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負担が掛からないようにと、祐輔の夕飯はみんなが部屋に戻ってからだった。


「あーんして」

「………」

「いらないの?」

「あーん…」

「えへへ」


葛葉が出す匙を、恥ずかしそうにくわえ込む。


「わ、私にも…」

「はい、美希もあーん」

「あーん」

「おいしい?」

「うん。葛葉が食べさせてくれたら、なんでも美味しいぞ」

「ん~」


美希に撫でてもらって、嬉しそうに目を細める。


「はぁ…。それ、祐輔の分だからな」

「あ…すまない…」

「あーんして~」

「…自分で食べられるから」

「ダメ。葛葉が食べさせてあげるの」

「うぅ…」


葛葉は断固として匙を渡そうとしない。

…自分の妹とさして変わらない年齢の女の子に食べさせてもらうというのは、やはり気恥ずかしいのだろうな。

しかも、こうやって私や美希が見てる前で。

こちらをチラチラ見て、顔を真っ赤にさせている。


「ふふ、こっちばかり見て。オレに食べさせてほしいのか?」

「えっ、あ…うぅ…」

「ねーねーがやるの?」

「そうだな…」


葛葉から匙と器を受け取り、祐輔を見る

祐輔は俯いてしまって、さっきより紅潮しているようだった。


「な、葛葉は私のをやってくれ」

「んー。いいよ」

「よしっ!じゃあ、何か食べるもの貰ってくる!」


そして、バタバタと厨房へ駆けていった。

…祐輔の恥じらいを、半分ほど美希に移すことは出来ないんだろうか。

今度、風華にでも聞いてみよう。


「さあ、続きだな」

「………」

「ほら、あーんして」

「あ、あーん…」

「なんだ。素直だな」

「………」


匙を口の中に入れてやる。

閉じたところで引き抜くと、すぐにまた俯いてしまった。


「美味いか?」

「う、うん…」

「そうか。良かった」

「あ、あのっ!」

「ん?」

「夏月…ありがとう…ございました…」

「なんだ。そんなことか。ほら、あーんして」

「う…むぅ…」


何か言いかけたところに、匙を押し込む。


「あのっ!」

「次だな」

「んぅ…」


間髪入れず、次を。


「葛葉!貰ってきたぞ!」

「うん」


美希は葛葉を膝の上に乗せると、貰ってきたお粥を匙ですくって、葛葉の口へ運んでいく。

葛葉はそれを大きな口を開けて美味しそうに食べる。

…さっき言ってたのと逆じゃないだろうか。


「………」


そして、何か言おうとしてたことも忘れて、それをジッと見つめる祐輔。


「あれ、やってほしいのか?」

「え、えぇっ!?」

「葛葉、あーん」

「あーん」

「美希、葛葉。オレたちは先に戻ってるよ」

「ああ。分かった。ほら、葛葉。次だぞ」

「うん」


美希の返事はなんともなおざりだったけど。

広間を出て、部屋へ向かう。

祐輔は素直に付いてきていたが、ずっと俯いたままだった。

結局、部屋に着くまで全く無言で。

いちおう部屋の中を見てみるけど、やはり誰もいなかった。

…今日、干したのかな。

きっちり並べられた布団の上に正座して膝を叩く。


「ほら。二人だけだから、恥ずかしくないだろ?」

「…うん」


トテトテと歩いてきて、ちょこんと膝の上に座る。


「えへへ」

「急に可愛くなったな」

「ねぇ、姉さまって呼んでいい?」

「ああ。なんとでも呼べばいい」

「ん~」


見たところ、響や光と同じくらいだ。

まだまだ甘えたい年頃なんだろう。

だけど、甘える先がいなかった。

器からお粥をすくって、祐輔の口元へ持っていく。

すると、今度は純粋に。


「美味いか?」

「うん!」


今夜だけは、兄という荷を下ろして。

年相応の小さな男の子として。



お腹いっぱいとなった祐輔は、疲れもあるんだろう、すぐに舟を漕ぎ始めた。


「ほら。布団で寝ろ」

「姉さま…」

「どうした?」

「一緒に寝てくれる…?」

「ああ」

「えへへ…」


膝から下りて、布団に潜り込む。

私もすぐ隣に寝転んで。


「姉さま…」


服を握って、ピッタリと身体を寄せる。

その頭をゆっくり撫でてやり


「お月さま こんばんは

 今日はとても良い日だったよ

 だから 僕は眠る

 明日もきっと良い日だから

 おやすみなさい また明日

 お月さま また明日」


唄い終わる頃には、祐輔は深く息をしていて。


「寝ちゃった?」

「ああ」

「望たちは、医療室で寝るんだって。いつ夏月が目覚めても良いようにって」

「そうか」

「葛葉は美希と灯の部屋に行ったみたい」

「風華はどうするんだ?」

「私はここで寝ようかな。夏月のところには、兄ちゃんもいてくれてるし」


そう言って、祐輔の横に寝転ぶ。

そして、そっと祐輔の頭を撫でているようだった。


「ふふ、可愛い」

「そうだな」

「昼は虚勢を張ってたのかな…」

「さあな。今、特別に甘えただったのかもしれない」

「そうだよね…。まだまだ甘えたい時期だもんね…」

「風華も、甘えていいんだぞ?」

「うん。でも、大事に取っておくよ。本当に甘えたいときまで」

「ああ。賢明な判断だな」

「ふぁ…。祐輔見てたら、なんだか私も眠たくなってきた…」

「じゃあ、お休み。風華」

「うん…。お休み…」


そのまま、風華も眠りへ落ちてゆく。


「ふぁ…あふぅ…」


そして、私も…。

お休み…。

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