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日も暮れて、もうそろそろ夕飯かという時間。

下弦の月だから、昇る時間も遅い。

まだ…もうちょっと大丈夫だな。


「姉ちゃん、どうする?」

「何がだ」

「みんなと一緒に食べる?」

「ああ。なんでそんなことを聞く?」

「あ…いや…」

「…心配するな。みんな、オレの病気のことは知ってくれている。それに、そんなことを気にかけるようなやつらじゃない」

「そう…」


風華とともに広間へと向かう。

そこでは、すでに戦が始まっていて。


「あぁ!それ、望のだよ!」

「食べるのが遅いのが悪いんだよ~」

「むぅ~…そりゃ!」

「あ!またボクの盗った!」

「油断してるのが悪いの!」

「ふ、二人とも、ケンカしないで~っ」


ふふ、やってるやってる。

大勢で食べる食事というものは、本当に楽しいものだ。


「あ、隊長!ここ、空いてますよ~」

「隊長の分は避難させてありますから!」

「そうか。ありがとう」

「ふふ、人気者だね」

「そうか?」

「うん」


そう言って、風華は利家の横に座り、食べ始める。

…私も食べるかな。


「いろはねぇ の、もーらいっ!」

「甘いな」


桜の箸は空を掴む。


「あぅ…。まだまだ!」

「望も~」

「二人まとめてかかってこい」


…戦いは熾烈を極めた。

桜を止めてる間に、望が仕掛けてくる。

それを紙一重で防ぐと、今度は共同戦線を敷く。

この二人、ホントに息ぴったりだな。

まあ、机の上に登っているとかは気にしない。

たまに響が割り込んできたりしたが、最終的には、四本の箸が宙を舞うことになった。


「あぁ…」「むぅ…」

「勝負ありだな」

「はぁ…全然敵わなかったよ…」

「でも、次は負けないからね!」

「望むところだ」

「…でも、最後はアレだよね」

「いきますか!」

「せーのっ!」

「「「ごちそうさまでした!」」」


広間の全員の心がひとつになった瞬間だった。



さっきまでの興奮もだんだん落ち着いてきた。

衛士たちは各々の部屋に戻り、ゆっくり休んでいることだろう。

私は、調理班が片付けをしてくれている音を聴きながら、外の風景をぼんやりと眺めていた。


「隊長…そろそろ…」

「ああ。分かってる。ありがとう」

「はっ…」


夕食が済んだあとには、必ず外の風景を眺めるようにしている。

たとえ、満月の日であろうと。

不思議と、この夜という時間帯、あるいは、月というものに嫌悪の念を抱くことはなかった。

愛おしさを覚えるくらいだ。

この病気のお陰で、普段触れられない、人の心の温かさを感じることが出来る。

…いつの間にか、私は心待ちにするようになっていた。

この、闇の世界を…。


「…姉ちゃん」

「ああ。もう寝ようか」

「うん…」


風華は、私の手を取り、先導してくれる。

そんなことをしてもらわなくても、自分の部屋くらいには行けるんだけど…。

でも、風華の厚意に甘えさせてもらう。


「どうしたの?」

「ん?何が?」

「姉ちゃん、なんか嬉しそう」

「…そうだな」


温かくて柔らかい風華の手。

今まで、感じたことのない感触。

衛士のみんなも、案内役を買って出てくれた。

それは、ありがたいことではある。

けど…寂しかった。

みんな、割れ物を扱うように、慎重になりすぎていた。

贅沢を言ってはいけないんだけど。


「でも、風華は違う」

「え?」

「私を、私として扱ってくれる。目が見えない私としてではなく、あくまで、私として」

「…当たり前じゃない。姉ちゃんは姉ちゃんだもん。月光病であろうとなかろうと。他の誰かに変わったりはしないでしょ?」

「うん」


そう…。

他の誰でもない。

私は私なんだ。


「ところで、なんで"私"なの?さっきまで"オレ"だったじゃない」

「あ…いや…」

「ふふん。意外と姉ちゃんって…」

「もう!風華!」

「あははっ、内緒にしておいてあげるねっ!」


ホント頼むよ、風華…。

どうやら、心の声が漏れてしまったようです。

意外と紅葉は、他の子たちよりも女の子なのかもしれません。

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