七十九章 関わりの糸
第七十九章 関わりの糸
「長すぎる名前があるだろう?スタルか、ティティタンか、セラかどれでも良いじゃないか」
「スタルはダメだよ。その名前は彼の名前なんだ」
「彼?」
「僕の名前、スタルセラティティタン。『神剣スタルを有する者』って意味なんだ。スタルは鍛治の神がとても長い時間をかけて鍛えあげた神剣の一本で、僕のためにだけに存在する剣なんだ」
「ティティのためにだけ作られた剣?そんな大事なものーーいや、友人を手放したのか」
「そうだね。今僕は彼を持っていない。僕はもうスタルセラティティタンなんて名乗っちゃいけなかったんだ。そっか、僕は本当は名がない神だったんだ……。今まで全然気づかなかった」
スタルセラティティタンという名の由来である剣を手放し、無名の神になっていたことを知って、スタルセラティティタンはショックを受けていた。
ルーネベリは言った。
「名前がないなら、じゃあ、俺が付けてもいいか?もちろん、嫌じゃなければだが……」
少年神はぱっと弾けるような明るい顔をした。
「ルーネベリ、僕に新しい名前を与えてくれるの?」
「神に名を与えるのなんて、おこがましいことをしていいのかはわからないが。名前がないなら、付けた方がいいだろう?名がないことも、名を呼べないのは不便だろう」
「うん、僕は新しい名前が欲しい。ルーネベリ、僕は名前が欲しいよ。彼に会いに行って僕は新しい名前を名乗るんだ」
ルーネベリはほっとして微笑んだ。
「よかった。じゃあーーもう亡き俺の友人の名前なんだが。命を犠牲にして大勢の人々を救った立派な奴の名前だ。フェザクシア・ミドール。呼び名はザッコと言うんだが。彼の名の一部と、元の名の一部をとって、フェザティアはどうだろうか?」
「フェザティア?」
ルーネベリは少年神の手を握り、虹の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「善き神になりたいと言っていただろう?大勢の人々の命を救ったザッコのように、これからその手でより多くの命を救ってほしい。俺はそうなって欲しいと心から願っている。過去を受けれ入れて、前へ進んだ」
少年神はルーネベリの赤い瞳を見つめ返し、ルーネベリの手を強く握り返した。
「僕の新しい名は、フェザティア。大勢の人々をこの手で救う神ーー」
突然、眩い黄金の光が少年神から発せられた。ルーネベリは眩しくて目を閉じて、腕で目を庇った。
「フェザティア、僕の新しい名……」
ルーネベリの握っていた幼い手が徐々に大きくなり、ごつごつとした逞しい手となりルーネベリの手の中から離れていった。そして、少し眩い光が収まってきてようやくルーネベリが目を開けられるようになったと思い顔をあげると、目の前には金色と白い光を放つ体格の良い成人した男の姿を成した神が立っていた。
強靭な筋肉をのついた肉体にただ肩からかけただけのような布のような服を纏っていた。白いズボンを履いていたが、ところどころスリットの入った布ごしに立派な太腿が見えていた。
ーー目の前にいるのは一体誰なのだろうと、ルーネベリは思った。
その男神の目が虹色ではなく、水色がかった透き通った水面のように美しかった。髪はゆるくウェーブのかかった小麦のような金色でその目を飾る整った素顔は若々しい二十代半ばのようだった。その神の纏う空気は温かくありながらもどこか刺激的な感じがした。
「フェザティア?」
ルーネベリは思わず手を伸ばしていた。
男神はルーネベリを見下ろして目を細めて微笑んだ。束の間、空がひび割れてそこから稲妻のような閃光が男神目掛けて飛んできた。しかし、男神はルーネベリを見たまま動かなかった。
ルーネベリは口を開いたが、叫ぶ前に、形の良い華奢な手でが閃光を弾き飛ばした。
