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市場の中を抜けて、こちらに向かってくる馬車が一台。

タルニアの馬車だろうか。

…それにしては、少し大きい気もするが。

ていうか、タルニアの馬車は厩に繋がれてるままだな。


「クノ。あの馬車は何だ?」

「ん?あぁ…あれは、輸送車ですね」

「輸送車?」

「はい。最近始めたんですが、街から街へ私たちが安全に送り届けるんです。あれは分隊の輸送車ですから、ルクレィ内のどこかから来た人ってことになりますね」

「ふぅん。クノは知らないのか?」

「誰でしょうね」


誰だろうか。

何か少し笑ってるし、誰が来るかクノは知ってるんだろう。

セトがまた物珍しそうに馬車のあとから付いていっている。


「まあ、それは良いとして、クーア旅団は実際のところ、どうなんだ」

「クノさんとクーア旅団って、何か関係あるの?」

「関係あるも何も、ラズイン旅団の裏の顔はクーア旅団だ」

「ふぅん…」

「なんだ、あまり驚かないんだな」

「クノさんが悪役なら、義賊ってかんじがするから」

「ギゾクってなに~?」

「悪いことをする良い人のことだよ」

「……?」

「悪いことは悪いことだ。確かに法で裁かれない悪人もいるだろうが、だからといって、義賊の存在を認めるわけにはいかない」

「そうかもしれないけどさぁ」

「あ、あの…。話が跳躍してるように思うんですが…。私たちラズイン旅団は、クーア旅団と何の関係もありません」

「隠す必要はない。自分たちの信念に従って、正しいと思うことをやっているのだろう?」

「わっ、びっくりした」


突然、会話に入り込んでくるカイト。

医療室の屋根縁に降り立つと、少し身体を震わせて火の粉と水滴を飛ばす。


「ふむ?水か。かなり強いな」

「水…?」

「娘、名前は?」

「風華です…」

「風華。良い名だ」

「カイト。何か用事か?」

「ん?あぁ、望を知らないか?」

「広間に行ったけど。なんでだ?」

「ちょっと話があってな。それは少し置いておいて。風華。いいか?」

「あ、はい…なんでしょうか…」

「…というか、なぜそんなに怯えているのだ」

「普通、人間の言葉を喋る鳥と遭遇したら怯えるものだ」

「む?そうなのか?」

「え…あ…すみません…」

「謝ることはない。私の不注意だった。話はまた今度に…」

「あ、いえ…。大丈夫です…。ちょっとびっくりしただけなんで…」

「そうか。では、手短に済ますとしよう」


少しの間、カイトは考えるように目を瞑る。

そして、ゆっくりと目を開けた。


「全ての源である水。全てはここから始まり、ここに終わる。風華は、その流れの根源となれる力を持っている。常に流れ続け、いつの日か大海原となってくれるか?」

「…はい」

「ありがとう。…では、私は望を探してくる」


また翼を広げ、カイトは空へと羽ばたいていった。

…ひとところに落ち着くことはないのだろうか。

今日来てからジッとしていたときがないな。

少なくとも、私の前では。


「はぁ~…。緊張した…」

「なんでだよ」

「だって…うーん…。なんか緊張した」

「なんだそりゃ」

「カイトさまは貫禄がありますからね。だからなのかもしれません」

「夏月はどうだった?」

「ん~」

「緊張しなかったって言ってるぞ」

「何も言ってないでしょ…」

「そうか?」


夏月はカイトが来たことに気付いていたのだろうか。

とにかく、夢中で私の手を噛んでいるけど…。

空いてる手で尻尾を触ると、遊ぶように避けたり絡ませたりする。

完全に無我夢中というわけではなさそうだ。


「それにしても、夏月の尻尾の毛はフワフワだな」

「姉ちゃんもフワフワじゃない」

「んー?そうか?」

「うん」


自分ではそうは思わないけどな…。

でも、夏月の綿のような毛は本当に柔らかくて気持ち良い。

…こっちはどうだろう。


「ぅわっ!?」

「ふむ…。クノのは、また違った柔らかさがあるな…」

「い、紅葉さま!は、離してください!」

「イヤだ。クノの尻尾は私のものだ」

「紅葉さま!?」

「そういや、クノさんの尻尾ってクリンと巻いてて可愛いですね」

「風華さま!」

「何か手入れをしてるのか?」

「ま、毎朝、櫛を入れてるくらいです…」

「ふぅん」


クノは、また顔を真っ赤にさせて。

ホントに、いちいち反応が面白いな。

タルニアがしょっちゅうクノにちょっかいを出す理由が見えた気がする。


「ねーね、夏月のしっぼもさわって~」

「よしよし。任せとけ」

「えへへ」

「じゃあ、私はクノさんだね」

「ふ、風華さま!?」

「いいなぁ。私も、こんなクリンクリンの可愛い尻尾が欲しかった~」

「風華は今のままで充分可愛いじゃないか」

「そ、そんなことないよ…」

「ねーねのしっぽ、さわらせて~」

「ああ。どうぞ」

「ん~」


夏月は、私の尻尾をギュッと抱き締めたり、毛繕いの真似事をしてみたりする。

ときどきバサリと大きく動かしてやると、楽しそうにはしゃいで。

クノは恥ずかしそうに俯いて、風華は遠慮なく触り倒して。

この絵は、なんだか面白い気がする。

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