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うっすら目を開ける。
…もう夜は明けたらしい。
「いろはねぇ」
「うわっ!」
「何びっくりしてるのさ~」
「いるならいるって言ってくれ…」
「声掛けたじゃない」
「視界の外からいきなり声を掛けるやつがあるか!」
「それよりさぁ、朝ごはん、食べないの?冷めちゃうよ?」
「はぁ…。今何時だ」
「もうすぐ巳の刻だよ」
「はあ!?」
「な、何?」
「そんな…思いっきり寝坊じゃないか!」
「そ、そうなの?」
まずい…。
急いで服を着替えて、部屋を出る。
「あ、待ってよ~!」
待ってられるか!
あぁ!もう!
なんで寝坊なんかしたのかな…。
「メシ!」
「あ…はいっ!」
厨房に入ってすぐに、大声で怒鳴る。
って、ここの連中に当たっても仕方ないよな…。
「…ごめん」
「あ…いえ…」
しばらく、トントンとまな板を叩く音が響いた。
「あ…あの…」
「どうした」
「いえ…その…きょ、今日は非番なんじゃないんですか…?そんな…制服なんて着て…」
「非番!?誰がそんなことを言ったんだ!」
しまった…。
またやってしまった…。
「あ、あの…風華さんが…」
「風華が?」
「はい…」
非番?
何を考えてるんだ…風華は…。
「あ、あの…」
「なんだ」
「朝食の支度が整いましたが…」
「そうか…。いただこう」
お粥か。
珍しい。
栄養補給にはもってこいだけどな。
「美味しい」
「そ、そうですか!ありがとうございます!」
「美味しい料理は心を豊かにしてくれる」
「は、はいっ!精進します!」
「ごちそうさま。ありがとう。美味しかった」
「はいっ!」
嬉々とする源次を残し厨房を後にして、医療室に向かう。
「い、いろはねぇ…どこにいたのよ…。探したじゃない…」
「ん?厨房だけど」
「もう…」
「医療室に行くんだが、桜も行くか?」
「うん。でも、どうしたの?おなか、痛いの?」
「桜じゃないんだから」
「むぅ~!どういうことよ!」
「食べ過ぎで腹痛とか起こしそうだからな、桜は」
「そんなこと…ないもん…」
あるんだな。
まあ、食べられるうちにたくさん食べておかないと。
…と、そんなことを話してる間に医療室の前まで来た。
「入るぞ。風華」
「あれ?姉ちゃん、もう起きてきたの?」
「どういうことだ」
「あ…ううん…なんでもない」
「ふぅん?」
明らかに動揺してるけど…。
何か隠し事、してるのかな。
「そういえば、今日、オレが非番だって言ったんだってな」
「あ…うん…」
「なんでそんなことを言ったんだ?」
「だって…姉ちゃん、ずっと働き詰めだって聞いたから…」
「余計な心配は無用だ」
「余計じゃない!」
「さ、桜…」
「衛士さんから聞いたよ!いろはねぇ、最近全然寝てないって!それに、私を逃がしてくれたときだって、揺すっても叩いても起きなかったじゃない!」
「そんなことをしてたのか?」
「あぅ…。そ、そんなことはいいの!みんな、心配してくれてるんだよ?ちょっとくらい、甘えたっていいんじゃないの?」
みんなのことが心配だったから、私が頑張ってた。
みんなに、少しでもゆっくりしてもらいたかったから、一所懸命に働いてた。
でも、それは私の独りよがり…。
みんなに、心配を掛けてた。
みんなのことがよく見えてなかったんだ。
「…ごめん」
「違うでしょ?」
「…そうだな。…ありがとう」
「うん。どういたしまして」
「桜が言ってどうするのよ」
「じゃあ、誰が言うの?」
「そりゃ、兄ちゃんでしょ」
「犬千代が?」
「うん。最初に衛士さんから話を聞いたの、兄ちゃんだし。それに、休暇届は兄ちゃんの管理だしね」
「名前、紅葉。所属、戦闘班。役職、衛士長。衛士各員に、五日に一日の休暇を賜りたく候。これは休暇届というのか?風華?」
「言うんじゃない?」
犬千代が、またいつの間にか入り口に立っていた。
「これはむしろ、法案改正要求だろ」
「そうなの?私は出してないから分からないよ」
「明らかに風華の字だろ」
「そう?」
「…まあいい。紅葉。この書状、確かに受け取った。議会召集まで、とりあえずこれは有効にしておく」
「うん。ありがと」
「…まあ、今日はゆっくり休め」
「分かった」
そしてまた、音もなく去っていく。
「どうしたの?いろはねぇ。顔、赤くない?」
「え…そ、そうか?」
「うーん…そうだね…。あ」
「あ?」
「ううん、なんでもない」
「えぇ~!何なの、風華!気になる!」
「なんでもないよ」
顔…赤いのかな…。
それに、風華があんな止め方をしたから、桜、すっごく気になるみたい。
しつこく問いただしては、上手くはぐらかされていた。
昼ごはんも済み、もうそろそろ太陽も傾きだした。
未の刻ってところかな…。
こんなにのんびりと日向ぼっこをしたのは初めてじゃないだろうか。
「むぅ…お母さん…」
隣では、望と響が可愛い寝顔を見せてくれている。
…それにしても、やっぱり母親が恋しいのかな。
どこから来たのかとか、全く話してくれない…というか、覚えてないみたいだ。
気が付けば、あっちへウロウロ、こっちへウロウロの生活だったらしい。
「あ…」
目を開ける望。
「お母さん…」
「お母さんが恋しいのか?」
「ううん…。違う…。お母さん、ここにいる…」
こちらに擦り寄ってきて、服をギュッと掴む。
「望の…響の…お母さん」
「え?オレでいいのか?」
「うん…」
「そうか」
望をさらに引き寄せ、強く、抱き締めてやる。
母親の温かさ。
この子たちの母親の代わり…ううん、母親として、その温かさを教えてあげたい。
うん。
見直してると何か変なところがあったので、修正しました。
ブログの方も修正しないと…。