「ティティ、余所見なんてして危ないじゃない!あんた、さっきから何しているのよ!私の神殿まであなたの気配を感じたわ」
赤いイヤリングと鎖を揺らしながら、どこからともなく現れた女神アブロゼは男神の後ろに立ち、心配しているのか酷く怒っていた。
ルーネベリは驚いて息を飲んだ。男神は微笑むと、ルーネベリの頭に手を置いて《ありがとう》と呟くと、手を離して女神の方を向いた。
「アブロゼ、僕の名はもうティティじゃない。フェザティアなんだ。僕だけを表す名なんだ」
「フェザティア?あんたの名前はティティでしょう。スタルセラティティタンーーちょっと待って、気配しか感じていなかったけど、あんたその姿……」
男神は頷いた。
「僕はようやく解放されたんだ。もうビュア・デアの外にだって行ける」
「解放されたって……」とアブロゼ。男神は言った。
「僕は執着心を捨てなければいけなかったんだ。神剣スタルがいないのに僕は彼の所有者だと傲慢にも名乗りつづけていたんだ。名も、定めも目的もない何もない神。それがスタルを手放した後の僕だったんだ。老神様はそんな僕を見捨てなかったんだ。目が曇って僕自身が見えていないことを教えてくれるためにビュア・デアへ送ったんだ。僕は、僕のことを教えてくれる者に出会わなければならなかったんだ。そして、僕だけの名を得なければならなかった。
ーーアブロゼ、僕、本当はわかっていたんだ。アブロゼは悪神じゃない。僕を追ってここまで来たんだろう?」
女神アブロゼは口元を押さえた。そして、目に涙を浮かべた。
「ーー知ってたの?」
「僕たち、ここへ来る前に会っているんだ。あの頃、アブロゼは清らかで麗しい女神たちの一人だった。大勢いた女神の一人だった」
「そうよ、私たち会っているの。とっても大昔にね。老神様の庭でーー。あんたは庭の神木の側で静かに佇んでいたわ。黒い神剣を持って、神々の宴にはめったに現れないあんたが来ていたのよ。皆、心躍ったわ。老神様が愛でている神々の中でもあんたほど特別な神はいなかったわ。孤独な定めを負いながらも、どんな時も立ち向かってけして逃げなかった。誰よりも眩しく勇ましかった。あんたに憧れ恋をし、愛を捧げた神々は大勢いたのよ。皆、何を犠牲にしてもあんたの側にいたいって思っていた」
「僕にもそんなこともあったのかな……」
「あんたの記憶には私たちのことなんてほとんど残らなかったでしょうね。いつも遠い目をしていたもの。
私も他の神と同じことを思ってた。でも、言い出せなかったわ。あんたに恋焦がれる大勢の中にいても、あんたとお近づきになんてなれないって思ってた。それでも、恋焦がれることをやめることができなかった。
あんたが神剣を手放してビュア・デアへ送られたって知ったとき、私、胸が締め付けられるように痛んだわ。多くの神々があんたから心が離れていったけど。私は離れられなかった。だから、老神様にお願いに行ったのよ。何もかも失ったあんたが立ち直れる日が来るまで近くにいさせて欲しいって。ビュア・デアには悪神しか立ち入ることは許されていないからーー私、真実の姿を捨ててきたのよ」
「ビュア・デアを出るには何かを犠牲にしなければならないのに、ビュア・デアに入るために、僕の近くに来るためだけに何かを犠牲にしたのか?」
「そうよ。あんたの側にいたくて、私、捨ててきたの。ここにいるために、悪神として役割も果たしてきたわ。あんたに私のことを認めて欲しいとか、受け入れて欲しいとかは思っていないわ。ただ、あんたがかつてのように、……今のような姿に戻って欲しかったの。あんたらしい姿に。どんなに過酷で先の見えない場所にいても、あんたは眩い希望の光を放ちながら運命を切り開いていく神だった。私は、そんなあんたがーーあなたが好きなの。もうずっと昔から」
