれない。それ以外にも恐ろしい使い方もできるかもしれない。大勢の者たちは使い道など考えてさえいないのだ。目先には利益のために奪うという行為しか知らせておらず、指示に従うことがすべてだと思っている。
端からあの名無しの神が個である者たちのことなどまったく考えていないのだ。大勢の者たちはただ目先の利益に目が眩み、本来考えるべき未来を放棄させられているのだ。「全」として動くことを求められ、「個」自身を全と一纏めにされて殺されているのだ。そして、大勢の者たちは奪い、名無しの神に剣を渡せばそれだけで望みが叶うと思っている。しかし、実際はそんな単純な話ではないのだ。
物事は一つを起点としてはじまるわけではない。いくつもの出来事が同時に、あるいは微々たる差をつけて起こったり止まったり発展したりと複雑に絡み合い起こっている。始まりと終わりが同じ一直線上にあるとは限らない。神が一言「褒美は無効だ」といえば、この不平等な関係はあっさりと崩れ去ってしまう。それが神と、身体という儚い有限性を持つ生物たちの変えようがない事実だからだ。いや、神だけではないだろう。立場に大きな違いが作られている場合、バランスなどはじめから取れないのだ。不利な者たちの犠牲がバランスを取っているからだ。支配する者と支配される者、それらと似通った関係性が作られたとき、それぞれは、各々「全」として区切られ「個」として独立して存在しているだけだ。だからこそ、目先ばかりに気を取られて、先にある物事を微かにもわからない事がどれほど不利であるのかを大勢の者たちは知らず、知らされていない間に犠牲という悲劇に遭遇するということを繰り返されてしまうのだ。
ルーネベリは正確な平等さや特別正義を好むというわけではないが、大勢の者たちが過去から繰り返されてきた悲劇をまた繰り返すのは、おかしいのではないかと思う性質なのだ。すべての者が同じ方向を向かなければならないという思想は団結するためであり、協力し合うことが必要とする場合には良く作用するかもしれないが、しかし、何のために団結が必要なのかということがもっとも重要となってくる。「全」のためだと主張したところで、実際に求められるのは全だけではなく、全の中に存在する「個」でもあるべきではないのだろうか。そして、その「個」に特別に特権を許された範囲が存在しているならば、それがどれほど格差を生んでいるのかを知り危惧すべきなのではないだろうか。誰かの犠牲が特権を生んでいるのではないかと考えるべきではないのだろうか。
本来、個を重視すれば犠牲を強いることなどしない。事情を理解したうえで犠牲を払うかどうかを決めるのは本人だからだ。だからこそ、大勢の者が当たり前だということですら常に当たり前ではなかったりするのだ。
当たり前ということは、選択肢がある程度狭められ勝手に決められているということだ。つまり、個が選べるだろう無限にある選択肢を勝手に減らされて押し付けられている。事実を都合よく利用されてその信憑性を正しいものだとして告げられれば、あたかもそれが真実だと思ってしまう。言われたことを疑問にさえ思わず、思わせないようにされていても黙って従わなければならないと「思い込んでいる」のだ。自分自身が何をしても変わらないと思い込んでしまう。けれど、そういった事柄もまた思い込まされているのだ。
そもそも何も思い込まないということもまた難しく。すべての物事に対してとも言い切れないかもしれないが、少なくとも誰か一部の者たちのみにとっての利益を、個人の利益だと思い込まされることほど恐ろしいものはない。一周まわると、すべてを失うのは特権を持たない個だけだからだ。「全」に向かって進む方向を指差した特権を持つ個は言い逃れをし、狡賢く生きる残りどこまでも逃げ通すからだ。
ルーネベリはそのような者に対して強い嫌悪感を抱いていた。その人物こそが最も権力を持ち方向を指し示す者になるべきではないからだ。指差した責任を最後まで取ることさえしないのだ。彼らは自分たちが一体どこへ向かっているのかさえわからずに目先を優先して指差して全を誘導している。進んだ先がどんな暗闇かも知らずに……。
「全」に対して考えることのできる未来や機会をそうやって奪っていくのだ。そんな少数の無責任な者が全に対して指差すべきではない。そんな者に全の方向性を委ねるべきではないのだ。特権を持つということは、その特権のために個としての利益を犠牲にできる者でなければ、特権を得るという不合理さと釣り合いなどつれないのだ。他者ではなく自ら犠牲を払うことのできる覚悟ができる者こそ、その思想にはじめて中身のある意味が通わせられる。表面的な格好の良さではない、泥臭く野暮ったい。そして、生々しいが、それでも他にはない個だけが独自に考える深みのある思想を抱く理想家であり、行動家こそがはじめて全に方向を指さすことができるのではないだろうか。そういった者こそ、地位ではなく、個として誠に敬われるべき者ではないのだろうか。
