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「風華ちゃん。どこに行くの?」
「あ、涼さん。森まで遠足ですよ」
「へぇ~、遠足」
「哲も、えんそく、いきたい!」
「…風華ちゃん」
「良いですよ。断る理由もないし。ね?姉ちゃん」
「ああ。どうせ、こんなにいるんだし、一人二人増えたところで変わらない」
「ごめんね。…哲也。良い子にしてないとダメだよ」
「うん!」
「あ、お弁当とかいるよね?」
「大丈夫ですよ。いっぱい作ってきてますから」
「そう?ごめんね」
「いえいえ」
「母ちゃん、いってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」
哲也は、先行してるユカラと美希の集団まで走っていって。
「じゃあ、お願いね。言うこと聞かなかったら、遠慮なく殴ってちょうだいね」
「はは…そうします…。では、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そして、風華は後続の集団をまとめあげて出発する。
「で、どうしたの?紅葉ちゃん?」
「お腹の方は大丈夫なのかと思ってな」
「ふふ、ありがと。順調みたいよ」
「そうか。それは良かった」
「うん。ありがとね。…紅葉ちゃんはどうなの?」
「な、何が」
「前に来たときより、もっと可愛くなったな~って思って」
「なっ!」
「ふふ、冗談よ。ほら、置いていかれるよ」
「あ、ああ…」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます…」
涼には隠し事は出来ないんだろうな…。
でも、それは良いこと。
自分に嘘をつかなくて良いってことだから。
「姉ちゃん、どうしたの?」
「内緒だ」
「えぇ~」
もちろん、嘘をつく必要はないんだけど。
でも、人間なら誰しも、隠しておきたいことのひとつやふたつはある。
…それを包み隠さずに話せる相手も、一人や二人いても良いんじゃないだろうか。
「風華も、だな」
「何が?」
「隠さない相手」
「……?」
涼や風華だけでなく、私にはたくさんいる。
ありがたいことだ。
この繋がり、大切にしないとな。
街を抜けて、そんなに歩かずに森へ到着。
先行組の美希とユカラ、子供たち九人が入口で待っていた。
「お待たせ」
「全員揃ってるか?」
「んー、うん。いるよ」
「よし。じゃあ、今からこの森に入る。私と風華が、危険な場所、行ってはいけない場所を説明していくから、そこには絶対に行くな。分かったな」
「うん」「はい」「分かった」
「じゃあ、この班のまま行こっか。はい、集まって~」
「広場に集合だよね」
「うん」
「よし、行こう」
美希とユカラの班が森へ入っていく。
「私たちも行こ」
「ああ」
残りの八人を引き連れて、森へ…
「ん?」
「どうしたの?」
「二人、増えてないか?」
「んー、そうだね。でもまあ、良いんじゃない?」
「そうだけど…」
あの子と、この子。
響や光くらいの歳かと思うあの子は望と楽しそうに話していて、葛葉くらいのこの子は私のことをジッと見ている。
…何なんだろ。
なんか、ちょっと居心地悪いな…。
そんなことを考えているうちに、最初の目的地に。
「ここから向こうは危ないよ。絶対に行っちゃダメ」
「なんで危ないの?」
「熊の住処が近いからね」
「なんで知ってるの?」
「ヤゥトでそういうのは調べてあるんだ。この森も生活の一部だからね」
「へぇ~」
「とにかく、来ちゃダメだからね」
「は~い」
そして、次の場所へ。
…さっきの子は、いつの間にかすぐ傍まで来ていた。
「狼の姉さま」
「…ん?オレか?」
「うん」
予想外にも、向こうから話しかけてきて。
蒼い目は、真っ直ぐ私の目を見詰めている。
「狼の姉さま…」
「どうした?」
「むぅ…」
「ん?」
「お腹…痛い…」
「何か食べたのか?」
「お腹空いたから、生えてた草…」
「拾い食いはするなって言ってたんだけどな…。最初からいなかったから聞いてなかったのか…。いつ食べたんだ」
「ユールオ出て、すぐなんだぞ…」
「はぁ…。風華!」
「ん?」
「この子がお腹痛いって」
「えぇっ!?なんで?」
「街を出てすぐのところで拾い食いをしたんだとさ」
「もう…。何を食べたの?」
「草…」
「どんな?」
「スクン…」
「あぁ…。カルトレと間違えたんだね…。えっと…」
風華は周りを見回す。
そして、すぐに目的のものを見つけたらしい。
木の根元に生えていた草を摘んで持ってくる。
「これ。よく噛んで」
「うん…」
渡された草を一噛み。
「うえぇ…」
「苦くても食べる」
「うぅ…」
「大丈夫?」「拾い食いしちゃダメって、衛士長が言ってたのに…」
「ルウェ!ルウェ、大丈夫?」
「うん…」
みんなが心配する中、特に心配そうにしていたのは、望と話していた子。
オロオロとして、落ち着く様子がない。
「風華。この草を噛ませておけば良いのか?」
「うん。それで大丈夫」
「じゃあ、集合場所の広場ってところを教えてくれ。ルウェと一緒に行ってるよ。風華は、説明の続きに行ってくれ」
「あ、うん。分かった」
そして、広場までの道を教えてもらい、ルウェを連れて向かう。
「風華の説明、聞かなくて良いのか?」
「ルウェの方が心配」
「望も~」
「そうか」
黒狼の二人も連れて。
…この子たちは誰なんだろうな。
ルウェ。
昨日、美希からも聞いた名前。
まあ、あれは"月の使者"としてのルウェなんだけどな。
もしかすると、こっちの子は"日の御子"ヤーリェだったりするのかな…。
まあ、あとで聞いてみるか。