アブロゼは顔を両手で覆いながら、しくしくと泣いた。アブロゼが涙を流してかすかな嗚咽を漏らすたび、女神アブロゼのドレスに隠されていた夥しい数の鎖が一本ずつ砕け消えていった。アブロゼを繋いでいた鎖はまるで女神自身を囚え隠してきたようだった。
鎖が消えるたびに、アブロゼの金色の髪は美しいプラチナブロンドとなり、髪は床まで伸びはじめ。胸元が大きく開いていた白いドレスは、光沢を放ちながら胸元を隠した上品なドレスと変化しはじめた。耳を飾っていた赤いイヤリングは消え去り、女神はピンクと黄色い光を帯びはじめた。
男神フェザティアは泣くアブロゼに近づき、その小柄な身体を抱きしめた。
「アブロゼも僕のことを見捨てなかったんだね」
泣きながらアブロゼは言った。
「見捨てることなんてできないわ!あなたがどんな姿になっても、あなたはいつも私の希望なの。あなたはいつか元の姿に戻ると信じていたわ」
フェザティアはアブロゼの背を優しく撫でた。
「うん、ありがとう。僕のことを見捨てないでいてくれて。信じてくれて、ありがとう。ーー僕、ここを出たらスタルの元へ行こうと思っているんだ。彼を『起こして』、これまでのことを謝って、また僕と共にいてくれるように頼みに行こうと思っているんだ。
アブロゼ、よければアブロゼも一緒に来ないか?僕はアブロゼが一緒に来てくれたら嬉しい」
アブロゼはぱっと美しい顔をあげた。瞳は虹色ではなく、薄いピンク色を帯びていた。紅を引いていないだろう唇は潤い、頬も微かに赤く。とても明るく美しい女神だった。
「行くわ。あなたとなら、どこへだって共に歩みたいわ」
「ーーそう、よかった。でも、僕はここを出る前に、僕に色々な事を気づかせてくれた人たちのために戦わなければならないんだ。アブロゼ、すべてが終わるまで待っててくれる?」
アブロゼはフェザティアの目を見上げて首を横に振った。
「もう待たないわ。私も共に戦うわ。私の願いは叶ったのよ。私だってお礼がしたいわ」
すっとアブロゼはフェザティアから身を離し、ルーネベリたちの方を向いて女神自身の胸に手を置いた。
その姿は神々しく、まるで女神として襟を正したようだった。
「あなたたち、ありがとう。フェザティアのこともそうだけれど、お礼を言わなければならないことが沢山あります。私の名は女神アブロゼ、かつて運命の女神と呼ばれていた者です」
丁寧な言葉でそういった女神アブロゼにルーネベリは呟いた。
「運命の女神……様?」
「あなたたちの旅路の中で、私の話は多々耳にしてきたでしょう。あなたたちの旅路は、未熟な女神たちが私を呼び戻すためのものでした。
私がかつて育てた空魚の棺桶の蓋を閉めてくれた。私が導くはずだった旅人を見送ってくれた。危機に瀕した争う者たちを救い、そして、私がかつて育てた獅子クインルに番ができたことを教えてくれた。私が去った後に運命の女神となったレソフィアがかつて犯した過ちを正し、真実の女神を解放してくれた。歪められた運命を正す再生の女神メトが生まれ、交わる境界の中で翻弄された者たちを見守ってくれた。未熟な女神たちは私がいなければ、運命の歯車は円滑に巡らないと私に伝えるために導いてきたのです。
私はフェザティアがビュア・デアを出なけれければ、ここから出るつもりはありませんでした。けれど、フェザティアここを出ると言ってくれました。あなたたちが彼に名を与え、長く凍てついた心に新しい息吹を与えてくれたからです。私はここを出て、いずれ運命の女神に戻るでしょう。
ここまでの旅に感謝の意を込めて、あなたたちをここへ寄越した天秤の剣に私の息吹を与えます。世界の理をただ一つだけ巻き戻して、変えるための力は一度だけ。しかし、その対価を得る者は一人だけです。私もフェザティアもその一人を選ぶ者ではありません」
