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灼熱の銀の球体  作者: 佐屋 有斐
第一部第五巻「天秤の剣」
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八十一章 とっておき



 第八十一章 とっておき





 迫り来る地響きを聞きながらルーネベリは頭を抱えた。今度は、次はどこへ逃げればいいというのだろうか。四方八方から迫り来る地を埋め尽くすほどの無数の者たちと、それに対して武道家が四人と学者が一人。特に学者であるルーネベリがまずい。真実の剣を持っているが、相変わらず持っているだけなのだ。レソフィアで既に死者であったマトランを斬ることができたが、奇力体のマトランを身体に戻す為で、そもそも斬ったと言えるのかも疑問だ。マトランが無抵抗な上に故人だったからだ。振るうことができても、自衛や応戦のためには何の役にも立たない。

 シュミレットがいれば、術式を用いて逃げることができたかも知れないが、賢者はもうここにはいない。たった四人の武道家が頼りだがーー、いくら腕が立とうとも、これほどの数の者たち相手に仕切れないだろう。明らかに数には勝てない。

「ルーネベリ、落ち着け」

 アラがルーネベリの背に手を置いた。ルーネベリはアラを見て言った。声を掛けられるまで気づかなかったが、ルーネベリは恐怖で震えていた。これまで様々な経験をしてきたが、生まれてこの方、このような戦場というべき恐ろしい状況に陥ったことがないのだ。精神的にも肉体的にも追い詰めてくる地響きが不快で、緊張で身体が冷たくなるのを感じた。生きている心地がしなかった。

 アラも冷や汗が出ていたが、一切感情を顔には出さず、大剣の柄を握りしめて深く息を吐いていた。気を鎮めようとしているのだ。

「こんな数を見るのは初めてだなぁ。面白れぇ」と呑気にリカ・ネディが言った。

 本心かどうかはわからなかったが、危機的状況にもかからず、リカ・ネディもオルシエもバッナスホートも身体を伸ばしたり動かしたりと軽く準備運動をしていた。

 地を埋め尽くした者たちが神殿まで到達した。第一群が神殿を駆け上りはじめた。その様を見下ろして「あぁ、もう逃げられないのか」とルーネベリは思わず呟いた。

 アラは言った。

「できる限りお前を守る」

 守り切れるはずがないとルーネベリも、そう言ったアラ自身もわかってはいたが、もう避けようがないのだ。襲い来る者たちに向き合わなければならない。どんな結果になろうとも、ルーネベリはアラたちに感謝しようと心に決めた。心にそう決めると、ルーネベリは少し気が楽になった。

 真正面に見える第一群の顔が小さく見えるほど距離が近づいていた。ルーネベリがアラの方に身体を向けて微笑みながら言った。

「ここまででも上出来じゃないか。できることはすべてやった。むしろ、これでよかったんだ。色々な世界も見ることも旅をすることもできた」

「ルーネベリ」

「俺は諦めたんじゃない。受け入れたんだ。向こうへ戻ったら、パシャルたちも誘って酒を飲みに行こう。第三世界に俺の馴染みの店が幾つかあるんだ。美味い酒も何本かある。俺に奢らせてくれ」

 アラは少し驚いた顔をしたが、微笑み返した。 

「……あぁ、もちろんだ。こんなところまで来られた。剛の世界を出るぐらいどうということでもない。ルーネベリ、飲み屋だけじゃなく観光も付き合ってくれ。色々と見てみたい」

「第三世界観光か。任せてくれ。第三世界の良い店も観光地も沢山知っているからーー」

 ルーネベリにとっても、アラにとっても一時的な別れの言葉だった。天秤の剣を巡る旅はここで終わるのだ。長い旅立だった。色々な世界を巡った。様々な人々と出会った。見たことも聞いたこともない物事に触れて楽しかった。こんな終わり方は残念だが、これ以上は術が思いつかないのだ。受け入れて十三世界に戻ろう。ルーネベリもアラも頷き合っていた。アラは多少の最後のもがきをしようと大剣を構えたが、心の中では旅の終わりを理解していたのだ。束の間、地響きが聞こえなくなり、静寂が心を占めた。