「どうしてなんだ、ーーなぜなんだ!」
ルーネベリの声が大きく辺りに響きわたった。しかし、大勢の者たちの手は相変わらずルーネベリとアラの身体を床に押さえつけ、剣へと伸ばされていた。
ルーネベリは叫びつづけた。
「お前たちはその剣が欲しいのか!欲しがっているのはお前たちじゃないだろう。名も無い神の言葉になぜ従うんだ!」
赤い髪が後ろへ引っ張られた。
「ーーおまえ、うるさい」と、ルーネベリの身体を抑え込む者の一人が言った。そして、また何者かが言った。
「剣を奪えば欲しいもの得られる」
ルーネベリは見えていない背後にいる者たちに向かって言った。
「得られるだって?お前たちはわかっているのか。剣を名無しの神に差し出したところで、お前たちが欲しがっているものなど神には与えられない」
「褒美をくれると言った!」
「褒美なんてものは嘘だ。神だからと言って何でもできるわけじゃない。たとえ何かを与えられるとしても、神が得た莫大な利益よりも、お前たちが得られるものはほんの僅かなものでしかない。微々たるものだ。微々たる僅かなものを得るために、すべてを捨てるのか?」
「何もないより良い……」と、背中にルーネベリの乗ってきた者に体重をかけられてルーネベリは床にさらに押さえ付けられたが、ルーネベリはもはや恐怖や怒りさえも飛び越えて、ルーネベリ自身の言葉を伝え叫びたくてたまらなくなった。
「何もない?ふざけるな。俺たちには限りはあるが、少なくとも命があるだろう!その命は誰もが持てるわけじゃない。命は他のどのようなものよりも俺たちにとって貴重だ。どんな宝よりもだ。剣よりも、欲しいものよりもずっと貴重だ。どんな姿だろうと、他人が認めなくとも、生きているものはすべて尊い存在だ。生きていることが既にもう特別なことなんだ。
だから、誰かの望む通りに生きなくてもいい。本人が心からどのような姿になりたいのか、どのように生きて進むのかを望むのかどうかが重要なんだ。命は誰にも侵害されるべきじゃない。他人の無責任な言葉に傷ついて自ら諦めて捨てるのも惜しいことだ。ただ生きていることだけで価値があるからだ。その場限りの無責任な者の言葉に耳を貸して騙されるな。醜い言葉しか知らない者に騙されるな。
命令されたり、人に何を言われ傷つけられても反骨精神を持つべきだ。それは決して攻撃すべきだということじゃない。自分自身の行動は、自分自身で考え決めると意思表明をすべきなんだ。本来、自分自身の選択に対する決定は自分しかできないんだ。他人が決めるわけじゃない。自らの道を決めるのも、貶めるのも、向上してゆくことを決めるのも自分自身だ。酷く狭い世界で物事を見るな!」
ルーネベリの叫び声に、真実の剣に伸ばしていた大勢の手が止まった。
「ルーネベリ!」と床に押さえつけられたままアラが名を呼んだが、ルーネベリは言いつづけた。
「神じゃなくとも、俺たちは他者の本当に欲しいものを与えられるわけじゃない。どれほど親密になろうと、与えることができることにも限りがある。だからこそ、少しでも理解しようと努力して生きている。綺麗事を言う偽善者だろうが、何だろうがなんでもかまわない。ただそれらは励まそうと、努力しようとしているだけだ。努力しようとしているからこそ、ぶつかり喧嘩にもなる。わかって欲しいと思うから傷つけてしまう。
そもそも、欲しいものは自分で手に入れなければならない人生における課題だ。ーーそれに、何かを得られる得られなかっただけの結果だけがすべてじゃない。得ようとした過程こそが貴重な体験だ。貴重な体験は経験として積み重なって、様々な場面で役に立つこともあれば、失敗さえもするが。その失敗さえも次へと繋がる必要な経験だ。経験は俺たちの限りある命という時間を満たしてくれるんだ。
俺たちの時間に、神や他人が干渉できることはほんの一部にすぎない。得られるという結果ばかり追い求めて、その貴重な体験の尊さや、自分自身の尊さを見失っているのがわからないのか。簡単に奪うなど言うな。もっと言われた言葉を疑え!思い込みから解放しなければ、同じことしか起きない。思い込みから解放されてもっと自由な自分自身の心の声を聞くんだ。苦しいからと逃げてばかりいては、永遠に苦しいままだ。苦しいのは自分自身で己の首に手をかけてしまっているからだ。手を離すんだ。一体、何に執着しているんだ?」
