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「おきて~」
「ん…?」
「早くおきないと、おくれるよ~」
…何に遅れるんだろう?
とりあえず、葛葉を横によけて、身体を起こす。
「早く~」
「何があるんだ?」
「えっと、えんそく」
「はぁ?遠足?なんで?」
「しらない」
とにかく早く起きろと言わんばかりに腕を引く葛葉。
分かった、分かったから…。
布団を抜け出して、大きく伸びをする。
それにしても、なんで遠足?
いつ決まったんだろ…。
そういえば、私と葛葉以外、部屋には誰もいないし…。
帯を締めなおして、葛葉の手を取る。
「よし。行こう」
「うん!ちゅうぼう、だよ!」
「厨房だな」
弁当でも作るんだろうか。
まあ、厨房に行けば分かることだ。
「髪、ボサボサだぞ」
「えへへ」
ボサボサだと言われて、なぜか嬉しそうに笑う葛葉。
手櫛で、ある程度整えてやる。
「しかし、なんでまた遠足なんか…」
「ん~」
「よしよし。葛葉は可愛いな」
「えへへ」
ホントに、どこに行くんだろ。
ていうか、私も行かないといけないのか?
そんなことを考えている間に、厨房に到着。
「お母さん!」
「あ。おはよ、姉ちゃん」
「おはよう。遠足って何なんだ?」
「遠くにみんなでお出掛けすることだよ」
「それくらい知ってる」
「あぁ、もう葛葉に聞いちゃったんだ。日帰りでね。ちょっと遠くに行こうかって話をしてたんだ。昨日、ユカラと」
「ふぅん」
「それを子供たちが聞きつけて、行きたい行きたいって言うから、香具夜に相談したら、行ってきなさいって」
「ほぅ」
「それで、親たちにも相談したら、よろしくお願いしますって任されたから、もう、今日すぐに行くことにしたの」
「ふむ」
「姉ちゃんに報せなかったのは、びっくりさせようと思ったから。忘れてたわけじゃないよ」
「だいたいは分かった」
「分からなかったのは?」
「どこに行くんだ?なんで、オレが呼ばれた?」
「ユールオとヤゥトの間の森に行くの。近いし、私もよく知ってるし。姉ちゃんを呼んだのは、保護者として同伴してもらうため。私とユカラ、美希だけじゃ不安だし」
「美希も行くのか」
「当番が決まるまでは非番なんだって」
「ふぅん」
毎日非番みたいな私って何なんだろ。
衛士長なのに。
そりゃ、侵入者がないようにピリピリすることもなくなったし、戦闘班への新規参入もないし、班としての出動もないし、目の都合で夜勤組にも参加出来ないし、その他の仕事もみんなよくやってくれてるから、やることがないと言えばそれまでなんだけど。
…衛士長って何なんだろ。
「ほら。お弁当の中身は美希が作ってくれたから。一緒に詰めよ?」
「うん…」
「どうしたの?」
「いや…」
「……?」
はぁ…。
なんか、自信なくした…。
弁当の用意を済ませ、一旦部屋に戻って私服に着替え、いざ広場へ。
「良い天気だな」
「うん」
空はどこまでも蒼で、雲ひとつなかった。
「あ。やっと来た」
「お母さん、お姉ちゃん、早く~」
「分かってる」
広場の真ん中に集められた子供は十四人。
四人は自前のチビだから、十人が代表たちの子供なんだろう。
「ほら、注目。今から、注意事項をいくつか言うから」
「どこに行くのかな」「楽しみだね~」
「注目、注目~」
「ふぁ…まだ眠たい~…」「昨日、遅くまで起きてるからだよ」
「注目!喋ったやつは置いていくぞ!」
「「「………」」」
………。
美希、すごい迫力だな。
「よし。じゃあ、衛士長、どうぞ」
「え?オレか?」
「他に衛士長はいないだろ」
「そうだけど…」
無茶振りにもほどがあるぞ…。
「あー、えっと、オレたちの言うことはちゃんと聞くこと。怪我をしないこと。仲良くすること。拾い食いはしない…」
「誰がそんなことするのよ…」
「あー、それと、思いっきり楽しむこと。分かったか?」
「うん!」「分かった~」「は~い」
「じゃあ、出発進行!」
「「「おぉーっ!」」」
さあ、楽しい遠足への第一歩を…
「セトはお留守番!」
「グルル…」
「そんなこと言ってもダメ。だいたい、森の中で何が出来るのよ」
「オォン…」
「ね?良い子だから。あ、そうだ。お土産、たくさん持って帰ってきてあげるから」
「………」
「うん。良い子良い子」
「ゥルル…」
風華に撫でられて、気持ち良さそうに目を細める。
…まるで大きな子供だな。
「じゃあ、行ってくるね。ちゃんとお留守番しといてよ」
「ゥルル…」
「お姉ちゃん、風華、置いて行っちゃうよ!」
「あ、今行く~。姉ちゃん、行こ」
「ああ」
セトに見送られ、城を出る。
急でびっくりしたけど、今ではすごく楽しみ。
みんなが、また行きたいと思えるような一日になりますように…。
「明日香もお留守番!」
「クゥン…」
…あの二人にも、何か良いことがありますように。