 第一群が数百メートル先に姿を現した。神殿の頂上まで登りきろうとしていた。彼らの後ろにはまだまだ無数の者たちがいる。ルーネベリは真実の剣を両手に置いて、まるで捧げるかのように掲げた。無名とはいえ、これほどの数の者たちを従える神には勝てないのだ。恐怖心は消えなかったが、恨む気にもなれなかった。

 ふと、リカ・ネディが近づいて言った。

「ーールーネベリ、男姉ちゃん。こんな時に悪りぃが。俺たちは抜ける」

「えっ?」

 今更何を言っているんだと思ったルーネベりはリカ・ネディはニコッと笑った。

「俺が合図したら、走れよぉ」

 リカ・ネディはそう言うと、ズボンのポケットから五センチほどの錆色の棒切れを取り出した。

「それは何だ?」

「『剣』だなぁ」

「剣?それがーー」

「俺はレソフィアの変な店でとっておきの『剣』を見つけてなぁ。使うのは初めてだが、まぁ、大丈夫だろうぉ。使うなら今しかない。ここまでありがとうよ。ここまで連れてきてくれた礼ぇぐらいはさせてくれ」

 気恥ずかしそうにリカ・ネディは言った後、錆色の棒切れを左右に伸ばした。棒切れは伸ばせば伸ばすほど横にも広がり、ただの棒切れは徐々に鋭い剣先に変化した。片方だけではなく、棒切れだったものの両端に刃がついている。

「双刃剣……」とアラが言った瞬間、リカ・ネディは胸を大きく開いて剣を伸ばし切ると、二メートル近い両端に刃のついた剣が現れた。リカ・ネディはその双刃剣の中央を掴んでブンブンと振り回した。リカ・ネディが軽々と剣を振り回しているうちに、第一群が数メートル先まで迫っていた。

 ルーネベリもアラも慌てた。リカ・ネディは何を思ったのか、剣を振り回しながら第一群の方へ走りはじめたのだ。

「どこへ行くんだ!」とルーネベリが叫ぶと、リカ・ネディは叫んだ。

「走れ!俺が『道』を作ってやる」

「どうやって……」

 ルーネベリは戸惑ったが、アラは判断が早かった。「行くぞ」と素早くルーネベリの腕を掴んで走りだした。ルーネベリは腕を引っ張られ掲げていた真実の剣を落としそうになったが、しっかりと握り直してアラについて走った。

 三人の様子を伺っていたバッナスホートが「馬鹿め」と呟いた瞬間、後ろからオルシエがバッナスホートに向けて剣を振り下ろしたその刹那、バッナスホートは驚くべき速さで身を捩り大剣の柄でオルシエの剣を防いだ。

 バッナスホートは強い力で剣を押し付けてくるオルシエを睨みつけて低い声で言った。

「貴様、何のつもりだ……」

 オルシエは口を開いた。

「お前をここで葬ってやる」

 深い恨みのこもった凍てついた声がそう言った。バッナスホートはオルシエの赤い瞳を見ながら嘲笑った。

「その程度の腕で、俺を葬るだと?笑わせる」

「笑いたければ、笑えばいい。このまま何事もなく神聖な天秤の剣の儀式に最後まで残れると思っていたのか。天秤の剣にはお前を選ばせない。お前を選ばせたりさせない」

「誰に頼まれた?」

 オルシエは溢れんばかりの憤怒をぶちまけるかの如く叫んだ。

「誰に、か。身に覚えがありすぎてわからないのだろうな。お前を恨んでいる奴は大勢いる。頼まれなくとも、俺を含め大勢がお前の首に手を伸ばすだろう。ーーバッナスホート、卑怯な手を使い、大勢の者たちを貶めて頂点まで上り詰めた罪深いお前には天秤の剣は不相応だ。お前に虐げられた者たちがどれほど恨んでいるのか。誰もお前が天秤の剣に選ばれることなど望んでいない」

