表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/578

76

「姉さま、起きて」

「ん…?」

「姉さま」

「祐輔か…」


揺さぶられて起きると、祐輔が腹の上に乗っかっていて。

さすがに、葛葉より重たいな…。


「起きて、姉さま!」

「あー、分かった分かった…」


祐輔を横にどかせて身体を起こす。

まだちょっと眠たい…。

でも、こちらを見て首を傾げる祐輔を見て、起きないわけにはいかない。

頭を撫でてやると、ニッコリ笑って応えてくれた。


「姉さま!夏月の様子、見に行こうよ!」

「ああ。そうだな」


風華は…もう医療室に行ったのかな。

それとも、朝ごはんだろうか。

どちらにせよ、少なくともこの部屋にはいなかった。


「夏月、起きたかなぁ」

「さあな。でも、悪くはなってないはずだ」

「うん!」


もう一度、頭を撫でてやって立ち上がり、着物の乱れを粗方直す。

上着を羽織って帯を締め、準備が出来ると、祐輔は手を握ってきて。

ふふ、とんだ甘えたを拾ってきたものだ。


「よし、行こうか」

「うん!」


部屋を出てすぐに、夜勤組が大欠伸をしているところに出くわした。


「あ…隊長…。すみません、お見苦しいところを…」

「いや。ご苦労さま。今日はゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます…ふぁ…」

「はは、締まらないなぁ」

「はい…すみません…。では、失礼します…」


そして、部屋とは正反対の方向へ歩いていった。

…どこに行く気なのかな。


「ところで祐輔。昨日の昼に黙っていたことは、夏月のことだったのか?」

「うん…」

「なんで正直に言わなかったんだ」

「牢屋に入れられるって思ったから…」

「………」


たしかに、普通なら城に忍び込むのは大罪だ。

ここも、この前までそうだった。

…極端だったけど。

即刻死刑は有り得ないけど、長期の禁固刑は免れないだろうな。

それだけの危険を冒してまで、その日の生命を繋ぐだけの食料を盗みに入る。

こんなに小さな子が。


「姉さま…ごめんなさい…」

「ん?あぁ、いや、謝らなくて良いよ」


黙りこくっていたのを、怒ってるんだと思ったらしい。

怯えた顔をして、窺うようにこちらを見ていた。

…お詫びと言ってはなんだけど、空いてる方の手でゆっくり頭を撫でてやる。

すると、少し安心したような表情を見せてくれた。


「えへへ」

「誰も、ここでは祐輔たちを牢屋に入れようとする人はいない」

「…うん」

「だから、安心して。ここは、祐輔たちの家だから」

「うん」


少し、握る手に力が入ったようだった。

そして、医療室に到着。

物音が全くしないので、そっと戸を開けてみる。


「あ、姉ちゃん。おはよ」

「おはよう」

「夏月は?」

「うん。夜中に一回、目が覚めたんだって。でも、夜だって分かったら、また眠ったって」

「夏月、起きたのか!?」

「シーッ」

「あぅ…」


夏月だけでなく、望やチビたちもまだ寝ていて。


「夏月…」

「そのうち起きてくるから、ね?朝ごはん、食べにいこ?」

「うん…」


夏月を見て、逡巡しているようだった。

風華は祐輔に近付いて、そっと肩を抱く。


「夏月はこの子たちに任せて」

「………」

「ふふ、大丈夫だよ。この子たちは、自慢の妹たちなんだから」

「…うん。分かった」

「よし。じゃあ、行こうか」

「うん!」「お腹空いたぁ」


安らかな寝顔のみんなを見て。

そして、朝ごはんへ。



厨房では、灯がセトと話し込んでいた。


「でね、お姉ちゃんが、汚い部屋は嫌だーって飛び出していったんだ」

「………」

「ちょっと物が散らかってるだけなのにね」

「ほぅ。ちょっと、ねぇ」

「ひゃぁ!」

「あのときは酷かった。数日オレが留守にしてた間に、よくもまあ。あの汚い部屋にいて、よく調理班に入ろうと思えたな」

「い、今は綺麗だもん…」

「美希が片付けてるからだろ」

「そ、そんなこと…」

「ある。覚書をしては散らかし。服を脱いでは散らかし。とにかく、灯は散らかし上手だ」

「みんなが綺麗好きすぎるんだよ!」

「そんなことないだろ。私くらいで普通だと思うけど。でだ。朝ごはんか?」

「ん?灯が当番じゃなかったのか」

「違うよ。今日は美希」

「ああ。やっと決まったみたいだから」


そういえば、灯は敬語を使ってなかったな…。

変なところだけ、きちんとしてるやつだ。


「今日の朝ごはんは、胃に優しい元気の源、お粥だ。山菜風にしてみた」

「ほぅ」

「さあ、どうぞ召し上がれ」


美希に差し出された器には、なんとも豪快なかんじのするお粥が。

山菜は丸々そのまま入ってるし、匙も投げ入れられたかのようだった。


「いただきま~す」「いただきます」

「いただきます」


匙を取り、食べ始める。

ていうか、私のだけ金匙だな…。

別に良いんだけど…。


「ん~、美味しいね!」

「ああ」


豪快な見た目とは裏腹に、とても手の込んだもので。

このお焦げは別々に作ったものだろうな。

お粥の食感を上手く補っている。


「美希は、料理が上手いんだな」

「そ、そうかな…」

「しかも、勉強熱心でね。きっと、一流の調理師さんになるよ、美希は」

「………」


顔を赤くして俯く。

嬉しいのと、照れるのと。

あともう少し。

祐輔は、夢中になって食べていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