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「ルウェ、大丈夫?」

「うん…。ちょっとマシになったんだぞ…」

「良かったぁ」


ホッと胸を撫で下ろす女の子。

…広場に着いて、適当な切株にルウェを座らせて様子を見ていた。

一番酷いときと比べると、顔色もだいぶ良くなったかな。


「うえぇ…。やっぱり苦いんだぞ…」

「野草は食べちゃダメって、いつも言ってるでしょ?」

「だって…」

「だってじゃないの!」

「うぅ…」

「ヤーリェって、ルウェのお姉ちゃんみたいだね」

「え…あ…お、お姉ちゃん…。ぼ、ぼくが…」

「うん。お姉ちゃんは、自分のお姉ちゃんなんだぞ」

「ル、ルウェ」


改めてお姉ちゃんだと意識させられて、嬉しいような恥ずかしいような、そんな少しぎこちない笑みを見せる。

耳と尻尾がせわしなく動いているのが可愛くて。

それにしても、本当にヤーリェとはな。

"月"と"太陽"か。

良い組み合わせだ。


「うーん…。これ、いつまで噛んでれば良いの?」

「さあな。でも、いちおう風華が戻ってくるまで噛んでおけ」

「はぁ…。姉さま、早く戻ってこないかな…」


まだ大量に残っている薬草を見て、ため息をつく。

…自業自得とはいえ、少し可哀想かな。

手近にあった野草を一握りほど摘んで、ルウェに渡す。


「これと一緒に噛んでみろ」

「何、これ?」

「名前は知らないけどな。不思議な草だ」

「ふぅん…」


匂いを嗅いで、確かめるようにペロリと舐める。


「甘い!」

「え?ホント?」

「お姉ちゃんと望も、食べてみて!」

「う、うん」


二人はルウェから草を受け取り、口に含む。


「……?」「甘くはないね…」

「ふふふ。それは、苦味を甘味に変える草。苦味がなければ、ただの草だ」

「えぇ~…」「なぁんだ…」

「じゃあ、苦い草、食べるか?」

「「それは嫌」」

「えぇ~…」

「ふふふ。結局、苦い思いをしたのはルウェだけだったな」

「むぅ…」


でも、苦味が甘味に変わる不思議な体験をしたのもルウェだけだ。

その点では得をしたのかもな。

何が良かった、あるいは、悪かったかなんて、捉え方次第だ。

ルウェは、毒草を食べて腹を壊し、苦い薬草を食べる羽目になったが、そのお陰で、なかなか味わえない体験をすることが出来た。

それに、下手に野草に手を出してはいけないことも学べた。


「ん~。甘い~」

「でも、本当は苦いんだからね」

「えへへ」


そういった経験が、今後のルウェのためになるんだろう。

気付かないうちに、みんな、こうやって成長していくんだな。



説明が終わり、二班ともほとんど同時に広場へ着いた。


「よーし。さっきの場所はちゃんと覚えてるな?」

「うん」「覚えてる~」

「そこには絶対に行かないこと。約束出来るか?」

「は~い」「出来る」

「じゃあ、今から自由時間だ。昼ごはんとか、緊急のときは、この笛を鳴らす。聴こえたらすぐに集合すること。来なかったら、探しにいくことになるから。分かったか?」

「分かった~」「うん!」

「何か危ない状況になったら、さっき渡した笛をすぐに吹くこと。みんな、持ってるな?」

「これ?」「持ってるよ」

「よし。あぁ、それと、お腹が空いたからといって、その辺の草とか木の実とかは食べるなよ。ちゃんとごはんは用意してあるから。じゃあ、解散!」


美希の号令と共に、子供たちはそれぞれ思い思いの方向へ散っていった。

みんな、しっかり楽しんでこいよ。



美希と風華は見回りに。

広場にいるのは、ルウェとヤーリェ。

日向ぼっこを始めた光と葛葉。

あと、私とユカラ。

ユカラは、ポカポカと暖かそうに眠る光と葛葉の横に寝転んで、ジッと空を見ている。


「いつも思うんだ」

「何を?」

「あたしは誰なんだろって」

「ユカラはユカラだろ。他に何があるんだ」

「分からない。でも、ずっと遠くの方に、あたしと違うあたしがいるような気がして」


手を上に伸ばし、何もない空中から青龍刀を取り出す。


「こんな能力のない、普通の女の子としての」


クルリと回すと、青龍刀は跡形もなく消えてしまう。

そのあとも、身体を起こして、武器を出しては消しを繰り返して。

たしかに、不思議な能力だ。

でも…


「その能力の有無に関わらず、ユカラはユカラだ。普通の女の子」

「うん。ありがと」


ニコリと笑ってみせるが、やっぱりどこか哀しげで。


「あたしの身体から、たくさんの術式の波長が感じられるんだって。響が言ってたんだけど。転移、探知、召致、再生…」


術式。

風華も使っていた、あの力か。

あれは何なんだ?

雨を降らせたり、傷を治したり…。


「同時にたくさんの術式を維持するには、相当な力がいるんだって。響が全く無駄な術式は取り除いてくれたみたいだけど。でも、この"召致"みたいな大きな術式は、均衡が崩れるからダメだって言ってた」

「ふぅん…」

「あたしにも分からないけど。そういうことなんだって」


四分の一も理解出来たとは思えない。

そもそも術式という力のことも、にわかに信じがたいと思っているくらいなのに、それ以上のことを理解するのは大変に難しい。


「桜には裁縫を教えてもらってるし、風華には医道を。ここに来てから、みんなにいろんなことを教えてもらってる」

「………」


でも、今は理解うんぬんの話じゃない。

それ以前に、術式なんて全く関係のないことだ。


「けどね、あたし、思うんだ。人形が人間の真似事をしてるだけなんじゃないかって。実験のために作られた人形が、たまたま偶然幸せを手に入れて。人間になったつもりで、必死に幸せにすがってる」

「………」

「人形のあたしには、分不相応の幸せなのかな。あたしがあたしじゃなくて、別の誰かだったなら、この幸せに甘えても良かったのかな…」

「ユカラ」

「姉ちゃん…。あたし…怖いよ…。この幸せは、別の誰かの幸せだったの…?あたしは、それを奪っちゃったの…?」

「ユカラ」


いつの間にかユカラの頬を伝っていた涙を拭いてやり、そっと抱き締める。


「ユカラの幸せはユカラのものだ。誰のものでもない。それに、ユカラは人形なんかじゃない。誰それに作られたとか、どういう目的で以て生まれたとか。そんなことは問題にならない。こうやって、今を生きている。それだけで良いんじゃないのか?」

「………」

「そうやって考え、傷付き、涙を流すやつが人形なのか?こんなにも温かいのに人形なのか?…私の可愛い妹のユカラは、人形だったのか?」

「姉ちゃぁん…」

「不安になったら独りで考え込むな。私がいる。桜も風華もいる。たくさんの家族がいる」

「うっ…うぅ…」

「みんな、ユカラのことを想ってくれてるから、な?」

「うん…うん…」


泣き虫ユカラは、また泣いた。

その涙は、やっぱり温かいもので。

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