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「ジッとしてないと上手く出来ないだろ」

「ん~」


葛葉の尻尾を押さえて、櫛を入れる。

通すたびに金色の毛がキラキラ輝いて、本当に綺麗。


「鼈甲の櫛なんて、どこから持ってきたんだ?宝物庫にはなかったと思うけど…」

「もらった~」

「えぇっ!?誰に!?」

「ルウェ~」

「ほぅ。なんでこんなもの、持ってるんだろうな。パッと見たかんじ、本物だけど…」

「返してきなさい!」

「うぅ~…ヤ~…」

「葛葉!」

「むぅ~…」

「貰ったものは仕方がないよな。返す方が失礼だ」

「でも…!」

「じゃあ、これが飴なら返せと言ったか?」

「そ、それは…」

「じゃあ、なんでこれは返せと言うんだ」

「そんな高価なもの、貰えないよ!」

「つまりそれは、贈り物をお金で勘定してるということだ。安い飴だろうと高い櫛だろうと、ルウェは葛葉にあげたかったからあげた。その気持ちが大切なんじゃないか?その気持ちを無下にするようなことを、葛葉にさせようとしてるんだ」

「でも…」

「もし、ルウェが勝手に持ち出して葛葉にあげたなら、向こうから返してくれと言ってくるはずだろ?そのときに返せば済む話だ。心配なら確認を取れば良い。今日、市場に行くんだから、そのときにでも」

「むぅ…」

「ねーねー、早く~」

「はいはい」


スーッと櫛を通す。

葛葉は機嫌良さそうに足をバタバタさせて。

それでも、風華は難しい顔をしていた。


「ふぁ…」

「退屈か?」

「うん…。だって、読めない字ばっかりだもん…」

「風華に教わればいいだろ」

「んー…面倒くさい…」

「まあ、桜には絵があるからな」

「絵?」

「あぁーっ!なんでもないよ!」

「……?」

「もう!いろはねぇ!余計なこと、言わないでよ!」

「んー、何か余計なこと、言ったかな?」

「言ってない~」

「そうだよな。葛葉は良い子だなぁ」

「えへへ」

「さあ、尻尾、終わったぞ」

「えぇーっ!」

「葛葉がこのまま一日良い子にしてたら、風呂のあとにもしてやるから。それでいいな?」

「うん。良い子にしてる!」


振り返ってギュッと抱き締めてくる。

その頭を優しく撫でてやると、嬉しそうに額を擦り付けてきて。


「ふぁ…」

「寝たらどうなんだ?」

「うん…。作戦はさっきの通りで良いんだね…」

「作戦というほどでもないけどね…」

「まあいいだろ」

「ふむぅ…。分かった…。お休み…」

「ああ。お休み」「ちゃんと起きなさいよ」


そして桜は、ユカラの横で丸まって眠ってしまった。

…葛葉もまた寝てるし。

ちゃんと膝に乗せて、お尻のところを支えて。


「あ、また寝ちゃったんだね」

「昼寝が好きなんだろ」

「日向ぼっこも好きだよ」

「ふふ、そうだな」

「失礼しまぁす」


と、縁が入ってきた。


「桜ちゃんの手紙…あれぇ?寝ちゃってますねぇ」

「桜が手紙?誰に?」

「ふふふ。それを聞くのはぁ、野暮というものですよぉ」

「うっ…」

「悪いけど、桜の部屋に届けておいてくれるか?」

「はぁい。了解しましたぁ」


そして、ゆったりと敬礼をして医療室を出ていった。


「えらくおっとりした人だったね…」

「ああ。でも、仕事の速さでは伝令班の中でも一、二を争うんだぞ」

「え?」

「縁は最速で、ヤマトまでの往復が半刻だった」

「えぇっ!?」

「まあ、見た目や喋り方で人は判断出来ないということだな」

「そうだね…」


私にも、あのゆったりおっとりの縁がどうやったらあんな速さを出せるのか分からない。

でも、縁は確かに猛烈な速度で仕事をこなす。

それが真実。

と、バタバタと足音が近付いてきて


「お姉ちゃん!」

「望?」

「大変だよ!」

「どうしたの!?」

「お昼ごはんが…ないの!」

「…はぁ?」


…たしかにそれは、由々しき事態だ。



話を聞くと、厨房で仕込んでいた料理が、少し目を離した隙に消えてしまったらしい。


「で、昼ごはんはちゃんと作れるんだな?」

「はい…。手の込んだのは無理ですが…」

「それなら良い。万事解決だ」

「何も解決してないよ!」

「大声を出すな。葛葉が起きるだろ」

「何も解決してないじゃない」

「腹の減った誰かが綺麗に食べた。それじゃダメなのか?」

「その誰かが問題なんでしょ。警備的な問題でもあるし」

「警備は万全だ。その網を潜ってくるやつなら、簡単に捕まりはしないだろ」

「はぁ…。じゃあ、このまま放っておくの?」

「ん?まあ、追いかけたいなら追いかけろ」

「どうやって」

「望に連れていってもらえ。まだ、だいぶ匂いは残ってるぞ」

「うん。残ってるよ」

「じゃあ、行こうよ」

「分かった~」


二人はそのまま匂いを追って、厨房を出ていった。


「ホントに、誰なんでしょうかね…」

「本人に聞いてみろよ」

「本人?」

「二人が追っていったのは、入ってきたときの匂い。そして、出ていった匂いはない」

「えぇ?厨房にいるってことですか?」

「ああ。例えば、保管室の中とか」


ギクリという音が聞こえた気がした。

分かりやすいやつだな。

…望にはもう少し、気配を察知する技を教えてやらないとな。

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