表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/578

66

昼ごはんが終わって、再び自由時間。

また森へ探検に出掛ける子もいれば、広場で昼寝をする子もいた。

午前と変わり、美希とユカラが見回りをして、風華と私が広場に残っている。

…結局、私は残るのか。


「ふぁ…あふぅ…」

「葛葉、眠たいの?」

「うん…」

「それじゃ、ゆっくり寝ると良いんだぞ」

「うん…」


葛葉はそのまま横になり、クルリと丸くなって眠る。

ルウェは、葛葉の頭を優しく撫でて。


「ふふ、葛葉のお兄ちゃんみたいだね」

「………。そうだな」

「……?どうしたの?」

「ルウェが男に見えるのかな…って思って」

「え?」

「ルウェは女の子だぞ。外見も喋り方も、たしかに男の子っぽいけど」

「えぇっ!?嘘っ!?」

「ルウェ。ちょっとこっちに来てくれ」

「うん」


トテトテと少し駆け足。

私の前まで来ると、少し首を傾げる。


「どうしたの?」

「ここに来い」


膝を叩くと、嬉しそうに座ってくる。

手を回してそっと抱き締めると、とびきりの笑顔を見せてくれて。


「えへへ」

「ルウェは、どこに住んでるんだ?」

「おばちゃんの家に、お姉ちゃんと一緒に住んでるんだぞ」

「おばちゃん?」

「うん。優しいおばちゃん」

「ほぅ」

「狼の姉さまは、どこに住んでるんだ?」

「オレは、城に住んでる。風華もな」

「城って、市場の向こうにある、あのお城?」

「ああ」

「じゃあじゃあ、狼の姉さまは衛士なのか?」

「ああ」

「もしかして、姉さまも?」

「そうだよ」

「へぇ~。すごいんだな!」

「ルウェも、衛士になりたいか?」

「自分もなれるのか?」

「ああ。なりたい人は誰でもなれる。大事なのは心だ」

「心…」

「とにかく衛士になりたい。ユールオが好き。この国…ルクレィを守りたい。何であれ、強い心があれば出来ないことはないんだ」

「うん」

「ルウェも、強い心を持ってくれるか?」

「うん!」

「よしよし」

「えへへ」


頭を軽く叩いてやると、ニコリと笑ってくれて。


「あ、そうそう。ルウェって、男の子と間違われたりしないのか?」

「うん…。よく間違われるんだぞ…」


少し哀しそうに俯くルウェ。

風華を見てみると、決まりが悪そうな顔をしていた。


「もうちょっと髪を伸ばして、女の子っぽい服装をしてみたらどうだ?」

「女の子っぽい服装?」

「葛葉が着てるみたいなのとか」

「でも、あんな服、持ってないんだぞ…」

「そういえば、ヤーリェもこんなかんじだったよね」

「うん」


ヤーリェは望とどこかに行ったな。

思い返してみれば、たしかに男の子っぽい服装だった気がする。

あまり意識してなかったけど。


「桜に言ったら仕立ててくれるかな」

「うん。いくらでも仕立ててあげるよ」

「えぇっ!?さ、桜!?」

「もう!灯に聞いて、初めて知ったんだよ?なんで、ボクも連れていってくれないのさ!」

「だって…ユカラが、何をしても起きなかったって言ったから…」

「昨日、言ってくれたら起きたよ!」

「ごめんって…」


…言わなくても、朝はちゃんと起きるのが普通だと思うけど。


「猫の姉さまは、寝坊助なのか?」

「ああ。相当な寝坊助だな」

「いろはねぇ!」

「朝、ちゃんと起きないと、ヤンリォに怒られるんだぞ」

「…ヤンリォ?」

「"日の神"ヤンリォ。"月の神"ルィムナの兄だ」

「神様?」

「ああ。知らないか?」

「宗教は興味ないの」

「宗教じゃない。北の国の伝承だ」

「どう違うの?」

「宗教は、人々が信じて初めて成り立つ話。伝承は、実際にあった話だ」

「どういうこと?」

「ヤンリォとルィムナは本当にいたってことでしょ」

「えぇっ!?」

「ああ。まあ、本当に神様というわけじゃなくて、英雄だったりするらしいんだけどな」

「へぇ~」

「でも、あらゆるものに神様が宿っているという考えは、正しいと思う」

「そんな考え方なの?」

「うん!この草にも、地面にも、空気にも、みんなにも。神様が宿ってるんだぞ!」

「みんなにも宿ってるって?」

「桜なら"大地の神"クノが宿っている。"豊作の報せ"クルクスが護獣だろうな」

「クルクス?」

「ああ。黒龍だ」

「へぇ~」

「クルクスは"災厄"とされることもあるけど、それは"確認の時"。災厄を通して、改めて繋がりを確かめさせる…という役割だ」

「狼の姉さま、お姉ちゃんよりよく知ってるんだぞ!」

「好きだからな。こういうことは。昔、勉強したんだよ」

「じゃあ、私は?」

「風華は…"水の神"ルクエンだろうな。護獣は"恵みの雨"ユヌト」

「ユヌトは、白い狼なんだぞ!」

「白い狼かぁ。明日香かな」

「ふふ、そうかもな」


…本当に、ルクエンの遣いだったりして。


「ルクエン…ユヌト…」

「どうした、桜?」

「聞いたことあるな…って思って」

「あ、そういえば…」

「さあ、何なんだろうな」

「姉ちゃん、知ってるの?」

「まあな」

「自分も知ってるんだぞ!」

「えぇ~…。何かな…」


二人は、うんうん唸りながら記憶を手繰ってゆく。

それが面白いらしく、ルウェは笑いをこらえきれないみたいだった。


「ルクエン…。うーん…」

「あっ!」

「え?分かったの?」

「ルクレィ!」

「あぁっ!」

「正解だ。じゃあ、ユヌトは?」

「ユ…ユ、ユールオ?」

「惜しいが違う」

「あっ。もしかして、ヤゥト?」

「当たり!ルクレィとヤゥトは、ルクエンとユヌトから来てるんだぞ!」

「へぇ~」

「あ、そういえば、村長から白き獣の昔話を聞いたことあるよ」

「え?いつ?」

「ずっと前。そのとき、桜はずっと寝てたなぁ」

「やっぱり、猫の姉さまは寝坊助なんだぞ!」

「うぅ…。風華、余計なことは思い出さないでよ…」

「ふふ、残念。記憶力は良い方なんだから」

「むぅ…」


ルクエンとユヌトは、逆に、ルクレィとヤゥトから来たのではないかと言われるくらい、親密な関係だったらしい。

理由はよく分からないんだけど。

北の国の白き獣伝説も、この辺が舞台になっている。

…こうやって、調べれば調べるほど新しい関係が見えてくる。

それが面白いところ、私がのめり込んだところだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