「ーー復讐か。くだらない。どんな手を使おうとも勝者こそすべてだ」

 バッナスホートは力強く剣の柄でオルシエの剣を押しのけた。オルシエが後退してよろめいたが、すぐに大剣をバッナスホートに向けて構えた。

 一足先に到達した後方から来た第一群がオルシエの脇を通り抜けて、バッナスホートの方へ向かったが、彼らはバッナスホートに攻撃する素振りもなく脇を通り抜けて、アラやルーネベリ、リカ・ネディの方へ向かっていた。バッナスホートはその様子を横目に見ながら言った。

「俺を足止めしたところで、俺に勝てなければ何の意味がある?お前と俺の実力は天と地ほど違う。俺の邪魔をせずに、大人しく引き下がれ。今なら許してやる」

 横暴な物言いをしたバッナスホートにオルシエは鼻で笑った。


 一方、双刃剣を振り回しながら走るリカ・ネディと、その後ろを追いかけるアラとルーネベリは、向かってくる第一群の先頭の中へ今まさに突っ込もうとしていた。

「正気の沙汰じゃない」と思わず小さく呟いたルーネベリは疲れないとはいえ、息を切らして絶望的な気分になっていた。武器一本持っただけで大勢に立ち向かうなど、無計画な上、滅茶苦茶だとしか思えなかったからだ。

 リカ・ネディは右足を前に出してぐっと床を強く踏み込み、双刃剣を握り締めた。そして、右足を少し外側に傾けながら滑らかに身体を捻り、剣を後ろ手に掴んで一回転した。左手で剣を身体の正面にまで持ちあげた途端、左右の刃が鋭く細く伸びはじめた。そして、刃が伸びた後にさらに柄の部分までもが天に向かって伸びていった。 

 そうして伸びに伸びた後、リカ・ネディが振り回した剣の双刃が生き物のようにウネウネと動きだした。ーーいや、その剣は生き物に違いない。鋭い剣先の近くに小さな目が現れて、ギョロギョロと周囲を見ているのか動いていた。それは二つある刃両方についていた。リカ・ネディは二つの刃の中間に存在する柄を掴んで振り回しているだけだが、その双刃剣はみるみる姿を変化させていた。刃の先がぱっくりと割れて鋏のように動きはじめた。カキンカキンと双刃剣が鳴っていた。非常に不気味な姿をしていた。

「よっしゃ、行けぇ!」とリカ・ネディが言った瞬間、双刃剣が伸びに伸びて先と先がガチンと音を鳴らせて組み合わさった。

「ーーなっ」とルーネベリは声を漏らした。

 双刃剣だったものが柔らかく捻り曲がり円形の剣になったのだ。その上、リカ・ネディはその剣を宙に放り投げたのだ。

「あの奇抜な剣は何だ?」とアラでさえ声を漏らした。

 放り投げられた剣は回転しながらすぐ真正面にいた大勢の者たちの元へ飛んでいき、勢い任せて押し倒すと、そのまま機械のように動いたまま大勢の者たちにぶつかり跳ね飛ばし、押し退けた。剣のはずだが、勝手に動いていた。円形となった双刃剣が神殿の下へ転がり落ちてそのまま姿が見えなくなるまで遠くまで走っていったかと思うと、再び辿った道を戻ってきた。途中ぐねぐねと寄り道をしたり自由奔放に走り動くほどに大勢の人々を左右に押し退けて人が二人ほど通れるほどの道が一直線に出来ていった。カキンカキンと鳴っていた音がカカカカと笑っているように聞こえた。剣に押し倒された者たちは皆、怪我は負っていないが痺れているかのように地面からほとんど動けずにいた。また、剣が強引に開いた道へ行こうと倒された者たちに近づいた者たちはまるで感染したかのようにバタバタと倒れはじめた。どうなっているのか、彼らもまた痺れて動けないようだ。大勢の者たちは同じ目に逢うことを恐れて折角開けた道だというのに、近づこうとしなかった。