顔を高揚させて興奮し切ったルーネベリは、大勢の者たちに向かって叫んだはずだが。まるで自分自身に言い聞かせているような気分だった。立場も状況もまるで違うが、真実の剣を狙う大勢の者たちと今のルーネベリには似通ったことがある。それは自信の無さだ。
自信が無いからこそ、慎重にもなり臆病にもなるのだが。同時に、他者の気持ちも痛いほどわかるのだ。
何者かが膝を折り、ルーネベリの近くで床に崩れ座った。
その者は緑の綿毛のような髪をした黒い肌の女性のような姿をした者だった。纏う衣服は布切れ一枚で、悲しそうに泣いていた。
「……あの時も、あの時も、失敗する機会も与えてもらえなかった。あぁ、ずっと『与えてもらえる』と思っていたのね。わたしは生きたかったのに、憎いから醜いから生きるなと言われたから。生きていることが許されないんだと思っていたわ。喉が渇いたように苦しかった。どうして、わたしはわたしと共に与え合える人を探しに行かなかったのかしら。わたしと気の合う人を探せなかったのかしら……」
ぼろぼろと別の者が両手を顔に埋めて泣き出した。床に押し付けられたルーネベリの足元にいた者のようだ。声がその辺りから聞こえた。
「叱られるからーー。他の人と同じになれないことが嫌だった。誰よりも強くなって偉くなれば、誰もが認めてくれると思っていた。だから、他の人が持っているものを奪って、力を集めて強くなれば誰も見下してこないと思っていたけど……本当は偉くなりたかったわけじゃなかった。どこで間違えたんだろう……思い出せない」
またどこからか別の者が次々に言った。
「言われた通りに動けば、喜んでもらえて嬉しかった。嬉しかった。微笑んでくれるあの人が好きだった。あの人の愛が欲しかった。愛されていないと認めるのが怖かったーー」
「自分自身に価値なんてあったの。知らなかった。知っていたって、どうしたらいいのかわからなかった。もっと色々なことを知りたかった。学びたかった。もっと色んなことを知っていたら、何か違ったのかな……」
皆、口々に過去の話だろうか。訳のわからない独り言をぶつぶつと話しながらどこか困惑している様子だった。彼らは皆、ルーネベリやアラから手を離して、彼ら自身の頭や胸や肩など手を当てて、遠い昔を憂いているようだった。
解放されたアラが即時に立ちあがってルーネベリの元へ駆け寄ろうとしたが、既にゆっくりとルーネベリは立ちあがっているところで、床で鈍く光り輝くプラチナの剣を拾いあげているところだった。
「ルーネベリ……?」
アラがどこかを呆然と眺めているルーネベリに声をかけたが、ルーネベリは剣が光っていることには気づかず自身の考えに思い耽っていた。なぜかルーネベリは叫んだ後から妙に心に引っかかっていたのだ。
考えてみれば、真実の剣は名無しの神は触れられないのではなかったのではないのだろうか。真実の剣ーーその正体であろう神デハルの声もそう言っていた気がした。名無しの神だけではなく、この場にいる大勢の者たちもまた真実の剣に触れられる者ばかりではないはずだ。それなのに、なぜルーネベリもアラも闇雲に恐れてしまったのだろうか。
思い込むなと叫んだルーネベリこそが勝手に思い込んでいたのだ。状況的に大勢の者たちに囲われて襲ってくる様子を見て尻込みしていた。ところが、事実はどうだろうか。アラやルーネベリを床に押さえつけても、大勢の者たちが剣を手に入れたとしても、名無しの神は
持てないのだ。ただ飾っておきたいがためにこんなことをしたというのだろうか。
「ーー真実とは一体何だ?」とルーネベリは口にして、はっとした。結果ばかり考えていたのは誰よりもルーネベリだったのではないかと気づいたのだ。
「ルーネベリ、大丈夫か?」とふとアラの声が聞こえ、ルーネベリは驚いた様子でアラの顔を見た。
「……あぁ、大丈夫だ」
「そうか、それなら良いが。ーー皆、どうなっている?ぶつぶつと独り言を皆呟いている」
ルーネベリは大勢の者たちが誰に話しかけるわけでもなく呟いている様子を見ながら、頷いた。
「あぁ、そうだな。皆、思うところがあるんだろうな。俺も同じだった」
「ルーネベリも同じだった?」とアラが不思議そうに首を傾げた。
「あぁ。俺もこれまでの出来事を思い返す必要があるようだ。目の前にある状況がそのまま事実だと思い込んでいたんだが……。少しおかしいと気づいたんだ」
「難しいことはわからないが。ルーネベリ、私に何かできることはあるか?」
「いや、多分、もう答えはほとんど出ているんだ」
ルーネベリは手元にある光っている真実の剣を見下ろして、確信した。
ルーネベリは言った。
「一つだけ確認しておきたいことがある」