衝撃的な話を聞いて、ルーネベリはこれまでの旅路の記憶を思い出しながら狼狽えていた。まさか、これまでの旅が運命の女神アブろぜと出会うためのものだなんてルーネベリはまったく想像だにしていなかったからだ。
冷静に聞いていたシュミレットが言った。
「最後の一人を選ぶ者は天秤の剣ですね?」
女神アブロゼは頷き、ルーネベリの方を、正しくはルーネベリの持つ真実の剣を指差した。
「『かくも無惨な者に渡すなかれ』。これからここへやってくる者にその剣を渡してはいけません」
ルーネベリははっと意識を引き戻して言った。今聞いておかなければならないのだ。
「一体、誰がここへ来るんですか?」
フェザティアは言った。
「ビュア・デアの創造神デハルが捨てた姿を奪い、被っている者」
ルーネベリはもう一度言った。
「それは誰なんですか?」
「誰でもない、名無しの神だよ」とフェザティアは言った。
「名無しの神?」
「僕ら神は生まれついて自らの名を知るもの、与えて得る者、与えられて得る者、見つけて得る者、名を捨てる者ーー色々いるんだ。でも、あの者はそのどれでもないんだ。神となった時からこれまで一度も誠の名を得ていないから、他の神々に纏わるものを依代として存在してきたんだ。デハルの捨てたものを得て、今はデハルに成り代わろうとしている。あの者は神としても生命としても不十分だから、ビュア・デアを出ることができる」
シュミレットがこくこくと首を縦に振り頷いた。
「ようやく話が繋がった。ライナトで、アミアを追い助けたエナリラの子を呪ったのはその名無しの神なのだね」
「それじゃあーー」とルーネベリが言いかけ時、突如、ルーネベリたちのいる空間が歪んだ。いや、歪んだというよりも、ルーネベリがいた空間だけが丁寧に折り紙のように内側へ折り畳まれた。
それらはルーネベリがほんの数回瞬きをしただけの間に起こった出来事だったが、ルーネベリは目の前には横にとてつもなく長い白い神座に足を組み、身体を傾けて太腿に肘をついて手で顔を支えている神が現れたことに驚いた。
突然、その得体の知れない神がどこからともなく現れたのかと思い、ルーネベリが左右を見わすと、そこは先ほどまでいたフェザティアの神殿ではないようだ。知らぬ間に空間移動したようだった。
神座に着く神がまるで会話をしていたかのように言った。
「ーーフフ、わたしにだって名はありましたよ。どれもわたしに相応しいものではなかっただけです」
ルーネベリはいつの間に両手で真実の剣を抱えるように握りしめていた。フェザティアの神殿の床に置いたはずだったが、ルーネベリは剣をしっかりと握りしめていた。
「一体、どうなっているんだ……」とルーネベリは怯えながら呟いた。
目の前にいる神は虹色の目を細めて笑っていた。その神は全身に無数の鎖が繋がっていた。しかし、繋がれたその鎖の長さにはたっぷりと余裕があり、繋がれた鎖たちは、神殿の床に何百本という剣を刺して留め置かれていた。立派な腕と長く形の良い足が覗く白い衣を着て、灰色の短く流れるようなさらさらの髪、眉毛は少し太いが中性的な顔立ちをしていた。
ルーネベリはその顔がデハルなのだとわかった。そして、ルーネベリが今いるこの場所こそが、デハルの神殿だ。
デハルの神殿の神座に座す神は、ルーネベリをじっくりと眺めていた。
「ーー理由もなく、ただ名を使い捨てにしているんだ。其方の心が満足しなかっただけだよ」
フェザティアの声が聞こえた。ルーネベリが振り返ると、ルーネベリのすぐ隣にフェザティアと、女神アブロゼが立っており。その後ろにシュミレットやアラ、バッナスホート、リカ・ネディ、オルシエが立っていた。
アラはすぐにルーネベリに駆け寄り、「大丈夫か?」と聞いてくれた。リカ・ネディとオルシエはデハルの神殿を見まわしていた。
女神アブロゼは言った。
「其方は、私たちと対峙するの?」
