表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/578

84

葛葉を膝に乗せて、窓から外を眺める。

雨は相変わらず降り続いていて、セトは見張り遊ぶのに飽きたのか毛繕いをしている。


「ん~」

「布団に付けないようにしろよ」

「うん」


響と光は、この前の墨をどこからか持ってきて床に落書きをしている。


「あっ」

「ん?何か見えたか?」

「あそこ~」


葛葉の指す方、街の少し向こうに。


「ふふ、面白いものを見つけたな」

「何~?何が見えたの?」

「もうちょっと待ってれば分かる」

「ふぅん」


さて、賑やかになりそうだな。

本隊が来るのは三ヶ月ぶりか。

前に出来なかったこと、今日出来ればいいな。


「あっ。おっきいとり!」

「え?どこに?」

「おそらのうえに、ちょっとだけ見えたの」

「ほぅ。もしかしたら不死鳥かもな」

「ふしちょう…」

「金色に輝くその姿を見た者は、その美しさに身を焦がす。生命果てるときは紅蓮の炎に包まれ、その灰からはまた新しい生命が生まれる」

「むぅ…」

「はは、難しかったか?」

「うん…」

「とにかく、とても綺麗な鳥だ」

「あっ!」


葛葉は窓から飛び出さんばかりに身を乗り出し、空を見て。

…確かにいるな。

金色の火の粉を散らしながら優雅に飛ぶ姿。

響と光も見つけたらしい。

絵を描くのをやめて外を見ている。


「わぁ~、火の鳥だぁ~」「綺麗だね」

「キラキラしてる~」

「じゃあ、あとで見に行こうか」

「え?」「見れるの?」

「見たい!」

「よし。決まりだな」


不死鳥はまた雲の上へ隠れて。

…あいつも相変わらずだな。

はしゃぐ葛葉の頭に手を乗せ、空の向こうを見た。



馬車の数は次第に減っていき、最後の一台だけが外門を通って広場にやってきた。

セトは雨に濡れるのも構わず、珍しそうに馬車のあとを追っている。

響と光、葛葉は、待ちきれずに部屋を飛び出していって。

そして、屋根縁に降り立つ影がひとつ。


「よぅ。久しぶりだな」

「お前にとっては、三ヶ月なんて取るに足らないほどだろ?」

「同じ一日は二度と来ない。取るに足らない日なんてものはない」

「ふふふ」

「ん?どうした」

「意味するところは微妙に違うけどな。灯も朝に同じことを言っていた」

「ほぅ。灯は、少しは部屋を片付けられるようになったのか。あれが三ヶ月で変わるとも思えんがな」

「ああ、全然だ。でも、新入りが来てな。灯の部屋に入ったから、今は綺麗だ」

「新入り?」

「美希って名前でな。元浪人、赤狼の優しい子だ」

「そうか。その子も大変だな。…ところで、噂に聞いたんだが、前王政が倒れたあとはどうだ。上手くいってるのか?」

「まだ分からないけどな。でも、きっと上手くいくよ」

「信頼してるのだな」

「ああ」

「それで、誰と結婚したのだ」

「えぇっ!?」

「なんだ。本当だったのか」

「カマを掛けたのか!」

「紅葉は三ヶ月前と比較しても、随分変わっている。何かあったと考えるのが自然だろう」

「………」

「まあ、話したいときに話してくれればいい」

「…ああ」


そこで一度大きく羽ばたいて、火の粉を散らす。


「じゃあな。またあとで」

「あ、そうだ」

「ん?」

「子供たちに会ってやってくれ。さっき、飛んでるのを見てたんだ」

「どこにいるんだ?」

「さあな。城の中だろ」

「…まあ、善処しよう」

「うん。ありがとう」

「それじゃあ」

「またあとでな」


小さく頷くと、そのまま屋根縁の柵を軽く蹴って飛び立った。

羽ばたきながら大きく旋回して、雲の上へと上っていく。

…今すぐにでも会いにいってほしかったんだけど。


「はぁい、衛士長さん。元気だったぁ?」

「お陰様でな」

「そう。よかったわぁ」

「紅葉さま、お久しぶりです」「久しぶり~」

「久しぶり」


続いて部屋に入ってきたのは、あの馬車に乗っていただろう三人。

全く変わりはないようで何よりだ。


「どうだ?ラズイン旅団は」

「ふふ、順調よぉ」

「クーア旅団は?」

「んー、なんのことかしらぁ?」

「義賊なんて言ってもな、犯罪は犯罪だ。捕まれば重刑は免れない」

「要するに、捕まらなければいい話でしょ~?」

「長之助。口が軽いと信用されないぞ」

「オイラは紅葉のことを信用してるから、口が軽くなるんだよ~」

「オレがお前たちを捕まえないという保証はない」

「そうだけどね」


そう言って、長之助は壁を背もたれにしてドカリと座り込む。

タルニアも、窓の縁、私の隣に座ってゆっくりと扇子を扇ぐ。


「クノもどこかに座れよ」

「いえ。それより、タルニアさま、長之助。客人と言えど、断りもなく座り込むのは紅葉さまに失礼かと」

「いいじゃない。私と紅葉姉さまの仲なんだから」

「親しき仲にも礼儀あり。気心の知れ合った友人同士であっても、常に礼儀を忘れない。人間として、当然の心構えです」

「相変わらず堅苦しいな、お前は」


立ち上がってクノの方へ行く。

驚いたように少し後ろへ下がったところを逃がさないように、手を掴んで。

そのまま手を引いて窓に戻り、タルニアの横に無理矢理座らせる。


「い、紅葉さま!?」

「今日は無礼講だ。楽しんでいってくれ」

「し、しかし…!」


タルニアをチラチラ見ながら顔を真っ赤にさせる様子は、すごく面白くて。

ふふ、やっぱりクノはからかい甲斐があるな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