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「朝が来て、昼も過ぎたら、夜が来る。夜が更けたら、また朝が来て」

「何を言ってるんだ。お前は」

「短歌調に今の気分を」

「憂鬱なのか?」

「え?なんで?」

「自分たちが何をどうしようとも、時間はひたすら過ぎていく。あぁ、無常だなぁ…とか詠んだんじゃないのか」

「違うよ。朝が来れば昼が来る。そしたら夜が来て、また朝が来る。でも、同じ日は二度と来ないんだ。だから、一日一日を大切にしていかないといけないんだなぁ…って意味だよ」

「…深読みしすぎなんじゃないのか、それは」

「詠んだ人の本当の気持ちなんて、詠んだ人にしか分からないんだよ」


それでも、詠んだ人にしか分からないような解釈では短歌として成り立たないだろう。

短歌自体、なんのヒネリもないし。


「はぁ~、お腹空いたなぁ~」

「自分で何か作ればいいじゃないか」

「えぇ~…。当番じゃないのに~…」

「お前は当番じゃなければ働かないのか」

「当番のときだけでも働く分、まだマシだよ」

「当番でも働かないやつがいるのか」

「お姉ちゃんは、当番すらないよね。毎日暇そうで良いなぁ」

「………」

「あ…ごめんね…」

「いや、暇なのは事実だ。それは否定しようがない」

「でも、お姉ちゃんはいつもみんなの支えになってくれてるよ。お姉ちゃんがいるから、みんな頑張れるんだ」

「うん。ありがとう」

「だから…暇で羨ましいなんて言って、ごめんね」

「ああ」


灯をそっと抱き締めてやると、パタパタと尻尾を振って応えてくれた。

…みんながそう思ってくれるのは嬉しい。

それでも、隊長として何かもっと出来ることがあるんじゃないのかな。

やはり、じっくり考える必要がありそうだ。


「す、すみません!寝坊しまして!」

「もぅ…遅いよ!」

「はい!今すぐ作りますんで!」


寝坊助の大助が、ようやく到着。

私のお腹の虫も鳴き出したようだ。


「ホント、寝坊助だよね」

「縁に起こしてくれるように頼んでるんですが…」

「自分で起きる訓練をしないとな」

「は、はい…」

「早くしてね」

「あ、はい。仕込みは昨日のうちにしてありますから」

「良い心掛けだけど、寝坊をしなかったらもっと良いのにね」

「…猛省します」

「ホントだよ~」


灯は催促するように、わざと尻尾をバタバタと振って。

大助はそれに圧されて、作業の手をさらに速める。

…灯の尻尾を叩いて止めると、不機嫌そうに唸り始めた。


「子供だな、お前は」

「だって、お腹空いたんだもん」

「まったく…」

「お腹空いたな~。朝ごはん~。美味しい朝ごはん~」

「…また子供が増えたぞ」

「ん?」


奇妙な歌を歌いながら厨房に入ってきたのは桜。

まだ出来てないってことが分かったら…


「あれ?まだなの?」

「はい…すみません…。寝坊しまして…」

「えぇーっ!」

「贅沢を言うな。朝ごはんが食べられるだけ有難いと思え」

「むぅ~…」


灯に加えて桜まで唸り始める。

こいつらは…。


「姉さま、おはよ」「ねーね、おはよ~」

「おはよう。よく迷わず来れたな」

「うん。良い匂いがしたから」

「そうか。まだもうちょっと掛かるみたいだから、座って待ってろ」

「うん」


祐輔は私の隣に、夏月は膝の上に座る。

夏月の頬を引っ張ってやると、嬉しそうに足をバタバタさせて。


「ん~」

「夏月の頬っぺたは柔らかいな」

「えへへ」

「頬っぺたではお腹いっぱいにならないよ」

「誰もそんなこと言ってないだろ。それと、少しはこいつらを見習え。何も言わないで待ってるじゃないか」

「むぅ…」


一瞬、祐輔の方を見て、桜はそっぽを向いてしまった。

そして灯はというと、祐輔の尻尾で遊んでいる。

…どっちが歳上か歳下か分からないな。


「はい。出来ましたよ」

「はぁ~、やっと来たよ~」

「割と早かったな」

「ほとんど温めるだけでしたから」

「いただきます」「いただきま~す」

「ねーね、ふーふーして~」

「はいはい」


お粥を少なめにすくい、冷ましてから夏月の口へと運んでゆく。

夏月は大きく口を開けて、それを食べる。


「美味いか?」

「うん!」

「ふふ、そうか」

「ねーね、つぎ~」

「夏月は甘えん坊だな」

「えへへ」


夏月を撫でていると、祐輔がジッとこちらを見ていて。

引き寄せて抱き締めると、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。



窓から、外門の見張りと何かをして遊んでいるセトが見えた。


「んー」

「どうした?」

「ねーねーは、雨、すき?」

「そうだな…。好きなときもあるけど、嫌いなときもある」

「葛葉は好きだよ」

「へぇ~。なんでだ?」

「雨はね、音がするの。タムタ、クルク、タムタ、クルク…って」

「ほぅ。タムタ、クルクか」

「うん。それでね、おはなしするの。タムタ、クルク、タムタ、クルク」

「雨はなんて言ってるんだ?」

「わかんない。でもね、おはなしするの」

「そうか。じゃあ、私もお話ししてみようかな」

「うん!」


タムタ、クルク…か。

知ってか知らずか、素晴らしい偶然だな。

タムタ、クルク、タムタ、クルク…と繰り返す葛葉の頭をそっと撫でる。

…手の動きに合わせて尻尾がゆっくりと動くのが面白いな。


「雨 雨 雨が降る

 タムタ クルク タムタ クルク

 お話し お話し 楽しいな

 タムタ クルク タムタ クルク

 ゆっくりお話ししようよ 今日は雨

 ゆっくりお話ししようよ タムタ クルク

 雨 雨 今日は雨」

「光は歌姫だな」

「えへへ。でも、響の方が、もっと、上手だよ」

「そ、そんなことないよ」

「ふふ、二人とも上手だよ。だから、もっと聴かせてほしいんだけどな」

「葛葉もききた~い」

「うん!」「えへへ」


光の歌声は丸く優しく。

響の歌声は元気でハリがある。

そんな二人の歌声は互いに混ざりあって。

二人は互いに信頼しあって。

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