 リカ・ネディが言った通り道ができたのだ。

 アラがタイミングを見て「感謝する。最善は尽くす」と言ってルーネベリの腕を掴んで走り出した。

 リカ・ネティは叫んだ。

「気をつけて行けよぉ。ーー『愛闘剣』戻ってこい、まだへばってないだろうなぁ。まだまだ戦いはこれからだぜぇ」

 回転した剣は生き生きと跳ね飛びながらリカ・ネディの手の内に戻った途端、今度は金色の立派な大剣に姿を変えた。剣はリカ・ネデイの言うことに忠実に従っているようだった。やはりなんらかの生き物に違いない。

 ルーネベリは走りながら後ろを振り返ってその様を見て考えていた。リカ・ネディはあの剣をレソフィアで手に入れたと言っていた。それは恐らく、高の庭でだろう。レソフィアの高の庭で、ルーネベリは黒豹に出会う前に空き瓶が沢山並んだ店を見かけた。あの場所が何だったのかはわからないが見知らぬ物を販売していたのだろう。もしかしたら十三世界でいう骨董店や雑貨店などそういった類の店だったかもしれない。他の店を全部まわる時間がなく確かめることもできなかったが。ああいった物珍しい物を販売する店が沢山あったのだろう。恐らくリカ・ネディは高の庭のどこかの店であの剣を見つけたのだ。つまり、見知らぬ世界に存在するルーネベリたちの知らない原理で成り立っている剣だ。姿を変える以外にどんな能力といえばいいのか、機能といえばいいのか、それらがあるのだろうか。剣というよりも剣がもたらす作用について興味が湧いた。

「ルーネベリ、前を見て走れ」

 リカ・ネディの剣への好奇心のおかげでさっきまでのルーネベリが抱いていた恐怖心は薄らいでいた。そのため、アラに言われ前を向いて現実を思い出して悲観的になった。リカ・ネディはただ道を作ってくれただけだ。状況は変わらない。ルーネベリが腕に抱えている剣を狙って追われているのだ。

「どこへ行くんだ?」とルーネベリは言った。

「わからない。とにかく走れ」とアラと答えた。

 それもそうだ。アラもルーネベリと同じ状況に陥っているのだ。ルーネベリだけでなくアラもビュア・デアに初めてきたのだ。どこが安全な場所なのかなど、土地勘もなく知るはずがないのだ。なぜそんな馬鹿げた質問をしてしまったのかルーネベリでもわからないほど混乱していた。

 ルーネベリはアラに引っ張られて呟いた。

「逃げたところで……」

「なにも変わらないか?」とアラが言った。ルーネベリは頷いた。

「結末が変わらないのなら、ここで終わった方がいいんじゃないか?」

「本当になにも変わっていないと思うのか」

「どういうことだ?」

「私はリカ・ネディが逃がしてくれるとは思わなかった」

「えっ?」

「あいつはバッナスホートの弟分だ。昔から利己的な男だ」

 ルーネベリは戸惑った。

「リカ・ネディが利己的?そうか?俺はそうは思わなかったが……。話をしたが、利己的というよりも、むしろ良い奴なんじゃないだろうか。親しみやすかったし、パシャルの親戚だと言っていた」

「ルーネベリ、騙されるな。パシャルとリカ・ネディは従兄弟だが、性格は似ても似つかない。あいつが私たちに親切にしていたのは、目的があったからだ。私たちはその目的のために利用されただけだ」

「利用された?そうなのか」

 アラはちらっとルーネベリの顔を振り返った。

「ーーただ、多少、ルーネベリのことを気に入ったのかもしれない。巻き込まれないように逃したんだろう」

「巻き込まれないってどういうことなんだ?俺たちは、俺の持っている真実の剣を狙われていただろう。まだ他にあるのか?」

「あるはずだ。リカ・ネディは何かするつもりだ」

「何かって?なんでそう思うんだ」

「リカ・ネディの持っていた剣だ。あのような剣を持っていたのなら、これまで使えばよかっただろう。使わずにここまで隠し持っていた。そして、隠していた剣を出してきた。もう隠す必要がなくなったからだ。ここで目的を遂げつもりだ」

