93
「あっ!それは食べちゃダメ!」
「クーア、吐き出して!」
「まったく…。何やってるんだ」
まだ飲み込んでないみたいだから、クーアの口に手を突っ込んでそれを取る。
涎でベタベタになったネギは、原形は留めてないけど欠損してる部分はないようだ。
「ほら。何か口に入れたと思ったら、すぐに取らないと。飲み込んでからじゃ遅いからな」
「ウゥ…」
「お前も勝手に他人のものを食べるな。お前にとって危ない食べ物だってあるんだから」
「クゥ…」
「ワゥ!」
「またあとで作ってもらえ」
「なんて言ってるんです?」
「こいつらも腹が減ってるんだと」
「あぁ、そういうことですか。今すぐ作りますね」
そして、すぐに料理に取り掛かる。
「よかったな」
「ワゥ!」「ァン!」
「如月も食べますか?」
「あ、よろしくお願いします」
「はぁい」
「そういえば、護獣と聖獣って同じなの?美希はルウェを護獣としてお守りを貰ってたよね」
「厳密に言えば違います」
「はんぺん…かまぼこ…」
「…ルウェちゃん、そんな名前にするのぉ?」
「うーん…」
「やめときなよ~」
「うん」
「…あの。続き、いいですか?」
「あ、うん。どうぞ」
「護獣は、その人の本質を表す獣です。だから、狼だったり狐だったり、そういった抽象的な名前であることが多いのですが、狼ならルウェ、狐ならクーアなどと具体的にあてはめて護獣とする場合もあります」
「じゃあ、聖獣は?」
「はい。聖獣は…」
「ただいま戻りました」
「ただいま~」「ただいま」
「お帰りなさい。どうだった?クノは良い子にしてたかしら?」
「タ、タルニアさま…」
「お菓子買ってもらった~」
「響にも、お土産、あるんだよ」
「光~。どこに行ってたの?」
「市場で、クノお兄ちゃんと、お買い物だよ」
「えぇ~、わたしも行きたかった!」
「ごめんね」
「むぅ…。いいよ、もう」
「うん。ごめんね」
不機嫌そうにパタパタと翼をはためかせる響をたしなめるように頭を撫でる。
悪い気はしないみたいで、パタパタも次第に収まってきて。
「ねぇ、この狐さんは誰なの?」
「如月。私と契約してる聖獣よぉ」
「望は望っていうの。如月、よろしくね」
「はい。望さまですね。よろしくお願いします」
「葛葉みたいに金色だね」
「葛葉さま…ですか?」
「うん。えっと、今は美希お姉ちゃんと一緒かな」
「そうなの?お昼ごはんはどうするって?」
「うーん…分かんない」
「美希さまと葛葉さまは、市場中程の食堂に入っていきました。おそらく、あそこで食べるのでしょう。同じ食堂に、ユカラさま、祐輔さま、夏月さまも入っていかれました」
「へぇ~。よく見てるんですね。食堂って涼さんのところかな」
「望は気付かなかった~」
「職業柄、いろんなところを見回してしまうので…」
「え?行商ですよね。そんなに見回すことが…」
「クーア旅団なら、その職業病も頷ける。盗賊として完璧な仕事をするためには、誰にも目撃されないのが理想だからな」
「はい。そうですね」
「クノ」
「あ…いえ…。今のは忘れてください…」
「仕方ないな。周りのことをしっかり気に掛けるのはいいが、迂闊な発言にも気を付けろよ」
「はい…」
「ふふ、しっかりしてるようで少し抜けてるのが、クノの良いところねぇ」
「タ、タルニアさま!?」
タルニアに鼻を突かれて、燃え上がるように顔を真っ赤にさせて。
…もうひとつ追加。
とても分かりやすいのも、クノの良いところだ。
同じことを考えているのか、タルニアもこっちを見てニッコリしていて。
「ところで、護獣と聖獣の違いについてですが…」
「あ、忘れてた。如月、続きお願い」
「はい」
「今日はよく話の腰を折られる日みたいねぇ」
「そうですね…」
「ルウェとクーアのごはん、出来ましたよ~」
「ワゥ!」「ァン!」
「はぁ…」
「早速折られちゃったね…。ね、また折られないうちに早く」
「はい…。ありがとうございます、風華さま…」
「じゃあ、はい、どうぞ」
「えっと、聖獣なんですが…大丈夫ですか?」
「大丈夫だから。ね?」
「では…ホントに大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。早くしないと、また来るから」
「はい、分かりました。では。聖獣なんですが、聖獣は使徒である獣のことです。どちらかと言うと、幽霊に近い存在でしょうか」
「幽霊…?」
「精神的な存在ということです。まあ、幽霊がいるかどうかは私には分かりませぬですが」
「あ、そうだ。契約って何なの?」
「契約…ですか。実は、私たちも詳しくは知らぬのですが…。分かるのは、契約者と聖獣双方の生命が混ざり合うということだけですね」
「望は、まだカイトとホントの契約は結んでないんだよ」
「そうなのですか?」
「うん」
「契約は力を相当使いますからね。ルウェやクーアはともかくカイトくらいにまでなってくると、望さまが耐えられぬ可能性もありますから」
「え…?耐えられないって…そんなに危ないものなの?」
「いえ。しかし、生命の強さに差がありすぎると負担も多大なものになるのも事実です」
「へぇ~」
「もうお腹いっぱいなんだぞ」
「光のお土産って何~?」
「んー、大福だよ」
「みんなで食べましょうね」
「美味そうだな」
「そうねぇ」
「僕にもひとつ貰えますか?」
「ちょうど話も終わったから、如月も一緒に食べよっか」
「はい。最後まで話せてよかったです」
「ワゥ!」「ァン!」
「分かった分かった」
光が開けた箱の中には、苺大福が詰まっていて。
薄い白の生地に酸っぱい苺と甘い餡子が入っていて、その三つがピッタリ調和していた。
…つまり、とても美味しい苺大福だった。