表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/578

67

日もだんだん傾いてきて、木の影が広場の半分ほどを覆っている。


「もうそろそろかな」

「ああ」


ひとつ、笛を吹く。

今日は一日、ルウェが腹を壊したこと以外は平和だった。

遠足としては理想だけど…


「家に帰るまでが遠足、だもんね」

「ふふ、その通りだ」


本当に気を付けないといけないのはこれからだ。

そのためにも、もう一度気合を入れておく。

みんなが無事に帰れるように。



四、八、十二…。

うん、全員揃ってるな。


「注目~。衛士長から話がある」

「「「………」」」


朝のが効いてるのか、少し疲れたのか。

とにかく、みんなはすぐに静かになった。

…ていうか、また私なんだな。


「よし。衛士長、どうぞ」

「…今から帰るけど、気を抜いちゃダメだ。最後の最後で怪我なんかすると、一気に台無しになるからな。帰りだからこそ、しっかりと気を引き締めて。分かったか?」

「「「はぁい」」」

「よし。じゃあ、帰ろうか」


忘れ物は…ないな。

笛も全員分回収したし。

あとは…


「桜!起きなさいって!置いて帰るよ!」

「………」

「猫の姉さま、やっぱり寝坊助なんだぞ」

「はぁ…。仕方ないな…」


荷物を一旦置き、桜を背負う。

相変わらず、羽根のように軽くて。


「あ、じゃあ、荷物はあたしが持つね」

「え?あぁ、すまない」

「良いの良いの」

「まったく…。桜は何しに来たんだか…」

「きっと、寂しかったんだよ」

「…そうなのかな」

「うん」

「おーい、行けるか?」

「ああ。大丈夫だ」

「よし。それじゃあ、出発進行!」

「「「おぉーっ!」」」


桜は、何かムニャムニャと寝言を言っていて。

無防備な耳を少し触ってやると、煩そうにピコピコと動かす。

今は眠りが浅いのかな。

でも、目を開ける気配は全くない。


「何やっても起きないでしょ」

「ああ。ある意味、才能だな」

「良いなぁ。裁縫の才能に、寝坊の才能」

「寝坊の才能は良いのか?」

「うん。だって、姉ちゃんにおんぶしてもらえるもん」

「それは今日だけだ。普段なら、殴ったり蹴ったりして無理にでも起こしてる」

「ふふ、そうかもね」


ユカラは、桜の鼻をつまんで、優しく微笑む。


「うぅん…」

「桜の寝顔って可愛いよね。なんか、こう…おぼこくて」

「元からだろ」

「あはは、それもそうだね」

「何話してるの?」

「ヤーリェの寝顔は可愛いなって話」

「み、見てたの?」

「ああ。バッチリな」

「むぅ…」


怒ったような恥ずかしいような、そんな顔をする。

そして、少し機嫌が悪そうにバタバタと尻尾を振る。


「"日の御子"ヤーリェ。そんな顔してると、ヤンリォが哀しむぞ」

「でも…」

「はい、笑顔笑顔。ヤーリェは、笑顔が一番素敵だと思うよ」


ヤーリェの頬を揉んで、笑った顔にさせる。


「えへへ」

「そうそう」


ユカラに撫でられ、尻尾もパタパタとご機嫌さん。

身体全体で感情を表す天才だな、ヤーリェは。


「あぁっ!ヤーリェだけズルい!わたしも!」

「はいはい…」

「ん~」


響の相手もして。

いや、響だけじゃなく、ワラワラと他の子も集まってきた。


「こら、遅れてるぞ」

「ほら。こっちの美希お姉ちゃんも撫でてくれるよ~」

「えぇっ!?」

「みきねぇも?」「大好き~」

「お、おい。歩きにくいって!」

「えへへ」


困ったような顔をしてても、やっぱり嬉しそう。

純粋な子供だからこそ、純粋に接することが出来る。

美希とユカラ。

二人の笑顔は、きっと、心からの笑顔。



ルウェとヤーリェとは、市場の真ん中あたりで別れて。

そして、向こうの山に太陽が沈むかどうかというところで城に到着。

広場に入ってすぐに、セトがなりふり構わず風華に飛びついてきて。


「グルル…」

「痛いよ、セト」

「ウゥ…」

「うん」

「ゥルル…」

「何もなかったよ。みんなで無事に帰ってきた」

「ただいま、セト」「ただいま~」

「オォン」


チビたちはセトに群がって、無事の帰宅を告げる。

セトも、それに応える。


「あ、みなさん。お帰りなさい」

「ただいま」「ただいま帰りました」「ただいま~」

「先にお風呂にしますよね?」

「そうだな」

「沸いてますんで、どうぞ」

「ああ。ありがとう」

「いえ。では、失礼します」


軽く敬礼をして、城へ戻っていった。


「さあ、夕飯の前に風呂だ」

「お風呂~」「えぇ~」「お腹空いた」

「ほら、競争だ。一番最初に着いた人は、衛士長と一緒に入れるぞ!」

「えぇっ!?」

「よーい、ドン!」

「わぁー」「かけっこだ~」

「待て、こら!」


なんでまた私なんだ!

さ、桜はどうしよう…。

あぁもう!



頭からお湯を掛けてやる。


「ん~」

「気持ち良いか?」

「うん!」

「うぅ…。私の葛葉…」

「美希お姉ちゃん、背中、流してあげるね」

「ああ…。ありがと…」


意外にも、一番だったのは葛葉だった。

…まあ、四本足で走れば、そりゃ速いだろうけど。

本物の狐のように、城の中を疾走していった。


「ねーねー。葛葉も、せなか、流してあげる!」

「ああ。よろしく」

「葛葉ぁ…」

「美希はダメ」

「うぅ…」

「美希には望がいるだろ」

「そうだな…。ありがと、望」

「えへへ。どういたしまして」

「ゴシゴシ」


葛葉は一所懸命に背中を洗ってくれて。

美希には悪いけど、自分が作った規則なんだからな。


「せなか流して、きれいになりましょ」

「お風呂の歌か?」

「うん!」

「私も知ってるよ。葛葉に教えてもらったから」

「へぇ~。葛葉が作ったのか?」

「そうみたい」

「しっぽ、しっぽ。先まできれいに」


背中からいつの間にか尻尾に。

すごく丁寧に洗ってくれている。


「お水を流して、できあがり~」

「ふふふ。ありがとう、葛葉」

「えへへ」


ギュッと抱き締めてやる。

すると、葛葉は嬉しそうに笑ってくれた。


「よし。最後に、湯船に浸かっておこうか」

「うん!」


ペタペタと歩いていき、ゆっくり慎重に入る様子がまた可愛くて。


「はにゃ~…。可愛いなぁ…」

「美希。涎、垂れてるぞ」

「えぇっ!?」

「ふふ、嘘だよ」

「い、紅葉!」


平和な時間が、ゆっくりと流れてゆく。

そういえば、結局桜は私の部屋に置いてきたけど…。

まあ、夕飯の匂いを嗅ぎ付けて起きてくるよな…?


桜は食い意地が張ってるので、きっと起きてくるでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