表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/578

部屋に近付くと、何かバタバタと走り回るような音がする。


「……?なんだ?」

「あぁ!あの子たち、まさか!」


私の手を離し、部屋まで走っていく。


「こらっ!暴れちゃダメでしょ!」

「あ、お姉ちゃん」

「こいつ、言うこと聞かないんだもん!」


聞こえたのは望と響の声。

…こいつって誰のことだ?


「誰かいるのか?」

「あ、ごめん、姉ちゃん…。ちょっと、森の方で拾って来ちゃったんだ…」

「拾ってきた?」

「うん。この子なんだけど」


と言って、風華は何か大きな毛玉のようなものを寄越す。

触ったかんじ、子犬…いや、この匂いは狼か…。


「ちっちゃい子犬なんだけど…」

「こいつは犬じゃないぞ」

「え?」

「お母さん、目、どうしたの?」

「これか?何、心配はない。それより、どうだ、響。こいつが何か当ててみろ」


響に子狼を渡す。


「うーん…フダツ?」

「違う」

「じゃあ、クルス」

「違う」

「望、分かるよ!狼でしょ!」

「えぇ!?狼!?」

「そうだ。よく分かったな。偉いぞ」

「えへへ」

「わたしも!わたしもなでなでして!」

「分かった。分かったから、押すなって」


二人が見せているであろう可愛い笑顔を拝めないのは残念だが、私の服を掴む感触、抱きついてくれている感触は感じられる。

今は、それだけで充分だ。


「私…狼なんて拾ってきちゃったの…?」

「どうした。何か問題でもあるのか?」

「だって、狼って、すっごく獰猛で…」

「じゃあ、オレや望も獰猛なのか?」

「そ、そういう意味じゃないよ。でも…」

「獰猛だとか凶暴だとかは、人が自分勝手な基準で決めたこと。人間に比べたら、こいつらの方がよっぽど大人しいよ」

「お母さん、わたし、難しい話、分かんないよ~」

「そうだな。こんな話はこれで終わりだ。…でも、風華、そのこと、ちゃんと分かっておいてくれ。動物というのは、決して獰猛でも凶暴でもないってことを」

「うん…」

「じゃあ、望、響。こいつの名前、決まってるのか?」

「うん!明日香!」

「あすか?」

「うん。明日、香るって書いて明日香!」

「ほぅ、響、漢字が出来るのか」

「うん!」

「望も出来るよ~!」

「そうか。二人とも、偉いな」

「えへへ」


またガシガシと頭を撫でてやる。

本当に可愛いやつらだ。


「さて、もう寝る時間だぞ。お前らの部屋は…」

「あ…姉ちゃん…」


少し部屋の外まで引っ張り出される。


「どうしたんだ」

「昨日も、二人ともここで寝てたんだ。匂いを消すのが遅れたし、デガナも食べてたから分からなかったかもだけど…」

「そうなのか?」

「うん…衛士さんは、別の部屋に連れて行ったって言ってたんだけど…」

「そうか。でも、まあいいじゃないか」


再び部屋へ戻る。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。それより、もう寝る時間だ、二人とも」

「うん」「分かった~」

「えっと…そこか」

「何が?」

「布団、もうちょっとこっちに寄せたらどうだ?」

「いいの?」

「悪いわけがないだろう」

「「やった!」」


布団を擦る音がした。

それが、部屋の中ほど…私と風華の布団があるであろう場所で止まる。


「それなら、こうでしょ」

「あ!お姉ちゃん、頭いいね!」

「そうかな」


風華の照れたような声。

たぶん音からするに、望と響の布団を私と風華の布団の間に入れたのだろう。

そして、バサバサと布団に潜り込むような音。


「おやすみ、お姉ちゃん、お母さん」

「おやすみ~」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ、望、響」

「うん…」


…すごく寝付きがいいな。

ていうか、早すぎないか?

響なんかは、もう寝息を立て始めてる。

二人の寝顔は、また昼寝のときか、もうしばらく先までお預け。

昼の、二人の寝顔を想像すると、思わず笑みがこぼれてしまう。


「姉ちゃん、変なの」

「そうか?」

「…ううん。やっぱり、変じゃない。だって、私と同じ顔、してるもんね」

「ふふ、そうだな。…あ、こいつ、どうするんだ?」

「私が世話するつもりだけど」

「そうか。まあ、オレも出来る限りのことはする。それに、オレの方が狼の扱い方に関しては上だろうしな」

「え?なんで?」

「なんでってそりゃ…」


そこで止める。

これを、今言ってしまってもいいのだろうか…。


「そりゃ…何?」

「いや、今日はもう遅い。続きはまた今度にしよう」

「えぇ~!気になるよ!」

「次のお楽しみってやつだ。また話してやるから」

「絶対だよ!ねぇ、絶対!」

「分かってる。それと、そんな大きな声を出すな」

「あ…そうだね」


聞こえてくる二つの寝息。

起きる気配はないけど、それでも配慮するに越したことはない。


「オレたちも寝るか」

「うん。あ、布団、どこか分かる?」

「匂いでだいたいな。…ここか」

「やっぱり、嗅覚が鋭いんだね」

「ああ。狼だしな」

「私は全然だな~」

「よく利く鼻がなくても、風華には聡明な頭脳がある」

「ふふ、そうだね」

「ちょっとは謙遜しろよ」

「えぇ~」

「くっ…ふふふっ」

「あははははっ」


二人して笑った。

何事かと、明日香が頬を舐めてきて。

それがくすぐったくて、また笑った。

笑う門には福来る。

さあ、みなさん、笑いましょう。

意味なんていらないのです。

幸せになったもの勝ちなんですから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