「確かに、使い道はいくらでもあったかも知れないが……。目的ってーーあっ」

 ルーネベリはふとリカ・ネディとオルシエが密かに会話をしている姿を思い出した。普通に会話をすればいいところ、どこか皆に知られたくなさそうだった。そういえば、心当たりは沢山あった。リカ・ネディははじめて会ったときから現在に至るまで同行を望み、皆に協力的だった。オルシエは寡黙だったから、よくはわからないが。天秤の剣に選ばれたいがために最後まで残ろうとしたのだと思ったのだが、リカ・ネディはルーネベリたちのために隠していた剣を出して道を作って逃してくれた。おまけに、「抜ける」とも言っていた。それは別の見方をすれば最後まで残るつもりどころか、天秤の剣の儀式自体には端から興味がなかったからなのかも知れない。アラが言う通り、ルーネベリたちに同行したのは最初から目的が別にあったからなのかも知れない。

 アラは言った。

「武術の世界も小さな世界だ。純粋な思いを持って武術に挑む者ばかりじゃない。己の未熟さを顧みず、嫉みも多く、卑怯な手を使うことも日常茶飯事だ。他の者を蹴落とすことに喜びを感じる奴らもいる。そんな世界にいたからこそわかる。流れが変わったのなら、それを利用すればいい。リカ・ネディが何かをするにしても、すべて私たちには利に働く」

「そうか……。でも、バッナスホートは?置いてきてしまっただろう」

 アラは小さく笑った。

「ルーネベリ、まだわからないか?バッナスホートがリカ・ネディの目的だ。私たちだけを逃したのはそういう理由だ」

「えっ?でも、弟分なんだろう」

「誰も腹の中まではわからない。最初からバッナスホートを逃す気があれば、私たちと共に行かせただろう。私たちに同行してきたのは、バッナスホートに仕掛ける機会を伺っていたからだろう。よくやる手だ」

「仕掛けるって」

「バッナスホートという武道の覇者と対峙するために策を練っていたんだろう。あの男を阻む理由は数えきれないほどある」

「武道家にも色々とあるんだな」

「できることなら、私があいつを叩き潰したかったが。私は最後までルーネベリを守ると決めたからな」

「なんだか、悪いな……」

「私が決めたことだ。ルーネベリ、そんなことよりも、行き先だが、何か思いつかないか?この先、道が途切れそうだ。そろそろ決めた方がよさそうだ」

「思いつくってーーあぁ、先生が別れる前にバイランの話をしていたが……。バイランを探すとしても、こんな状況でどうやって探せばいいのかーー」


《フフ、バイランを探しているのか?》

 背筋がぞくりとしてルーネベリが立ちどまると、アラも立ちどまってルーネベリを庇うように腕を伸ばして大剣を構えた。

 名無しの神の声だった。その声が聞こえた途端、ルーネベリたちの目の前の何もない宙がぱっくりと開いて、そこから名無しの神が現れた。神は痺れて動けない者たちを平気で踏みつけて言った。

「フフフ、役立たずばかりだ。ようやく動けるようになって来てみれば剣の一本もまだ奪えないのか」

 名無しの神はルーネベリの赤い瞳を見抜くように見た。ルーネベリは驚いて後退したとき、何者かがルーネベリの背後から肩に手を置いた。そして、ルーネベリの耳元で名無しの神の声が大きく聞こえた。

「置き土産は効いた。逃げられる前に捕らえておけばよかった」

 きっとシュミレットのことだろう。真正面には既に名無しの神は姿は消えていた。恐るおそるルーネベリが振り返ろうとすると、瞬きするよりもはやく宙を切り裂いて現れたフェザティアが名無しの神を蹴飛ばして吹き飛ばした。

 フェザティアは吹き飛んだ名無しの神を追ってすぐさま飛び去った。ルーネベリがちょうど振り返ったとき、女神アブロゼが姿を現したところだった。

 ルーネベリが口を開く前にピリピリと激しい頭痛が走った。

《ーー奪え。天秤の剣を寄越せ》

 名無しの神の声が聞こえた途端、大勢の者たちが物凄い剣幕でルーネベリめがけて飛びかかってきた。ルーネベリは思わず叫んだ。

「うわああぁ」










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