小さなお化け
10月31日、ハロウィンだ。
私はこの日、地域のボランティアで、仮装をした子供達にお菓子を配っていた。
魔法使い、吸血鬼、お化け、アニメのコスプレ。
いろんな格好をした子供達が
「とりっくおあとりーと」
と、無邪気にお菓子を貰いに来る。
皆可愛くて、自然と笑みが浮かんだ。
でも、それと同時に、私は数年前に亡くした娘のことを思い出していた。
買物からの帰り道、横断歩道の反対側から聞こえた娘の声。
視線を向けると大きく手を振っていた。
歩行者信号が青になる。
娘が駆け足で横断歩道を渡る。
私も娘の身長に合わせて屈み、両手を広げて抱きしめる準備をしていた。
──けれどそこに、信号無視をしたトラックが、突っ込んだ。
「おばちゃん、おかしちょうだい」
子供の声に、はっと意識が現代に戻る。
娘と同い年くらいの子供を見て、思わず涙が溢れそうになるけれど、グッと我慢をしてお菓子を渡した。
□ □ □
お菓子を配り終わり、片付けをしようとしていると、子供がまだ1人立っていることに気がついた。
白い大きな布を頭から被り、目の所だけ穴を開けた、可愛らしいお化けだった。
でも、残念ながらお菓子はもうない。
「ごめんね、お菓子はもうないんだ」
私は屈んで、小さなお化けにそう言った。
すると、小さなお化けは私に駆け寄り、小さな腕を広げて抱きついてきた。
瞬間、何か懐かしさを感じた。
この感覚はなんだろう。
そう思っていると、
「さきにいっちゃってごめんね」
耳元で、小さなお化けが囁いた。
聞き覚えのある声だった。
ずっと聞きたいと思っていた声だった。
そして、いつも抱き締めていたあの感覚を思い出した。
小さなお化けは私から離れると、そのまま走り去ってしまう。
「待って!」
声をかけ、追いかけようとするけれど、人の通りがそれを邪魔する。
人通りが落ち着くと、もうあの子の姿はどこにもなかった。
私はその場で立ち尽くし、溢れ出る涙を止めることはできなかった。
お菓子はなくても、会いに来てくれたようです。