神座に座す神は声をあげて「ハハハ」と笑いながら立ちあがり、丁寧にお辞儀をした。
「ようこそ、アブロゼ様。わたしと同じように鎖に繋がれてあんなに醜かったあなたが、運命の女神だったとは嬉しい誤算だった。運命の女神を殺せば、わたしも運命の女神になれますか?ーーあぁ、運命に逆らう者には難しいか。フフ」
フェザティアは庇うようにアブロゼの前に立った。
「アブロゼは若い女神たちとは違う。神々の理にはアブロゼが必要なんだ。アブロゼに手を出せば、老神様の上にいる方が出てくる」
「フフ。老神の上にまだ別の神がいたのか。一体何人いるのか。無能な神がいくらいてもーー。わたしを捕らえ損なっている神より上でもたいしたことはないはず」
アブロゼは後ろからフェザティアの手を握り、言った。
「見誤らないで。老神様は元より闘神じゃないわ。捕え損なったわけじゃないのよ。あなたはビュア・デアから出ることはできても、必ずここへ戻ってきてしまうのよ。そして、何度も何度も同じことを繰り返してゆく間に、帰り道を見失ったの。あなたが元々、『何者』だったのか思い出せるの?」
「ーーフフ。わたしが『何者』だったのか。そんなこともうどうでもいい」
「わからないの?あなたはそのどうでもいいもの捕われているの。ビュア・デアに閉じ込められ捕われているわけじゃないのよ。
老神様は私たち未熟な神を導いて仲裁役をされているだけ。老神様が教えてくださる線引きを超えては駄目よ。神々の輪の中から外れては駄目よ。デハルは諦めて。あなたには手に余るわ」
アブロゼの言葉に苛ついたのか名無しの神は笑い顔を歪めた。
「フフ、神ほど残酷な者はいないだろう。なぜ持ってはならないのか。なぜ望んではならないのか。何も持たざる者として生まれーー、無惨に捨てられたものを得てならないのか」
フェザティアは自身の腕を持ち上げ、立派な手を眺めながら言った。
「生まれながらに何一つ持っていない者などいないよ。生まれた瞬間身体があって、心があって、他者と触れ合い感じることができる。他者が自分よりもたくさんの物を持っていて羨ましく思うことだってあるかも知れない。でも、僕自身思ったんだ。例え持っていたとしても、その有り難みを感じなければ、本当の意味では持っていないのも同じなんだ。それに、持っていないものを得たとしても、それが自分の物じゃなければ、本当の意味では持っていないのも同じなんだ。
ーーデハルが捨てたものを拾っても、デハルにはどうしたってなれない。他人の物を欲しがるのではなくて、誠に自分の物になるものを得なければならないんだ。でも、得た後だっていつもそう簡単にはいかない。原石のように見た目は不恰好かも知れないし。知れば知るほど気に入らないかも知れない。それでも、僕らはそれらを簡単に諦めてはいけないんだ。誠に、己のものとするには妥協も必要だし。理解しないといけないことも沢山ある。其方にはそれらを認める勇気がないんだ」
神座に座す名無しの神は、すっと立ちあがった。そして、数回、拍手した後に両腕を広げた。ジャラジャラと無数の鎖が揺れ鳴った。
「ーーフフ、立派なお言葉痛み入ります。言いたいことはわかりました。有難いお言葉はまず、その剣を得てからじっくりと考えてみましょう」
フェザティアの話も、アブロゼの話も、名無しの神には通じてはいなかった。酔いしれた笑みを浮かべる名無しの神の周囲に、神殿の宙を割いて光の剣や金属の杖を手にした神々が数十人、次々と現れた。
フェザティアもアブロゼもそれらを立ったまま見ているだけだったが、アラはルーネベリの前で守るように大剣を抜き、バッナスホートとオルシエもまた大剣を抜いた。リカ・ネディは緊張感を拭うように口笛を吹き、シュミレットは無表情で腕を組んでいた。
ルーネベリは真実の剣を抱きかかえて、これから起こるであろう出来事を思い身震いした。